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【実話怪談】500円ババア

渡井さんが小学生の頃、町に「500円ババア」と呼ばれているおばあさんが居た。
通学路上にある古い大きな家にひとりで暮らしていたそうで、学校の下校時刻になると玄関先に籐椅子を出して、ボロボロの巾着袋を握って座っていた。
そして、通りかかった子供たちに声をかけて、歯が一本も見えない口でニコニコ笑いながら、巾着から出した500円玉をくれるという、その名の通り景気の良いおばあさんだった。
小学生にとって500円は大金だ。みんな、毎日誘い合って500円ババアの家に行って、近所のスーパーに買い食いに繰り出した。
おばあさんがくれる500円玉の裏には、マジックで「恵」と書かれていたそうだ。確かにお小遣いの乏しい小学生には有難いお恵みだった。
おばあさんは、500円を渡す時に必ず「ちゃんと使って手放すんだよ」と言い添えていたという。無駄遣いするなと釘を刺すならわかるけど、変なことを言うなと渡井さんは思っていたそうだ。物欲の塊のような小学生男子どもだ。あぶく銭を手に入れたら速攻で使うに決まってるだろうに。
当然ながら、やがて学校で問題になった。生活指導の先生がおばあさんの家に、児童にお金を渡さないでくださいと申し入れに行ったという。
だが、「遺す先もない金だから子どもたちに使ってもらった方が良いんだ。ほっといてくれ」と、子供たちに見せる温和な姿とは打って変わって、けんもほろろに突っぱねたらしい。同級生が見ていて、驚いたそうだ。
結局、全校集会で「あの家に近づかないように。知らない人から物を貰わないように」とふわっとお達しが出ただけで何も変わらなかったという。

奇妙な「課金活動」は1年ほど続いて、唐突に終わった。おばあさんが亡くなったためだ。
通いのヘルパーさんが仏間で倒れているのを発見したらしい。
仏壇には長く納骨していなかった、若くして自殺した彼女の一人娘の骨壷が飾られていて――遺灰に埋まるようにして何十枚もの500円玉が詰められていたと、渡井さんは噂で聞いた。
おばあさんの娘の名前は「恵」さんだったそうだ。

おばあさんは、何かを施した500円玉を町中に……いや日本中に流通させて、いつか「誰か」の手元に届くのを待ってたんじゃないか。
渡井さんはそんな風に言う。
あの頃、おばあさんの家に通っていた子は20人はいたはずだ。1年近くも毎日、1万円以上使って。彼女はなにを企んでいたのか。その願いは成就したのか。

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