宇宙から逃げ出せ!

話題の大ヒット映画「オデッセイ」を見ました。

面白かった! 文句なし! 原作の『火星の人』がすごく面白かったので、正直いって映画化には若干の危惧もあったんですが、杞憂でした。映画館で泣けたのはひさしぶり。

しかし、火星に一人取り残されてのサバイバルとは、考えたもの。

地上に戻るに戻れない状況で、さてどうするっていうのは、前に書いた「航空パニック映画」の常道でもあるんですが、さすがにスケールが違いますね、たかが数万メートル上空の「航空パニック映画」とは(いや距離だけの問題じゃないが)

で、当然のように浮かぶ連想。

「宇宙から帰れなくなった映画」の、いちばん最初は?

はい、映画記憶を棚卸しして見ましょう。

たぶん、リアリティがある「宇宙脱出映画」の最初は、1969年の「宇宙からの脱出」でしょう。邦題がそのまんまですしね(原題は「Marooned」 「取り残される」とか「断ち切られる」って意味)そもそも、それ以前では、宇宙に行くこと自体にリアリティを持たせるのが難しかったでしょうからね。

地球を周回する宇宙船が故障で機能しなくなり、三人の乗員の帰還が不可能になる。そこでNASAは開発中のスペースプレーンをロケットで打ち上げての救出に挑むが……

堂々の超大作であります。なにしろ監督は「荒野の七人」「大脱走」のジョン・スタージェス。グレゴリー・ペック、デヴィッド・ジャンセンをはじめとする大物スターの競演。そして、ほんとうに息づまるサスペンス。ラストの興奮と感動は忘れがたい傑作でした。途中で途方もない「解決策」も出てきたりして、製作後50年近くたったいま見ても十二分に面白い映画です。

「宇宙脱出映画」の定番フォーマットになっているのが、ロケット打ち上げの際の大騒ぎ。「オデッセイ」にもありましたね。打ち上げの時に、NASAのコントロールルームではいつもあんなに騒ぐんでしょうか。全員で「GO!GO!」とゴール裏サポーター顔負けの大コール。雰囲気盛り上がるなぁ。あれもこの映画が元祖なんでしょうね(ミッション成功時の大騒ぎも同じ。ところで、いつもあのシーンを見ていて思うんですが、紙吹雪のように書類が舞い飛びますけど、あとで回収したり片づけるのにタイヘンなことになるんじゃないでしょうか。だって重要な書類でしょ)

さて、地上でこの「宇宙からの脱出」が公開された直後に、偶然にも、月へと向かっていたアポロ13号に事故が起こり、危うく地球帰還が不可能になる危機がありました。リアル宇宙事故。

この事故とその救出が映画化されて「アポロ13」という「宇宙脱出映画」になったのは、ずっとのちの1995年のことです。まあそりゃ、そんなにすぐには生臭くてねぇ。こちらもトム・ハンクス主演の堂々の大作ですが、そういえば見てないや。今度見ようっと。

そして、最近のヒットは、まだ記憶にも新しい「ゼロ・グラビティ」(2013年) 船外活動中の事故で広い宇宙空間を体ひとつ漂流って、考えるだにおそろしい状況から、すぐ近くに見える地球に帰れないという窮地は、これまでの「宇宙脱出映画」にも共通する見せ場でしたね。

この「ゼロ・グラビティ」では、主人公の宇宙飛行士(つまり宇宙に取り残される人)が女性なのに、ご時世を感じましたね。かつては完全な男社会だった宇宙開発も、今や女性抜きでは成り立たないようで、そういえば「オデッセイ」の火星探査隊のリーダーも女性でした。

それにしても、「宇宙からの脱出」公開当時は、まだ「SF映画」という宣伝が主だった気がしますが、「アポロ13」は実話がもとだったせいでそうは言われず、「ゼロ・グラビティ」でも「SF」というアプローチはなかったようです。今昔の感あり、ですかね。

そういう点では、火星に人類が行っているという一点のみが「フィクション」であるだけの「オデッセイ」も、とくに「SF(サイエンス・フィクション)」と呼ぶ必要はないんじゃないでしょうか。宣伝や紹介記事などでは使ってるようですが。私はこれは「冒険映画」でいいと思いますね。

さてさて、こうした「宇宙脱出映画」で、主人公たちの地球帰還を阻む最後にして最大の難関が「大気圏再突入」だというのに、私はいつも皮肉を感じます。地球の空気との摩擦で発生する強烈な熱が、宇宙船とその中にいる飛行士たちを脅かすのです。

こうして地球上にいればわれわれを守り育んでくれる「空気」が、人間に牙を剥くのですから、やはり宇宙という存在は、まだまだ人類を受け入れてくれない「未開の地」なんでしょうか。

交通事故や航空機事故よりもはるかに少ないとはいえ、少なからぬ数の人々が、宇宙空間やその行き帰りに事故で命を落としています。

人類の科学技術の大いなる成果といっていい宇宙飛行ですが、その粋を集めたミッションでも、それでも事故は起こり得るのです。

「安全」に「絶対」はないという何よりの証拠ではないでしょうか。

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