ガッパとヒヨコ

私が小学校低学年の頃、日本では国中が怪獣ブームだった。1961年の「ウルトラQ」放送開始から「ウルトラマン」を経ての数年間、テレビでは毎日のように怪獣が暴れ、町には怪獣の玩具や図鑑が氾濫していた(心象風景です)

そんなさなかに小学生だった私が何をしていたかというと、怪獣のお絵かきとプラモ作りにシコシコと励んでいた。自分の怪獣図鑑作ったりしてね(すでに今の体質は出来上がっていたわけだ)

当時どんなプラモを作っていたかは、もう遠い記憶のかなたに霞んでいるが、意外としつこく覚えているのは、「バチモン怪獣」として一部には有名になった日東の「ガマロン」「ワニゴン」。映画やテレビの登場怪獣ではなく完全オリジナルという志が高いんだか低いんだかわからないこの2大怪獣をなぜか欲しがったあたりも、当時の私がすでに今の私の原型になっていたのがうかがえて微笑ましい。

そして私の記憶が確かならば、この日東の怪獣プラモシリーズでは、オリジナルな「バチモン怪獣」だけでなく、ちゃんとガメラなどの怪獣プラモも出ていた。そんななか私が間違いなく作ったのが「ガッパ」である。

知ってる人は知っていようが、怪獣ブームに便乗しようとした日活が1967年に製作した「大巨獣ガッパ」に登場する親子怪獣である。

当時邦画は5社体制。すでに東宝はゴジラを、大映はガメラを擁していたが、怪獣ブーム到来とともに他社も怪獣映画に乗り出す。といっても東映は巨大怪獣には走らずにお家芸の時代劇に特撮をからめた忍者ものを作ったのだが、残る2社、日活と松竹はまっこうから怪獣映画に取り組んだ。その結果が松竹の「宇宙大怪獣ギララ」であり、日活の「大巨獣ガッパ」だったのだ。

その日東「ガッパ」のプラモは、なかなか凝ったもの。映画に登場するガッパは雄雌の2体プラス子供ガッパだったが、そのうちの雄と雌を選択して作れるスグレモノだった。いや、実際は頭部の形態が違うだけなので、首を付け替えるだけのお手軽オプションだったが。

私は男の子だったので、当然のように雄ガッパを選択して作った(このへんは今の私とはちょっと違う) 当然のように、雌ガッパの頭部だけが残った

さて、そのころはまだ縁日の夜店というのがあって、ある時私はそこでヒヨコを買ってもらった。当時はアパート暮らしで犬猫のたぐいは飼えなかったのだが、親が情操教育を重視していたのか、金魚や小鳥の類をわりとよく買ってくれた。ヒヨコもその一環だったのだろう。

ヒヨコは数日は生きていて私も飼育気分を楽しんだものだが、御多分に漏れずほどなく衰弱して死んでしまった。夜店で売るようなヒヨコが、そもそも育ちそうもないヒヨコの投げ売りだったと知ったのはだいぶ後のことだったので、私はヒヨコの死をけっこう悲しんだものだが、私以上に悲しんだのは母親だった。昼間私が学校に行っている間もずっとヒヨコの面倒を見てくれていたのだから、そりゃそうか。

ヒヨコの亡骸はアパートの庭先に埋めることになったのだが、その際に母親の意向でヒヨコとともに埋葬されたのが、彼(あるいは彼女)が生前にオモチャにして一緒に寝ていた(母親の証言)という雌ガッパの頭部だった。ボール紙の箱に、花やヒヨコのエサとともに入れられていた雌ガッパの頭部は、今考えるとけっこうシュールだ。

雄ガッパの全身プラモはその後の引っ越しの際に廃棄されたが、雌ガッパの頭部は今でもヒヨコとともに、あの地に眠っているのだろう。

ところでくだんの映画「大巨獣ガッパ」を私は映画館でちゃんと見ている。当時小学生の私は、父親に連れられて池袋の映画館で「宇宙大怪獣ギララ」との二本立てを見た記憶がある(父親にはガメラなども連れて行ってもらった。今はそんなそぶりも見せないが、当時の父親はけっこう怪獣映画に興味があったのではないか。今の私よりもずっと若いころだし)

で、私はずっと「ガッパ」と「ギララ」を封切りで見たと思っていたのだが、ちょっと待て、日活の映画と松竹の映画が一緒の映画館で封切られていたはずはないじゃないか。ということはあれは名画座だったのか? 

おまけに、肝心の映画はさっぱり覚えていない。「ガッパ」のほうはやたらに暗い画面とそこに浮かぶガッパの光る眼、「ギララ」は滑走路みたいな所をこっちにずんずん進んでくる大怪獣の恐怖、くらいしか記憶にない。

そもそも私がなんでガッパやギララを見たのか、私が父親にせがんだのか、それとも父親セレクションだったのか、今では父親本人も覚えていないようだが……

そんなわけで、ガッパといえば、長い間私にとってはヒヨコとともに葬られた雌ガッパの頭部のことだけだった。そういえば、あれ以来ちゃんと見直したことがなかったな。今度いちど見直してみようか。(ちなみにギララのほうは後年LDを買った。なぜ私の印象に残らなかったかはすぐにわかった。つまらなかったんだね)

 映画つれづれ 目次


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?