名セリフでいこうぜ

ついこの前に発売された『死んだライオン』(ミック・ヘロン著/ハヤカワ文庫)という面白い小説がありましてね。

任務に失敗した落ちこぼれスパイたちが、ひょんなことから大活躍して第一線に返り咲こうという、ちょっと「英国スパイ版・下町ロケット」みたいなストーリーも、なかなか泣かせましたが、中にちょっとしゃれたセリフや文章が出てくるのが、小説の面白さを引き立てていました。

たとえばこんなの。

 スパイにとって何より大切なのは、退路を確保しておくことだ。

 法律もソーセージも、つくっているところを見たがる者はいない。情報部の仕事も似たようなものだ。

 ドブネズミは利口で、いつだって抜け目がない。

サンプルはこちらで(https://twitter.com/ShindaLion

ちょっと昔には「ワイズクラック」なんて言い方も流行りましたが、こうしたちょっとしたおもしろい会話や独白ってのが、小説でも映画でも、いいスパイスになるもんです。

たとえば、私の大好きな「荒野の七人」では、スティーブ・マックイーンが演じるガンマンのヴィンが、こんな話をするシーンがあります。山賊の襲撃に対する備えはどうなんだねと村の長老に尋ねられたヴィンの答え。

 高い建物のてっぺんから人が落ちてね。窓からみんなが顔を出して、目の前を落っこちてくのを見て、こういったそうだ。

 「今んとこは大丈夫」

つまり、山賊が来ても、今んとこは大丈夫ってことだ。「今んとこは」ね。

もうひとつ。

なぜ腕利きのガンマンであるヴィンが、貧しい農民を助けようと思ったか?

 でっかいサボテンに裸で抱きついた奴がいてね、どうしてそんなことをしたんだと尋ねられて、こう答えたそうだ。「その時はそうするのがいいと思ったんだ」

うーん、文章だともうひとつ伝わらないかな。できれば、内海賢二さんの吹き替えで聞いてみていただきたい。

007シリーズもこうした名セリフの宝庫だが、「ゴールドフィンガー」でのボンド氏のウンチクはこうだ。

ベッドで美女とよろしくやったあと、ぬるくなったシャンパンのボトルを手にして、ひとくさり。

 世の中にはルールがある。ドンペリは3.5度以下で飲まなければならない。ビートルズを聞くときには、耳栓をしなくてはならない。

もう今はそんなことを言う人はいないだろうけど、当時の「大人たち」のビートルズに対する感覚はこんなだったんだろう。

ただ、このわずかに10年ほど後に、「死ぬのは奴らだ」の主題歌を担当したのが、そのビートルズのポール・マッカートニーだったのは、何とも皮肉。ま、こうつぶやいたボンドはショーン・コネリーだったけど、「死ぬのは奴らだ」ではロジャー・ムーアだったからいいのか。

こういうのは、べつに大人向けの映画に限ったもんでもありません。私が近年もっとも気に入ったのは、アニメ「カンフー・パンダ」の極めのセリフ。

 秘密の材料はないんだ。

いいセリフだけど、前後を知らないと、このセリフの凄さはわからないでしょう。すぐに「カンフー・パンダ」を見てください。

もちろん、「ダーティハリー」のアレとか、「スターウォーズ」の例のやつとか、他にもいろいろありますが(ウィキペディアにはこんなリストもあります)、あんまり紹介しちゃうと、それこそネタバレになりかねないので、最後に「ロッキー2」のエイドリアンの名セリフをひとこと。

 ロッキー、ウィン(勝って)!

鳥肌の立つ名セリフでしたね(わからない人は、「ロッキー2」を見ましょう。「2」ですからね

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