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変えない変わらない

うちの店で頑固に変わらないもの。
それはイタリアンスパゲティーという名称。
「イタリアンってどんなスパゲティーですか?」
「昔ながらのケチャップ味のスパゲティーです」
「あ、ナポリタンね。じゃあそれ下さい」心の中でイタリアンと叫ぶ。

これは51年前店を始めてから割と早い段階からメニューにあり、
お客さんに「どんな?」と聞かれることも多くそもそも何でイタリアン?と思っていたある時突如謎が解けた。
大手スーパーの麺コーナーに
「マ・マー スパゲティ イタリアン」
の袋を見つけたのだ。そうそうこれこれ。始めた当時はこの麺と付属の赤い粉末ソースにケチャップをプラスして作っていた‼︎
だから「イタリアン」いやこれは変えるべきではない。スパゲティーが珍しかった頃からのイタリアンなのだ。

でもうちのイタリアンで育った人が都会に行って「イタリアンを」なんて注文して恥かかないかな。でもやっぱりイタリアンはイタリアン。


もうひとつは
ウインナーコーヒーにスプーンを付けないこと。
これも古くからのメニューで
アンテナの立った父が当時珍しかったエスプレッソを多めに抽出してクリームを浮かべた不動の人気メニュー。
ここにスプーンは付けなかった。
壁のメニューには「3つの味をお楽しみください」と書かれてある。
まずコーヒーに浮かんだ甘いクリームを。
次に溶けたクリームが混ざった苦いコーヒー。
最後はカップをくるくる回して底のザラメを溶かしつつ一気に甘さを楽しむ。

時々「スプーン下さい」と言って
最初からクルクルかき混ぜて一体化させる方もいるけど勿体無いなと思う。
時々「スプーン付いてないですよ」という方には
忘れてました、という感じで持っていくのは違うので「スプーンお付けしましょうか?」と声をかけることにしている。

ある時、底のザラメを掬って食べるのも有りかな?と思い
店の超常連来店回数1位のご婦人に相談したところ
「付けない方がいいよ。この店はこのスタイルやけん変えない方がいい」と即答してくれた。そう。このスタイル変えないで行こう。
何ならおすすめの飲み方をイラストに描いてメニューに挟むってのも有りかな。
綺麗に飲み干したカップを見ると嬉しくなってしまう。

変わらない店。
でも取り巻く状況は変わっていく。
徒歩1分にある幡多信用金庫本店が大橋通りに移転する。
昨日金曜日は京町での営業最後の日だった。
お昼に来てくれる女子達の楽しそうな様子も
朝店の窓から見える通勤姿も
帰りに駐車場で永遠におしゃべりしている姿も
来週から見れなくなる寂しさ。
人通りもますます少なくなって数年前近くのスーパーが閉店した時以上に寂しくなるだろう。
街の中心市街地は寂れていくけどその中で
ピッカリ光る店でありたいと思っている。
この店に来るためにこの街に来るように。
静かに闘志を燃やす私。静かに静かに。



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