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CMナレーションの今、すべて。

私たちが広告物を目にしない日はない。テレビ、ラジオ、雑誌、新聞といった4大マスメディアはもちろん、Twitter・Instagram・Youtube等のSNSでも強制的に目の前に現れる広告を多く見かけるようになった。娯楽とセットになることの多い広告物だが、しばしば娯楽以上の予算と人手を注ぎ込まれて制作される。そこには広告主の存在が大きい。そんな独特なCM業界」で求められるナレーションは、番組や企業内動画でのナレーションと、どんな点が違うのだろう。

今回はコマーシャルの仕事に長年携わる、広告の企画・演出・コミュニケーションデザイン(消費者の共感性や購買意欲に働きかける仕掛け)を行う上野アキトさんに「CMナレーションの今、すべて。」をテーマにお話を伺う。そこには特殊なCM業界ならではの、知らなければ対応できないルールや作法があった。

上野アキト(うえの・アキト)/株式会社modoc所属。広告映像の企画と演出を中心に活動。 映像を中心に、広告キャンペーン全体の企画、web施策なども手掛けつつ、アニメーション、エンターテインメントコンテンツの企画や演出にも参加している。 《主なCMクライアント》 リクルート/ソニー/ネスレ/コカ・コーラ/他


上野さんのプロフィールを教えて下さい


育ちは東北です。雪ばかりの町でした。高校生の頃はスチールカメラマンやフォトグラファー志望だったので、大学は日本大学芸術学部写真学科へ進学。大学3年目までは割と真面目に写真を学んでいましたが、4年目からは「自分に写真を一生の仕事にする才能はないな」と思うように。軽く絶望しました。

一方で、大学在学中にショートムービー、テレビ、CMなどを撮影する映像の現場にアルバイトとして出入りするようになります。そこで経験した映像作りに、自分としては写真よりも可能性を感じました。CMの現場を経験してからは特に「コマーシャル制作に関わりたい」と強く思うようになり、卒業してからはCM制作プロダクションへ就職します。

当たり前ですが、新人は撮影や編集をいきなり任せてもらえません。まずは「プロダクション・マネージャー・アシスタント」という、テレビADさんなども行う、調査や段取り中心の「制作進行」という業務をします。「プロデューサー」の下に「プロダクション・マネージャー(制作)」がいて、「プロダクション・マネージャー・アシスタント(制作助手)」はさらにその下です。

本来は業務が異なるのでプロデューサーと制作は並列ですが、経験や立場上ヒエラルキーがあります。いずれはプロデューサーやディレクターなどにステップアップしていきます…お恥ずかしい話なのですが、僕は大学卒業後2社のプロダクションに勤め、どちらも1年も経たずにドロップアウトしています。

とにかく制作の仕事はハードで。帰れない、眠れない、風呂に入れないのはザラ。今思えばパワハラ・セクハラ・アルハラなども酷くて、本当に辛かったです。時代かもしれませんが。フィジカルもメンタルも弱かったのだろうと思います。この業界ではやっていけないと思いました。でも、なぜか3社目、またCMプロダクションに入社してしまって(笑)そこで働いたことが、僕の転機になりました。


3つ目の会社は人数も多く、一人にそこまで仕事が集中しない環境でしたし、僕も開き直って意思表示をするようになりました。無言で限界まで堪える様な働き方をやめ、「無理です」と言うように。…言っても別に怒られたり見放されたり、なんてことはなかったです。もしかしたら、1社目も、2社目も、それが言えたら良かったのかな…と。

3社目には10年くらい在籍し、プロダクション・マネージャーを経て企画演出部に所属。CMのプランニング(広告の内容・表現立案)、ディレクション(広告の演出)を経験できました。これが今の仕事の根幹になります。

今はコマーシャル全般の企画・演出・制作業務をメインに請け負っています。エンタメのお仕事も最近はご相談頂けるようになりました。世の中に演出家(ディレクター)はどんどん増えてきていて、僕もその一人でしかありませんが、「上野と仕事をして驚きがあるのは企画だ!」とよく言ってもらえます。プランナーとしてアイデアを考えたり提案したりすることがすごく楽しいし、これは自分の強みだと思っています。

手掛ける広告物は、映像はもちろん、音声コンテンツ、グラフィック、WEBサイトの企画など多岐にわたります。だから僕は「CM監督」とか「映像作家」などの肩書は使わず「広告の企画・演出・コミュニケーションデザインをしています」と自己紹介します。そのうち「広告」も外れるかもしれません。


「CMは潤沢な予算がある」というイメージはどこまで本当ですか


本当かどうか。という話であれば、「昔は本当だった」ですかね。広告予算(制作費)は、全体で考えると、多分全盛期の10分の1位になってしまっていると思います。必然的に、スタッフのギャランティは昔と比べてめちゃくちゃ下がりました。職種によっては全盛期の半分〜3分の1くらいに減った人もいます。これは広告の予算がそのまま影響しているので。ディレクターなどの価値が落ちたわけではないのですが…ナレーターさんも同様です。

当時CM業界のナレーターさんのギャランティは安くても1クール20万〜。それ以上なら100万円超えは珍しく無かったですし、300万超えの人もいました。今も予算がある仕事では契約期間によって100万以上のギャランティもあるかと。でも安いと3万〜という時がある。広告案件ではないと思いますが、数百円のお仕事もあると聞いて驚きました。僕も作業量次第ですが企画も演出も、ギャランティが一桁違うときがあります。お仕事の多様化によって案件ごとに顕著な差が出てきた、というのも大きいところかと思います。

「一人が安く請け負うと業界の価格水準が狂う」と聞くこともありますが、これだけ仕事が多様化していて、過去を水準に据え続けるのもどうかと思います。僕はギャラが安くても引き受けること、ままあります。実績や関係値等は、昔よりむしろ価値があると思うので。お金以外の何を対価として捉えるか、というところは、今すごく広がったと思います。

先程も言いましたが、ディレクターも、たぶんナレーターさんも、なり手がめちゃくちゃ増えているんですよ。その中で「金額的な面でもお願いしやすい人」の方が、相談が来やすいので仕事が決まりやすい。価格設定は仕事をとるための個人の努力ですので、安く請ける方がいても咎めるべきじゃないと思います。あくまでいち要素ですし。

でも、後々自分が価格設定を上げたとき、それでも依頼が来続けるような実績を残したり、また頼みたいと思われるようなお仕事の進め方をして、お客さんを掴んでおくべきだとは思います。


ナレーターがCMのお仕事を発注されるためにはどうすればいいでしょう


①サンプルに加えて「仮読み」をする

昔の録音機材は高価で業界人以外の人が手を出せなかったけど、今はスマートフォンがあります。PCもあるし、音質を問わなければ自宅ですぐに声が録音できる。特にここ数年のコロナ禍においては、俳優さんたちにスマホでご自宅にてお芝居を撮影した動画を送ってもらい、選考する「ビデオオーディション」がよくありました。全く同じ流れで、ナレーターさんも前原稿・仮原稿を読んだ声(仮読み)を送ってもらって、聴き比べながら判断するパターンが増えました。

今後のCM業界において、ボイスサンプルだけで決めるのは稀有なケースになっていく…と思います。サンプルに加えて仮読みをして、俳優さんと同じスタートラインと言えるのかも。クライアントさんは「昔からのやり方」なんて関係無いですからね。

今後クライアントさんは「どうしてスマホで録れるのにこの人はサンプルだけなんだろう?」と、思うのではないでしょうか。サンプルだけだと仮読みより具体的なイメージがしづらくて、選外になることも増えてくるかと。この状況は、良いことだと、僕は思います。資料だけではなく、今の技量で選考に参加できるわけですから。

②キャスティングする人と繋がりを持つ

お仕事を得ていくには…やはり今も大手事務所に入ることが仕事獲得の一番の近道だと思います。ただ、事務所さんも所属の方に仮読みをしてもらって選考に出す形になる様に思います。

つまり仮読みができるナレーターさんはフリーの方でも声がかかるようになる、と考えます。「ボイスサンプルに加え前原稿の読みで判断」は選考のスタンダードになっていくのでは。

その選考の場にフリーで関わるためには、業界で信用されている優秀なキャスティングさんと繋がることなんかが大事なんじゃないでしょうか。プロデューサーさん、ディレクターさんももちろんありかと。その人がおすすめできる実力は必要ですが。

事務所さんによっては、案件次第で所属者に限らずフリーの方を選考にキャスティングするところもありますから、そこに自分から扱ってもらえる様に打診してみてはどうでしょう。自分から動かないと基本的には何も広がらないし、進まないと思います。

③営業活動はタイミングを図りつつ積極的に

ここまでお話したように、ナレーターさんのCM案件獲得のチャンスは事務所の有無を問わず広がっていると考えています。だから「営業活動」は積極的にやった方がいいと思いますが、タイミングは大切かなと。

広告業界だと、広告主さんが年度末までに広告予算を全部使い切る形になることが多いので、プロダクションさんは4月頭から制作業務が落ち着き、1ヶ月くらいは実制作が減り、時間的余裕が生まれます。細かく分けると4半期ごとにちょっとした「凪」が来ていると思います。

そういう、制作会社に余裕があるタイミングに企画や営業を仕掛ける事務所さんは結構ありました。あとはテレビのプロデューサーさんから聞いた話で、ナレーターさんは番組改編期のちょっと前にディレクターさんや構成作家さん、プロデューサーさんに声をかけるといい…らしいです。番組が変わる少し前の時期に、次の番組のことを考え始め、新しい声を欲しがっている時だからと。ご参考までに。

人を頼らない方法で言えば、自分でフォロワーを増やしてがSNSで有名になるのもいいかもしれません。選考時にフォロワー数などは見られます。大きい媒体で仕事をして名前を売るとかもあるのかもしれません。

ただSNS活動で注意してほしいのは、方向性が絞られないようにすること。CMのイメージを損なう可能性があるので、尖りすぎない方がいい。発言に気をつけるべきだし、自身の見せ方も気にするべきです。やるなら営業に特化した頭で運用したほうがいいと思います。日常の投稿をしてはいけない、というわけではないですが、内容は精査したほうがいいかと。観ている人が全員、仕事におけるお客さんだと思って使うほうが、リスクは下がるかと思います。

最近、プロダクションも代理店さんも、クライアントさんも、選考でナレーターさんの名前が出た時点で一度検索をしていると思います。調べた時に趣味や自論に特化したTwitterアカウントが出てきちゃうと、「ウチの仕事に興味持ってくれるかな?」とか一瞬考えてしまう。ツイート内容も読みます。目で見て入る情報はわかりやすいので、そこで判断されてしまうことがあります。角が立たず魅力的に見える発信を意識してみてほしいです。

予算のある案件だと、ナレーターさんにナレーション以外の価値、例えば知名度や発信力を求める場合があります。CM自体の価値を高めるために、著名な俳優さん・芸人さん・声優さんが起用される、というケースです。この際に「フォロワー数」がキーになることがあります。こういった考えも近年増えてきたなと思いますが、広告は見られなければ意味がないので。発信力もある側面では重視されます。

その一方で、「伝えたいメッセージにその声が合っているか」かどうかが知名度や発信力を覆すこともあります。CMのキャスティングは、話題性を目的にしていなければ基本的に「メッセージとの相性・技術」の勝負です。これがハマれば実績より重視されます。狭き門ですが、新人ナレーターさんにとっては活躍の場を広げるきっかけになるかもしれません。


ナレーターの選考はどのように行われますか


まず声質で絞り込み、次は表現の幅や対応力がどれくらいあるかで比較します。ドラマ出演や演劇の経験がある方は、ナレーションのオーディションであっても実績に書いた方がいいかと。これも「幅」の判断材料になります。

声優さんがナレーターとして起用されるのは、知名度はもちろん芝居的な表現の幅があるからかと。とはいえ声優さんの活躍の場と言えば「アニメ」のイメージがあります。キャラクターのお芝居が強すぎるという懸念が出る場合もありますから、ナチュラルな読みができるナレーターさんが有利なこともあります。もうそれは肩書と言うより、個人レベルの技量や幅の話になりますけど…

僕は本質的に声優さんもナレーターさんも、案件の種類、立ち位置が少し異なるだけで、根本は同じお仕事をしていると思っています。なので区別して語るのは野暮かもしれません。そういう意味ではナレーターさんも、どんどん声でのお芝居を研究したほうがいいと思います。

ちなみに「研究」ですが、CMでもアニメでも番組でも吹き替えでも「映像」ばかり見て、声ばかり聞いていたら、ただの形態模写や声真似になってしまうかもしれません。

ニュースを見る、舞台を観劇する、いろんな言葉を生み出せるよう本を読む、美しい風景と出会って自分の中にない感情に気づく。そういう「ズラした」研究も良いかと思います。僕もよくやっています。色々な角度からのインプットを自分の手法でアウトプットできる、これは表現者としてもCMナレーターさんとしても、伸ばすべきスキルかと思います。


ボイスサンプルや仮読みはどんな点に注意して聞いてらっしゃいますか


ボイスサンプルはナレーターにとって「営業ツール」だと僕は思っています。取りたいお仕事が明確なら、そのお仕事に合わせた一点突破型のサンプルを作られても良いんですが、色々な仕事をやりたいのなら、声のバリエーションは多い方がいい。

特にCMにおいてはバリエーション豊富なサンプルがあれば、「声質は合っている。サンプルに企画とハマっているお芝居はないけど、これだけ幅があるなら…」と決まることもよくあります。前述した仮読みが出来れば更に確度上がるとは思いますが。

例えば一点突破と言っても「全部が車のCM」だと魅力的に聞こえないケースもあります。車のCMをやりたい気持ちが入りすぎてしまって、クライアントさんとの良い距離感を保っていただけるか、モチベーションは維持してもらえるか、制作陣が不安になる。なるべくサンプル内では商材を変えて、ご自分の出せるトーンに合わせて魅力的に聞こえるよう工夫しましょう。「車のCM」を狙う一点突破なら「車」「飛行機」「運送」「デリバリー」の4本など、乗り物を変えるとか、乗り物が関わる企業さんに変えるとか、少し違いを出すといいかもしれません。

自分のサンプルを客観的に捉えるには、良いと思う、やりたいと思うCMを原稿に書き起こして、自分で読んでから元のナレーションと聴き比べる方法があります。その時にはサンプルと元CMとを誰かに聴き比べてもらうのが一番いいです。聴いてみてどう感じたかは、とても参考になるはずです。ナレーター仲間だとはっきり言えないこともあるでしょうから、家族や友達でもいいかと思います。

ターゲティングされたweb広告動画などは別として、最終的にCMに触れるのは、そのほとんどが「ナレーションやCM業界、その商品やサービスのことを知らないし興味もない人」だと考えていいかと。広告主さんも代理店さんも、「この人の声が、”知らないし興味もない人”に届いた時、どうだろう?」と考えながら聞いています。なので、同じような感覚の人たちに客観的な意見をもらうと、すごく参考になると思います。


一緒に仕事がしたいナレーターの特徴はありますか


①能動的な仕事をする人

まず仮読みをガンガンやってくれる人。そして演者というよりも一連の「広告作り」の仕事を理解し、一緒にやりたいと言ってくれる人。お客さんと対峙した初っ端の説明時に、ブースじゃなくてすぐ側にいてくれるイメージでしょうか。僕はナレーターさんに対し、「演者」というより「声の技術スタッフ」という認識を持っています。僕は「広告演出の技術スタッフ」なので、同列にいると思っているんです。

ナレーション原稿に対して忌憚のない意見が欲しいですし、可能なら読みでアイデアも出してほしい。僕はそういう事をネガティブに捉えません。むしろ「作ろうとしてる広告のことをちゃんと考えているから、そう言ってくれているのだ」と嬉しくなりますし、テンションも上がります。

ナレーターさんのことを、ただ原稿を読む、「声を出す人」なのではなく、「企画の意図を声(音)に変換する人」だと僕は思っています。

なので「何のために読むか?」考えてくれる方とはお仕事をずっとしたいと思います。キャリアの長いナレーターさんや仕事が途絶えない方は、ほぼほぼ皆さん、現場でそういう意識を感じます。声に出す時間よりも原稿を読んでる時間が圧倒的に長い。打ち合わせも求められます。「読み方」の話ではなく「このセンテンスで何を伝えるか」といった話を細かく行います。視点が実に制作サイドで、時にナレーターさんならではの視点でご意見を頂けたりします。ありがたいです。

これらを踏まえると、選考時の仮読みがあった場合などは、絶対その企業やサービスのことを調べるべきです。どんな企業なのか、過去にどんなCMを作ったのか。自分がクライアントの中の人になったつもりで読めば、それだけで印象は変わるはず。

ナレーターは最終的にCMを通して、視聴者や聴衆者と対話をする仕事だと思います。広告を受け取った人に何を届けたいのか。じわっと沁みる感動なのか、すげー!って驚きなのか。商品名や企業名はそれによって残るのか。

最終的に対峙する聞き手のことを考えてナレーションしてほしいです。広告ナレーションのゴールは、素晴らしい表現をすることではなく、そのナレーションを聞いた人が行動を起こすこと。かっこいいとか、面白いとか、艶があるだとか、それだけではダメだと思います。何を伝えるためにそのお声(読み)なのか?をぜひ意識してください。

スタッフは皆、クライアントと同じ熱量でプロダクトやサービスに接します。買えるものは買いますし、ゲームなら遊びます。食べ物なら食べます。ナレーターさんにそこまでしてほしいわけではないですが、「自分が何のために読むのか」をぜひ積極的に知ってほしいです。

ただこれは僕のようなディレクターはじめ、スタッフ側が本来しっかり説明すべきこと。足りていない時もままあるのが、現状ですが…。

とはいえ、語ってきたような考えがCM作りのベースにありますので、心に留めておいていただけるとうれしいです。


②表現力と理解力がある人

演出的に、と言っても僕の場合ですが、現場で助かるのはジャンル問わず対応できる幅広い表現力がある方や、お芝居的な言語をある程度理解できる方です。

と言うのも、僕の演出時には、話した通り、「広告を受け取った人がどう思うか」で伝えることが多いのです。「聞いた人がちょっと不安な気持ちになる感じ(読み)で。でも、恐怖ではないんですよ。」「ここはちょっと不安になった人の気持ちが軽くなって救われるような、最後にうつむいていた顔を、少し上げられるような読みで。」とか。

こういう演出をしていると、後ろにいるクライアントさんたちにも分かりやすく、演出意図が伝わります。その演出をどう受け取って、どんなトーンで切り替えて読むのかはナレーターさんの技術の問題や相性です。もちろん伝わらなければ別の言葉や手法で伝えます。僕のセンスが微妙な時も往々にしてあります。

演出との相性は収録に大きな影響がありますが、やっぱり共感や理解が早い方は助かります。

コミュニケーションが上手くいっている現場だと、クライアントさんから「またあの方で」とリピートもありますし、プロデューサーさんが別のお仕事にも推薦してくれたり、僕も他の案件で声をかけたりします。案件継続に一番効果的で、新規の営業にもなるのは、やはり現場かと。


最後に「プロの表現者」とはどんな人だと思われますか


僕の認識ですが、「ずっと仕事が来続ける人」です。僕たちはアーティストじゃないので、求められてこそ自身に価値が生まれます。仕事が来て、初めて誰かの役に立てる職種です。(ご自身の創作活動は別ですが)

テクニックや知見を持っていても、活かすところがなければ宝の持ち腐れです。

僕のようなディレクターもカメラマンさんもナレーターさんも、自分がその職種を名乗っている限り、依頼が来続ける人、求められ続ける人こそ、本物のプロじゃないでしょうか。僕はそう思っています。

CM業界に入りたての頃は「才能=海外の広告賞をとる、または業界で有名になる」だと思っていました。ところが僕は早々に「自分にはそこまで行ける才能がない」と気づきました。自分を客観視する才能はあったんですね(笑)この時は本気で絶望しました。

いわゆる「スターディレクター」になるには才能も、多分、運とか、つながりとかも足りない。それでもこの仕事は続けていきたい。考えた後、僕は「最後のディレクター」になりたいと思うようになりました。

先輩方や同世代の著名なディレクターが皆引退したりお仕事を変えても、自分は、「仕事が来ている」からディレクターを続けている。求められ続けている。そういうディレクターです。それになれたかどうかは、最後の最後までわからないと思います。でも当時の僕には、これからもこの仕事を続けていくための、唯一でもっとも大切なモチベーションでした。今も変わっていません。

言葉にする時は「オンリーワン、ナンバーワンではなくラストワンになりたい。」と、いつも言っています。自分の意思でこの仕事を辞める時まで、続けていきたい。ずっと求められる、ご相談いただけるディレクターでありたいです。

最終的に自分のことをディレクターという肩書で呼んじゃっていますが、そこはわかりやすさということでお許しください。そしてこのインタビューは、大部分が僕個人の経験と私見によるものです。正解と断言できるものは、ありません。あくまで、広告業界のいちディレクターによるいち意見ということで。改めて、ご参考までに。

そんなCM業界に長く在籍する僕、上野アキトが7月20日から狛江市のコミュニティFMコマラジでレギュラー番組を持つことになりました。「コマコマ-コマラジからコマーシャルメッセージ-と題した、「トークとプロモーション(広告)バラエティ」ラジオ番組です。

毎週木曜日23〜24時の放送で、世の中に何かを広く告げたい方、お便りやゲスト出演など現在大募集中です。特に広告する情報がない時は1時間独り言を喋ることになるので、ぜひ気軽に公式アカウントのフォローやDMを送ってください。放送中は#kmcmでの感想ツイートもお願いします!

これからもHITOCOEではナレーターに特化した上質な記事を連載予定です。今回の記事を気に入っていただけたら、スキやフォロー、サポート(投げ銭)を頂けると幸いです。いただいたサポートは、今後の活動費として役立たせていただきます。

株式会社modoc所属・上野アキト

広告映像の企画と演出を中心に活動。2014年に広告制作プロダクションの企画演出部から独立。 映像を中心に、広告キャンペーン全体の企画、web施策なども手掛けつつ、アニメーション、エンターテインメントコンテンツの企画や演出にも参加している。

《主なCMクライアント》 リクルート/ソニー/ネスレ/コカ・コーラ/観光庁/エイベックス/スクウェア・エニックス/他

○Twitterアカウント:@akito_ueno
○Instagramアカウント:https://www.instagram.com/akt_un/
○「コマコマ」Twitterアカウント:@radio_kmcm

ライター・日良方かな(ひらかた・かな)

都内FMラジオ局&Voicy「毎日新聞ニュース」パーソナリティー。ナレーターとして自宅に「だんぼっち」改造の録音ブースを完備し宅録にも対応。だんぼっち組立の様子をブログにしたところGoogle検索「だんぼっち 照明」で1位を連続獲得。「ハンドメイド」に特化したポッドキャストを毎月配信中。
○ホームページ:「宅録ナレーター 日良方かな」
○Twitter:@hirakata_kana
○ポッドキャスト:「日良方かなのハンドメイド工房」


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