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「草競馬」が始まるよ

日本で親しまれている海外の歌曲ってけっこう数あるんだけど、アメリカの歌曲王スティーブン・フォスターの作曲した「草競馬」って曲を知らない人はなかろう。

草競馬が~はじまるよ~デュダ~デュダ~」っていう調子のいいメロディは音楽の教科書に載ってたりして、日本でも非常にポピュラーだ。

私の世代だと、1970年代の終わりから1990年代まで大橋巨泉の司会で人気クイズ番組だった「クイズダービー」のシンキングタイムの曲ってイメージがあるが、あなたはどうだろう?

原曲は1850年2月にリリースされたもので、ミンストレル・ショーのために作曲されたという。ミンストレル・ショーってのは顔を黒塗りした白人が黒人の歌や踊りや芝居を見せるアメリカのエンタテインメントで、道理で調子がいい曲なわけだ。

原タイトルは「Gwine to Run All Night, or De Camptown Races」という長いもので「一晩中走れ、あるいはキャンプタウンの競馬」といった意味。普通には「Camptown Races」と呼ばれることが多い。

日本語歌詞はいくつかあり、冒頭に掲げたものは私の記憶にあるものだが、原文では「Camptown ladies sing dis song, Doo-dah! doo-dah!」となっている。

この原詞を私が覚えたのは、この映画のおかげ。

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私がもっとも好きな映画である「ブレージングサドル」(1974年)の冒頭、フランキー・レインの歌う主題歌に続いて、鉄道工事現場での抱腹ものの一幕がこの歌をめぐるものだからだ。

過酷な鉄道工事現場で働く黒人たちに、アウトローで意地悪な白人監督助手(演じるのはバートン・ギリアム)が、もっと楽しそうに働けとハッパをかけ、歌を歌えと命じる。黒人たちのリーダーであるバート(クリーボン・リトル)はわざと都会的でオシャレなコーラスを披露し、そのセンスについていけないギリアム君は「おまえらいい歌を知らないのか。Camptown Racesなんかはどうだ」といい、自らそれを歌い出すと部下の荒くれガンマンたちともども歌い踊り出すのである。

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文章では伝わらんなぁ、あの面白さは。この画像で察してくれ(中央の赤シャツがギリアム現場監督)もちろんこの後でやってきたボス(スリム・ピケンズ)にどやされる。

頭も悪く文化程度も低そうなこいつらは、この歌の第1節しか覚えていなかったようで、そこだけを繰り返し歌い続ける。おかげで私も、そこの英語歌詞だけをしっかり覚えてしまったってわけだ。

もうひとつ、この曲と映画で忘れられないものがある。

映画史上最強の男の子映画(私見です)である「大脱走」(1963年)の一場面だ。

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映画中盤の大見せ場であるアメリカ独立記念日、3人のアメリカ兵捕虜が作った密造酒で捕虜全員が酔っぱらう大酒盛り。そのさなか、「モグラ」ことアイブス(アンガス・レニー)と「情報屋」マック(ゴードン・ジャクソン)が浮かれ踊る、その時に2人が歌うのが「草競馬」なのだ。

それにしても、ともにイギリス空軍兵の2人が、なんでアメリカの「草競馬」で浮かれるのか、この曲はイギリスでもそんなにポピュラーなのか?

この2人、スコットランド人なのである。アイブスは脱走の相棒であるヒルツ(スティーブ・マックイーン)に「スコットランドにもモグラがいるだろう?」と問われるし、マックのほうは本名マクドナルドで、その名前からしてスコティッシュ。

そして「草競馬」のタイトルにもなっているキャンプタウン(Camptown)というのは、ペンシルベニア州北東部の村の名前とされている。そしてそのキャンプタウン村はスコットランド系移民の村だったというのだ。

はい、きれいに一本の線で結ばれましたね。

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この直後に起きる事件のことを考えると、なんともいえない名場面

と、ここまで言っておいて何なんですが、じつはこの歌が歌われるのは、日本語吹き替え版だけ。「大脱走」が最初にテレビ放送された際のフジテレビ版で、アイブスが富田耕生、マックが上田敏也の吹き替えだったかな。私の世代にはこの吹き替えがスタンダードだろう。オリジナル版では違う歌が歌われているのだ。

吹き替えで「草競馬」に変更されたようなのだが、たまたまなのか、上記したようなつながりを意識してのことなのかはわからないが、ナイスな選曲だったことは間違いない。

では原語ではどんな歌だったかというと、ちょっと聞きなれない曲。それは「Wha Hae the 42nd?」という曲で、日本ではポピュラーではないが、軍歌だそうだ。

タイトルになっている「the 42nd」とは第42ロイヤル・ハイランド連隊(42nd Royal Highland Regiment)のこと。通称ブラック・ウォッチと呼ばれるこの師団が、名称からもわかるように、スコットランドの師団なんだとか。

やっぱりスコットランドつながりだったんだね。

「草競馬」から話が逸れたかな。ま、いいか。

この曲はポピュラーでなおかつ著作権がフリーになっているせいか、他にもちょこちょこあちこちで使われている。「クリープショー」とか「ステップファーザー/殺人鬼の棲む家」とか「ナイトミュージアム」とかでも聞けるとか。耳にした記憶はあまりないけどね。

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