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【実話怪談】最高の名前

青葉さんと春花さんは一卵性双生児だ。
ふたりは仲良しで服やメイクの趣味も合うようで、本当によく似ている。
生まれた時は名前も「青葉」と「双葉」で似ていたのだそうだが、10歳の時に元「双葉」=春花さんが改名したのだという。
名付け親は母方の大伯父にあたる敏文さんという人で、本業は健康食品の会社の社長だったらしいが姓名判断に凝っていた。自身も二回も改名しているほどだという。

「どちらも、漢字にしてもひらがなにしても最高の画数になる名前にした」

敏文さんは青葉さんたちが小さい頃よく家に来ていて、玩具や絵本を買ってくれるのでふたりはとても懐いていたそうだ。

9歳の夏休み、春花さんは小児白血病を発症した。
幸いにも早期に発見できたこともあって、一年ほどの入院治療で後遺症もなく寛解し、学校にも復帰したというが、敏文さんから新しい名前を贈りたいと申し出があったらしい。こんなことになったので、ゲン担ぎをしようと説明されたという。
ずっと春花さんのことを気にかけてくれ、治療費もほとんど援助してくれた大伯父の言うことなので、両親も受け入れたそうだ。

最初は新しい名が嫌だったと春花さんは言う。ふたりの母は若葉さんと言い、母と姉と同じ「葉」の字が入らない名前になるのが、仲間外れにされたようで寂しかったのだそうだ。
だから、その気持ちを慮ってか、大伯父の娘の貴子さんだけは彼女に会う時「双葉ちゃん」と呼び続けてくれたのが嬉しかったという。

……敏文さんが青葉さん姉妹のことをずっと気にしていた理由を、母の若葉さんが知ったのはつい二年前。彼が大病を患い、余命宣告を受けて入院した病室でだった。

実験だったのだ、と敏文さんは言ったという。

同じ家、同じ親の下に同じ日に生まれた人間の運勢が、名前だけでどれほど変わるものか見てみたいと。だからひとりには最高の吉数の名を、もうひとりには最悪の凶数になる名をつけた。病院で管を繋がれている双葉を見て初めて後悔した。
罪を抱えたまま死ぬのが嫌だったのか、そう告白した敏文さんは一か月後、春花さんたち姉妹に多額の遺産を贈る旨の遺言状を残して苦しみ抜いてこの世を去った。

偶然だろうと春花さんは笑う。
小児がんの発症率は1万人に1人ほど、それほど珍しくもない。名前で人生が決まるはずないと。
ただ――彼女をずっと「双葉ちゃん」と呼んでいた貴子さんは、父親のしたことを知っていたのだろうか。
貴子さんもふたりが中学生の頃に交通事故で亡くなっていて、もう答え合わせはできない。

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