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幻の映画を観た!

なんて、大袈裟なこと言いましたが、まぁ私的なことですので。

人生ではたまに、大したことではないのに、ずっと気になる出来事があったりします。小さな忘れ物とか、ちょっとした行き違いとか、ささやかな失敗の記憶とか。

もちろん私にもたくさんそういった「心残り」があるのですが、ことさらにそのことを解決すべく行動を起こしたりはしませんね。なにしろ大したことではないんですから。

いまあらためて確認してみたら、それはどうやら1974年の秋のことだったらしいです。

当時、まだ駆け出しの映画ファンだった私は、「ロードショー」だか「スクリーン」だったかの新作映画紹介のグラビアで、一本の戦争映画の記事に目を留めました。

といっても、その映画自体、そう大したものではなさそうでした。カラーページではなく、モノクロページで1ページだけペロッと紹介されていただけでしたから。

私の目を惹いたのは、そのグラビアに載っていた一枚のスチル写真。

ジープらしき車のハンドルを握っているのがピーター・フォーク。その後ろに並ぶのがジェイソン・ロバーツマーティン・ランドゥー。うわっ、なんて濃い顔ぶれ。

邦題もちょっと魅力的でした。

題して「シシリー要塞異常なし

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公開されたらぜひ観にいこうと心に決めたのですが、たしかその誌面には、まだ公開日時は掲載されていませんでした。

で、そう思っていたのに、ものの見事にその映画を見逃したのです。

いま調べてみたら、公開は1974年の11月16日公開だったとか。

お正月映画前のどさくさにヒッソリと映画館にかかったんでしょうね。新聞広告やポスターなどもさっぱり見た覚えがありません。

翌年になってからそのことに気づき、ああ見逃したかとは思いましたが、まあそのうちどっかで見られるだろうと思って、それっきりになってました。

数年後、大学生になって時間もできた私は、ヒマと足にものをいわせて東京近郊の映画館、名画座を、さまざまな映画を観るために駆けまわる日々を過ごしていました。楽しかったなぁ

ところがそんな日々、ずいぶん大量の映画を観たのに、なぜかこの「シシリー要塞異常なし」には遭遇しなかったのです。

新聞の映画案内や、「ぴあ」の上映予定、名画座の予告チラシなど、私が目を光らせていた情報欄に「シシリー要塞異常なし」の10文字が並ぶことはありませんでした。そればかりか、当時はたくさんあったテレビの映画劇場で放送されることもなかったのです(もちろん、ザルのごとき私の目をくぐりぬけただけなのかも知れませんが)

そうなると、気になってくるじゃないですか。

それからまた数年後、私が社会人になってから、レンタルビデオの時代がやってきます。ほんとにどうでもいいようなB級映画、サイテイ映画、クズ映画までもが続々とソフト化され、レンタル店の店頭に並び、人知れぬまま投げ売りの中古ソフトとなって消えていった、あの古き良き時代。

そうした膨大なビデオソフト群の中にも、ついに「シシリー要塞異常なし」は見つかりませんでした(いや秘かにどこかでタイトルを変えて出ていたりしたのかもしれませんが)

なにか権利上の問題でもあったのか、その後のLD、DVD、そして今日のブルーレイディスクでも、いまだに「シシリー要塞異常なし」のソフト化は実現していないようです(どうやら海外でもそうらしい)

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ところが先日、ひょっとYouTubeを眺めていたら、アレレ「Rosolino Paternò: Soldato...(原題)」の全長版がアップされてるじゃないですか。

どうやら2018年ごろにひっそりとアップされていたようです。著作権的に問題があるのかもしれないので、観てみたいという奇特な方はご自分でお探しください。

ということで、およそ40年以上ぶりで「シシリー要塞異常なし」を初鑑賞いたしました。画質は最低、イタリア語で字幕なしですが。

あ、どんな映画か、ぜんぜん触れてこなかったですね。

ざっくりいってしまうと、戦争映画です

第2次大戦末期、連合軍のイタリアのシシリー島上陸作戦決行寸前、島の防衛をになう巨大要塞を爆破すべく米軍特殊部隊チームが送りこまれる。4人の兵士(ピーター・フォーク、ジェイソン・ロバーツ、マーティン・ランドゥー、スコット・ハイランズ)は、島内の道案内をさせようと作戦内容を知らせずにイタリア兵捕虜(ニーノ・マンフレディ)をムリヤリ同行させる。パラシュート降下した一行は、数々の障害を乗り越えて要塞へと迫るが……

軽量版「ナバロンの要塞」と思えば、だいたい合ってます。もちろん、上掲のポスターのとおり、むさい野郎どもが揃っていて、マカロニ風味満点。かなり人を喰った映画ですね。

驚いたのは、作戦決行を指令する米軍将軍がスリム・ピケンズだったこと。「博士の異常な愛情」のキングコング少佐からずいぶん出世したもんだ。もっとも、メインタイトルにクレジットがなかったような気がしましたが。

ちなみに原題の「Rosolino Paternò: Soldato...」はニーノ・マンフレディ演じるイタリア兵捕虜の名前。そう、じつは彼が主役なんですね。

お気づきのとおり、この作品、純イタリア映画なんですね。プロデューサーとしてクレジットされているのは、あのディノ・デ・ラウレンティスです。

だからでしょう、観てみるとあんがいカネをかけた。ちゃんとした映画でした。けっして500円映画じゃありません。

もちろん戦闘シーンは、実写ドキュメンタリーフィルム投入で水増ししてありますが、いちおうドッカンドッカンと特殊効果も使っていますし、途中で列車を戦闘機が襲うシーンなどは、列車も飛行機も、逃げ惑う人々も、たっぷりと大量のホンモノを使ってます(もちろんCGなんかありませんからね、まだ)

ところで、この映画、製作年は1972年としている資料が多いようですが、実際には1970年3月にイタリアで封切られています。

なのに、なぜその映画が4年後の1974年まで日本で公開されなかったのか?

じつはこれ、日本だけの現象ではなかったようで、イタリア以外での公開はことごとく1973年以降になっています。

その理由を語るのが、これ。

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これは1973年4月に公開されたフィンランド版のポスターですが、上掲のオリジナルポスターとちがって、ピーター・フォークの主演映画扱いになっていますね(実際には出番はひどく少ないのですが)

もうおわかりですね。

「シシリー要塞異常なし」が製作・公開された1970年の翌年1971年から、アメリカで「刑事コロンボ」の放送が始まったんですね。高視聴率を記録し、たちまち人気番組となった「刑事コロンボ」は、すぐに世界中で放送され、コロンボ警部を演じたピーター・フォークはあっという間に世界的人気スターになったのです。

ということで、おそらく「刑事コロンボ」直前にちょろっと出演していたこの映画が、たちまち世界中で公開されることになり、オリジナルのビリングではゲスト出演クラスだったピーター・フォークの主演作として売り出されたわけです。

日本でも「刑事コロンボ」は1972年から放送されていたので、その人気に乗っかって「シシリー要塞異常なし」も、1974年になってから公開されたということのようですね。

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これは西ドイツ版のようですが、やっぱりピーター・フォークの名前がいちばん上に……

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というわけで、ネット時代のおかげで、ようやく40年越しの心残りを解消できたわけですが、もちろんコレクターの私としては、それで満足するわけにはいきません。いつか「シシリー要塞異常なし」のソフトをコレクションするまで、じっと待ち続けるのは当然のことです。

ただね、そう素晴らしく面白かったわけではなかったんですがね(笑)

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