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未発売映画劇場「コルディッツ脱走作戦」

私が若かりしころ(さっき調べたら1974年の秋から放送だったので高校1年生のときでした)土曜日深夜に毎週見ていたTVドラマに「コルディッツ大脱走」がありました。

第2次世界大戦中、ドイツの古城を使った捕虜収容所から捕虜の英国将校らがあの手この手で脱走を試みる物語で、たしか翌年春まで放送していました。ロバート・ワグナーデビッド・マッカラムが主演。当時すでに映画「大脱走」が大好きになっていた私が飛びついたのも当然でしょう。まだめずらしかったビデオ収録によるドラマで、その画質の違いにホホウと思ったことを覚えています。

英国BBC制作で、あちらでは記録的視聴率を叩き出したとかでしたが、日本ではあまり人気が出ず、放送終了後はそれっきりになっていたようです。今日に至るまで、国内ではソフト化されていません。

とはいえ放送前の期待値は高かったのでしょう。放送のはじまる前年の1973年には原作の『The Colditz Story(邦題:コルディッツ大脱走)』が光文社のカッパブックスからいち早く刊行されたほどで、私は放送開始前に読了していました(翻訳は皆藤幸蔵)

現在は品切れで古書でしか入手できません

おそらくそうした期待は、やはり大ヒット映画だった「大脱走」の再来を期待してのものだったのでしょう。

ところが、「コルディッツ大脱走」はずっと暗く、地味なドラマでした。「大脱走」のような派手なアクションを期待した日本の映画ファンにはいまひとつ受けなかったのでしょう。私自身もそうでした。

ただ、原作と同様、リアルに克明に再現された収容所での生活や、道具も資材もない中、ほとんど徒手空拳でさまざまな工夫を重ねて脱走を準備する捕虜たちの創意と知恵は強く印象に残りました。

考えてみれば映画「大脱走」の魅力も、アクションだけではなく、ほとんど無の状態から見事な脱走計画を作り上げる捕虜たちの姿にあったんですよね。

さて、実際にコルディッツ城の捕虜収容所に収容され、そこで数々の脱走計画のリーダーとなり、ついには脱走に成功したパット・リード(Pat Reid)がその体験をもとに書き上げた原作『コルディッツ大脱走』は、英国ではずっと早く、1952年に刊行されていたのですが、ドラマ「コルディッツ大脱走」よりもはるかに先行して映画化されています。

映画のタイトルは原作と同じ「The Colditz Story」で1955年の作品。原作刊行が1952年だから、当時としてはすばやく映画化されたほうかな。ちなみに「大脱走」が1962年の作品だから、こちらのほうがずっと先ですね。

じつはイギリスでは英国アカデミー賞の作品賞を受賞しているほど評価の高い作品なのですが、日本では劇場未公開。のちに「コルディッツ物語」という邦題でテレビ放送されたようですが、詳細はわかりません。

モノクロで94分というコンパクトな作品なのですが、原作のエッセンスを上手く生かした脚本で、テンポよく進む映画です。

映画冒頭でコルディッツ城に送りこまれてくる英国将校が原作者パット・リードで、演じるのは名優ジョン・ミルズ。収容所にはイギリス兵のほか、フランス、オランダ、ポーランドなどの捕虜も収容されています。ここは脱走歴のある捕虜たちを収容する特別収容所なのです。さっそく脱走を企てるリードたちですが、当初は他国の捕虜たちとのコミュニケーションが取れておらず、互いの脱走用トンネルがぶつかって崩落し露見するなんて事故が発生。そこでリードたちが主体となって連絡会議が設立され、ここからさまざまな脱走計画が考案され、警備に当たるドイツ軍との虚々実々の攻防戦が続きます。

なにせ舞台となる収容所が古城なので、あちこちにドイツ側も把握していない空間や隠し部屋があり、そこを駆使した脱走計画の数々が見せどころ。なかには「カリオストロの城」のルパン三世みたいに、急傾斜の城の瓦屋根を伝っての脱走などもあります。こうした脱走計画や、城での捕虜生活などは原作にのっとって、かなりリアルだそうです。

フランス捕虜が敢行する、3メートルほどの鉄条網をアクロバットよろしく飛び越す大胆不敵な脱走も(見事成功する)実際に行なわれたものだとか。

ただこうしたリアルさゆえに、じつは映画そのものの印象は相当に「地味」であります。モノクロなせいもあり、また舞台が古城のせいで、そして脱走計画の多くが当然のように夜間に行なわれるので、とにかく画面が暗いのもそれに拍車をかけています。

製作当時の1955年の時点でもそうだったでしょうし、その後も日本で公開する機運が盛り上がらなかったのも、むべなるかな。

前記したテレビドラマ版「コルディッツ大脱走」放送時が日本公開の大チャンスだったのでしょうが、残念ながら不発。おかげで現在の日本ではほとんど知られることのない映画になってしまいました。

ただし、この映画の監督がガイ・ハミルトンだと知ると、なんで国内未発売なんだと不満のひとつものべたくなります。彼の監督第2作で007シリーズで有名になる前の作品ですが、そう聞けば興味が高まる映画ファンも多いのでは?

ちなみに、このコルディッツ城は戦後もちゃんと残存していましたが、場所が東ドイツ側だったため、映画製作時も(テレビ版制作時も)現地ロケは出来なかったようです。そういえば映画の中でも城の外見って、ほとんど出てこなかったような気がするなぁ。

現在では、コルディッツ城は博物館となって保存されていて、収容所時代を再願した展示があるそうです。当時の脱走用トンネルなんかも残っているそうで、一度訪れてみたいものです。

そうそう、この映画では出てこなかったのですが、このコルディッツ収容所をやたらと有名にした脱出計画に、グライダーによる脱走というのがあります。城の屋根裏で、ありあわせの材料を使って秘かにグライダーを組み立て、これで空を飛んで脱走しようという大胆過ぎる計画。グライダーは完成したものの、終戦が近づいたために飛行そのものは行なわれなかったそうです。ずっと「神話」だと思われていたのですが、のちに写真が発見され事実だったことが確認されました。現在はコルディッツ城にレプリカの機体が保存されています。

この計画を大幅に脚色した1971年のテレビ映画「Escape of the Birdmen」は日本では「空中大脱走」として劇場公開され、こちらは国内版も発売されていますね。

「大脱走」をはじめ「第17捕虜収容所」「脱走特急」「脱走山脈」「勝利への脱出」など、第二次大戦の捕虜収容所ものは山のようにあるのですが、この「コルディッツ脱走作戦」はその走りともいうべき作品。いまからでも遅くないので、どこかで国内発売しませんか?

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