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令和4年・秋場所雑記

秋場所は前頭3枚目のベテラン玉鷲が2度目の優勝を飾りました。

ここのところ毎場所のように、混戦だ、戦国場所だ、予想がつかないと言い暮らしてきたような気がしますが、さすがに今場所ほどの下剋上場所はちょっと記憶にありません。なにしろ優勝争いをほぼ平幕力士たちが独占していたからです。

そうなった原因は、もう何といっても役力士、上位陣の不振でしょう。

今場所は1横綱、3大関、3関脇、3小結が番付を飾る豪華版だったのですが……

横綱の照ノ富士は2日目に翔猿に金星を献上すると、前半だけで3敗。9日目に4敗目を喫して、10日目からは途中休場。膝の状態が悪いらしく、場所後には手術に踏み切るかもしれないとのこと。そうなると次の九州場所の出場も危ういかもしれません。

大関陣では、貴景勝がなんとか10番勝ったものの、正代御嶽海はそろって4勝11敗という大負けで、カド番だった御嶽海は大関から陥落。3大関が皆勤して合計18勝しかできないという大不振。

3関脇では、若隆景が初日から3連敗。その後立て直して11勝したのは見事でしたが、豊昇龍は千秋楽に辛うじて勝ち越し、大栄翔は負け越しで関脇から陥落。

小結の阿炎は全休、前場所優勝の逸ノ城も負け越しで、霧馬山だけが9勝6敗で気を吐いた格好。

場所序盤から役力士が次々と黒星をつけ、誰一人優勝争いのトップに立つこともなく、平幕陣にいいようにリードされてしまいました。過去に平幕優勝の場所は数あれど、ここまで役力士が参加しない優勝争いは、たぶん史上初めてでしょう。役力士全員、大いに反省していただきたい

優勝争いをリードしたのは、前頭8枚目という中位で初日から9連勝した北勝富士。御嶽海や宇良、霧馬山と同じ平成27年春場所デビュー組で、本欄の「春場所ニューカマー」でずっとその出世ぶりを見てきた私は、いよいよ大器がでっかい勲章を手にする時が来たと思いましたよ。ご存じのとおり、北勝富士の師匠は、現・理事長の八角親方。千秋楽には天皇賜杯が師匠から愛弟子に授与されるという感動の表彰式が見られると思ったんですが、10日目からの3連敗で夢と終わりました。残念でしたが、今回の活躍であらためてその実力者ぶりを見せつけました。またのチャンスがあるでしょう。

入幕2場所目の錦富士には、大いに驚かされました。新入幕の名古屋場所で10勝を挙げて敢闘賞受賞。前頭10枚目に上がった今場所でしたが、家賃が高いどころか、序盤から好スタートを切り、トップを走る北勝富士を追走。終盤に幕内上位に当てられて3連敗したものの、2場所連続しての10勝をマーク。来場所の番付では上位陣に総当たりの地位まで上がりそうです。一気に期待の星に躍り出てきました。

ともに金星を挙げたワザ師の翔猿宇良も魅せました。翔猿は先場所も終盤まで優勝争いにからみましたが、残念なことにコロナ禍で途中休場の憂き目に遭い、さぞや悔しい思いをしたことでしょう。その思いをぶつけたのか、中盤から終盤にかけて7連勝し、今場所も優勝争いに顔を出しました。殊勲賞おめでとう。宇良も、4日目に「伝い反り」の大技を出すなど大いに場所を湧かせました。三賞のひとつもあってよかったんじゃないでしょうか。

千秋楽まで玉鷲と優勝を争った高安も見事でした。今場所こそは悲願の初優勝を手にすると思ったんですが、今年2度目の準優勝に終わりました。やはり優勝争いの佳境で、メンタルの弱さが顔を出していた気がします。ここさえ乗り越えれば、チャンスはすぐにまたやってくるでしょう。

高安と同じ11勝を挙げて準優勝になった竜電は、逆にいつの間にか勝っていた感じ。でも1勝4敗から千秋楽までの10連勝は、ちょっとやそっとで出来ることではありません。来場所に期待できそうです。

ほかにも10勝した若元春もよかったですね。土俵際のうっちゃり2番など逆転勝ちも派手に決め、もう「令和の土俵際の魔術師」を称してもいいんじゃないでしょうか。

こうした充実した平幕陣を押さえて優勝した玉鷲については、もうマスコミが語りつくしていますね。とにかく自信に満ちた相撲っぷりには脱帽するしかありません。関脇以下で2回の賜杯はけっこうな金字塔であります。もう1回くらいはいけるんじゃないかな。

横綱・大関陣が金星銀星を大盤振る舞いしたおかげで、今場所は番狂わせの価値が下落した感がありました。場所終盤には大関に勝っても、NHK中継のインタビュールームに呼ばれない例も。

そんな場所でしたが、今場所最大の番狂わせは、幕下で、朝乃山が負けた一番でしょう。なにしろケガや年齢のせいでなくて、大関から幕下まで番付を下げている、いわば現役大関級の朝乃山です。先場所はまったく相手を寄せ付けずに三段目で全勝優勝。今場所も一番相撲では学生横綱から角界入りしたホープ川副のデビュー戦で対戦し、圧勝しました。幕下15枚目だったので、幕下全勝優勝→十両復帰はもう決まったものと思いましたが、六番相撲でまさかの逆転負けで、衝撃が走りました。

おかげで十両復帰は一場所お預けとなる痛恨の一番でしたが、逆に勝った勇磨にはたいへんな自信になったでしょう。幕下28枚目で6勝1敗、来場所は十両アタックです。期待が持てますね、これは。

さて、期待を上回った連中だけでなく、期待を下回った力士も当然ながらいました。横綱大関はともかくとして。

私がもっともガッカリさせられたのは王鵬です。

初日から5連勝。ついに大器が目を覚ましたと思いましたよ。祖父・大鵬でも成し遂げられなかった平幕優勝をするんじゃないかと。ちなみに父親の貴闘力は2000年(平成12年)3月場所に幕尻での平幕優勝を成し遂げていますし。その後やや崩れかけたものの、10日目までで7勝3敗。この時点でトップの北勝富士とは2差なのだから、期待も膨らもうというものです。

ところが、なんとここから5連敗

予想もしなかった崩れっぷりといいたいところですが、じつは新入幕だった今年初場所にも、まるで同じシチュエーションで負け越しているのです。1年で2度やるようなことじゃないでしょう。前回は番付に後がなく十両陥落となりましたが、今回はどうやら幕内に残留できそうな情勢ではありますが。

王鵬の相撲には、どうも「芯」が無いように見えます。押し相撲なのか四つ相撲なのか、しっかりとした自分の型が感じられないんですね。悪くいえば「素質だけで相撲を取っている」感じ。もちろんそれはそれで「自然体」ともいうもので、アリっちゃぁアリなんだけど、それで大成するのはむずかしいでしょうね。

王鵬も若いとはいえすでに22歳。本人はもうウンザリかもしれませんが、敢えてくらべます。大鵬は22歳の年には、もうとっくに横綱になり、まさに第1次6連覇を達成した年です。入門年齢が違うとはいえ、王鵬もこのへんでモタモタしていて良いわけはないじゃないですか。

王鵬が優勝でもすれば、本人はもとより、相撲全体の人気や注目度が一気に上昇するのは間違いありません。王鵬のバリューはそれくらいのものがあるんです。ぜひとも頑張っていただきたいものです。

全体として今場所は相撲内容は良かった気がします。力が入った、攻防のある相撲が多く、決着でもつれて物言いがつく相撲も多かったです。

やはり、コロナ禍でままならなかった稽古の状況が好転しているせいのようです。今場所前から出稽古が(限定的とはいえ)解禁され、また2年ぶりで地方巡業も再開されました。そのため稽古量が増えたのはもちろんですが、稽古相手の幅が広がったのが大きいでしょう。

まだまだ感染状況は油断がなりませんが、来たる九州場所では、さらに相撲を楽しませてくれることを期待します。いやホントに

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