ミステリ映画はむずかしいぞ
昨年のイギリスのTVドラマに続いて、日本でもアガサ・クリスティーの『そして誰もいなくなった』がTVドラマ化されることになりました。
にわかに巻き起こる『そして誰もいなくなった』ブーム、いったいどうしたことでしょう?
日本版は今年4月に2夜連続で放送される予定とか。楽しみですね。
ところが、このドラマの製作を伝えるニュースが、ことごとく、じつにあっけなく『そして誰もいなくなった』のネタバレをかましているのは、いかがなものでしょうか。
こっちはいつも、精いっぱい気をつかっているのに(笑)
以前に『オリエント急行の殺人』がTVドラマ化された際の報道でも、キモのトリックを堂々と書いた記事をいくつか見ましたが、概して日本の芸能マスコミさんにはミステリ・マインドが欠けているようですね。残念です。
そして、年末には、その『オリエント急行の殺人』がいよいよ劇場映画化され、日本でも公開されます。
こちらはケネス・ブラナーが監督し、自ら名探偵エルキュール・ポアロを演じるほか、ジョニー・デップ、デイジー・リドリー、ミシェル・ファイファー、ジュディ・デンチ、ウィレム・デフォーら豪華なオールスターが集結。さてさて1974年の「オリエント急行殺人事件」(シドニー・ルメット監督)を越えられるでしょうか?
というように、ミステリ映画花盛りなわけなんですが、ちょっと待って下さいよ。
前にもちらっと書きましたが、私はそもそもミステリって映画に向かないと思うんですよ。
詳しくは【こちら】をお読みいただきたいんですが、要するにミステリ小説というものの仕組みそのものが、はなはだ映像向きじゃないからです。要は「動きがない」から。
アガサ・クリスティーの作品のなかで『そして誰もいなくなった』が圧倒的多数の映像化を実現しているのは、早い話「殺人の数が多いから」でしょう。
クリスティーの作品に限らず、普通のミステリ小説では、最初のほうで殺人事件が発生し、それをひたすら探偵(など)が調べていくのが基本。しかも最終的に事件の真相を「推理する」わけですが、それって考えているだけで、外見上はまったく動きがないんですよね。
『オリエント急行の殺人』だって、ここだけの話、殺人事件は一件だけなんですよ。あとは基本的にずーっと訊問だけ。
まあそのまま作ったら、間違いなく500円映画でしょうが、さすがに今までの映像化ではけっこう色々と趣向を凝らして飽きないように作ってます。
これは、一見すると派手そうに見えるハードボイルド・ミステリでもけっこう同じで、ひとつのストーリーの中でも、事件の数は案外少ないもんです。
そうしたミステリ小説は、そのまま映画化したら地味だし、かといって訊問部分を端折ると、今度は短すぎて盛り上がらないでしょう。だから、懸命にいろいろ味付けすることになるのですが、でもそのための脚色や演出の手間を考えたら、そうそう割に合うものでもないと思うんですがねえ。
とはいえ、やはり原作の持つ知名度や人気は捨てがたいものなんでしょう。相変わらず、ミステリ小説の映画化は多いですね。
その点、最初から映画用にストーリーが考えられている、たとえば「シャレード」(1963年)などは、じつに巧みに作られている、というお話はこちらで。
まあ、こうしてうまくいった例もあることだし、ぜひとも頑張ってもらいたいもんです。いや、ほんとに。
健闘を祈る。
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