おしどり探偵奮戦中

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NHKで「トミーとタペンス 2人で探偵を」が放送されている。すでに第1話の「秘密機関」(全3回)の放送が終わり、つづいて第2話「NかMか」が放送される予定。イギリスで今年(2015年)放送されたばかりの新シリーズで、来年にはこの2話に続く第2シーズンが製作されることも決まっているとか。

原作はアガサ・クリスティーの「トミーとタペンス」シリーズで、エルキュール・ポアロ、ミス・マープルと並ぶ、クリスティーの人気シリーズ・キャラクター。戦争帰りの青年トミー・ベレズフォードと、タペンスことプルーデンス・カウリーのカップル探偵。

最初から老人として登場したポアロやマープルとは違い、トミーとタペンスは初登場の長編小説『秘密機関』(1922年 クリスティーの長編第2作)では「二人合わせても45歳にならない」若さで登場したので、前記の2人と違って、その後の作品でも年を取っていくのが特徴。長編4作と短編15作しか作品がなく、執筆の間隔も長いので、ファンからクリスティーのもとにしばしば新作のリクエストがあったともいう。

最初は若かった二人も、7年後の連作短編集『おしどり探偵』では結婚しており、12年後、27年後、さらに5年後の長編では、子持ち、熟年、老夫婦へと成長してゆく。それに伴って舞台となる時代も移り変わる。だから、第1次大戦後から70年代まで、トミーとタペンスのベレスフォード夫妻とともに、英国の社会や生活の変化もたどることができるのだ。

というような大げさなことはともかく、数多いクリスティー作品の中でも、群を抜いて明るい雰囲気のミステリなので、非常に読みやすいシリーズとして、お勧めできる作品だ。

先に「本格ミステリは映像化に向かない」と書いたが、数多く映像化されているクリスティー作品にしても例外ではない。その点、この「トミーとタペンス」は動きのあるサスペンスものなので、映像化向きであると、私はかねがね思っていた。

ただし、原作に忠実に作ろうとすると、時代とともに年を取る主人公は都合が悪いし、そもそも原作が少なすぎるので、これまで大々的に映像化されることは少なかった(もちろん、なかったわけではないが)

さて、今回のTVシリーズでは、時代を冷戦時代に固定し、トミーとタペンスも子持ちの中年夫婦に固定して、この難点を回避していくようだ。それはそれで映像化の手段としてはなかなか上手い手だし、そのため原作とはまた別の魅力も発揮できるだろう。

シリーズ第1作のタイトルが『秘密機関』であることからもわかるように、じつはこのトミーとタペンスのシリーズはスパイ小説。意外に感じる人もいるかもしれないが、アガサ・クリスティーは本格ミステリばかりでなく、恋愛小説やホラー、サスペンス物なども幅広く書いているが、けっこう得意にしていたジャンルに「巻き込まれ型スパイ小説」がある。このシリーズはその代表格なのだ。

そして、今回のTVシリーズが冷戦時代を舞台にしていくことで、すぐに連想させられたものがある。冷戦時代の英国スパイといえば、そう007号ジェイムズ・ボンドだ。

いささか無理があるように感じるかもしれないが、じつは小説の007シリーズが開始されたのは1953年。今回のTVシリーズの時代背景と、そう違いはないのだ。

「秘密機関」の原作では、敵役は過激なアナーキストたちだったが、今回のTV版ではソ連のスパイ組織。おお、では先々にはスメルシュとの対決もあるのかなと考えたのは、私だけか? TVシリーズで二人をスパイの世界に導く叔父のカーターは、さしずめ007の上司・M。友人のアルバートは、兵器係のQだな。

ひょっとしてシリーズにはこれから、ジェイムズ・ボンドも登場するとかしないものか。そんな、あらぬ期待も抱いてしまう。無理かな。でも今後の展開を楽しみにしたい。

とはいえ、間もなく放送される第2話の後は、しばらく待たされることになるだろう。なにせまだ撮影されていないそうだから。イギリスのテレビは、「シャーロック」を引き合いに出すまでもなく、気が長い。第2シリーズの放送は、イギリスでも来年以降。さてさて、次にトミーとタペンス夫妻に会えるのは、いつのことになるんだろう。

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