サギ映画

白い大きな鳥が羽ばたく映画じゃないです、もちろん。

タイトルや宣伝では面白そうに見えるのに、中身は全然ダメで「金返せ!」となる映画でもありません。

そんな「サギ映画」です。

ということで……

人間、噓をついてはいけません。

教育勅語や道徳の授業を引き合いに出すまでもなく、古来、たいがいの宗教や言い伝えでもそういっているのですから、人類にとって「嘘」は「悪」なんでしょうね、たぶん。

ところで、映画というのは、本質的に「騙し」です

一コマ一コマは静止画なのに、それを連続して映写することで、あたかも動いているように思わせるのですから。動いていない絵を、残像現象を利用して、動いていると「嘘」をついているのです。

と、本質的に「嘘」で「騙し」である映画では、だから嘘をついてもいいんですね、たぶん。

そんなわけで、嘘を生業とする詐欺師を主人公にした映画も許されるんでしょうが、その最高峰といえば、なんといっても「スティング」でしょう。

1973年のこの映画、アカデミー作品賞を受賞しているのだから、名作であることは間違いないですが、同時に「詐欺」をテーマにし、その手口を克明に描いた点で、まぎれもない「サギ映画」であります。

大恐慌さなかの不景気の時代、たまたまマフィアの金を奪ってしまった詐欺師の師弟コンビ。師匠はマフィアに殺され、残された弟子は伝説の大物詐欺師と組んで、マフィアのボスを引っかけて復讐しようとする。

ポール・ニューマン(大物詐欺師)とロバート・レッドフォード(弟子)が「明日に向かって撃て」につづいてコンビを組んだ作品ですが、名作といわれるあっちよりも、私はこの「スティング」のほうがずっと好きです。とくにラストの仕掛けは、映画史上に残る大ど★で★が★しであります。

私はどうしたことか、この映画が初公開される前に刊行されていたノベライゼーション版を読んでいたのですが、あのラスト、ほかの観客たちが「ああ、★★★ゃうの?」とか口々に言うのを聞いてニヤニヤしていたもんです(伏字多くてすいませんね)

ラストに至るその大仕掛けはともかく、私が感心したのは、最初にレッドフォードが師匠とともに仕掛けるペテン。ちょっとした寸借詐欺で、じつに簡単な仕掛けなんですが、心理的に巧妙で、いかにも引っかかってしまいそう。私はこれを見て、以後気をつけようと固く心に誓いました。おかげで現在でもオレオレサギ等に引っかかったことはありません。

しかしこの時期のレッドフォードは、泥棒や強盗の役がいやに多く、そのうえここでは詐欺師。狙ってたんでしょうかねえ。

こうした「騙し」を職業にした国家公務員が、スパイですね。

派手な活躍を見せる007ジェイムズ・ボンド氏も、名前を騙ったり身分を詐称したりするのは日常茶飯事。そう、スパイは嘘がうまくないと勤まりません

2012年の「アルゴ」は、テヘランの大使館占拠事件の裏で行なわれた、CIAの人質救出作戦の全貌を再現したスパイ映画ですが、ハリウッドの映画製作のロケハンのふりをしてイランに潜入するなんて、まさに嘘つきそのもの。

監督、製作ばかりか主演までこなしたベン・アフレックも、相当な嘘つきってことになるんでしょうか。

実話を映画化したものということで、「スティング」のような驚きはありませんが、それでも作戦が成功するまでのハラハラドキドキはちょっとしたもの。いっしょに見ていた家人は、映画の終盤ではそのサスペンスにひいひい言って負けそうになってました。

じつは似たようなエピソードは、往年の人気TVシリーズ「スパイ大作戦」にもありました。あのシリーズもけっこう嘘つきドラマですよね。

「アルゴ」では主人公が作戦を思いつくヒントにするのは、たまたまテレビで見ていた「最後の猿の惑星」になっていましたが、あれ「スパイ大作戦」のほうがよかったんじゃないでしょうかね。

しかし、この壮大な「嘘」を裏から支えたのは、革命直後のイランで映画のロケ撮影をしようという話に「ああハリウッドの映画屋ならこんな無茶でもやるだろうな」という世界共通の認識があるからでしょうね。イスラム原理主義革命のイラン国民にすら。

そしてその認識が、「ああ、こんなことも実際にやりかねんな、やつらなら」と観客に思わせる強力な支えになっているわけです。ううむ、二重三重の嘘つき映画。

そういえば、この映画も「スティング」同様、アカデミー賞の作品賞を受賞しています。ほーら、ハリウッドってのは、嘘つきが好きなんですよ。

もう一本、「ザ・ホークス」というサギ映画をご紹介。

2006年製作のこの作品、伝説の大富豪でマスコミ大嫌いのハワード・ヒューズの自伝を捏造して一儲けしようという詐欺師のお話。ばれないと思うその神経がちょっと凄いぞ。

と思ったら、これも実話だっていうから脱帽ものです。世界には大胆不敵な詐欺師がけっこういるもんです。

主演はリチャード・ギア。ううむ、ポール・ニューマン、ロバート・レッドフォード、ベン・アフレックにリチャード・ギア。詐欺師ってのは二枚目じゃないとつとまらないみたいですね。

で、ですね、この映画には原作のノンフィクション本があるんですよ。クリフォード・アーヴィングって人が書いたものですが。

この本の映画化が決まったというので、それを日本でも翻訳出版することになりました。2007年ごろのことだったでしょうか。

映画公開が決まってからその公開予定日まであまり時間がなく、出版社はかなりのハードスケジュールを強いられました。それでも関係諸氏の努力と苦労のおかげで、なんとか間に合った……その時です。

公開延期!

けっきょく、この映画が日本で公開されたのは、ずっと遅れて2011年4月。「おいおい、あの突貫作業は何だったんだよ(匿名希望)」

この嘘つき!(笑)

あ、余談ですが、私が学生時代まで住んでいた町のすぐ隣に「サギの宮」という町がありましてね、その後引っ越して今住んでいる町の隣り町は「サギ沼」というんですよ。関係ないですが(笑)

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