500円映画劇場「フィアー・フロム・デプス」
わかりやすい英語の邦題からも容易に察しがつくように、深海サスペンスものである……と思いきや、深海なんかカケラも出てこない映画です。ジャケットイラストを見るかぎりでは、災害パニックものにも見えますね。
「フィアー・フロム・デプス」は、例によって日本製のタイトル。ジャケットには「FEAR FRON DEPTH」ともっともらしい横文字が入ってますが、これも日本製。
本来のタイトルは「THE SEA BEAST」ですが、さらにもともとのタイトルは「TROGLODYTE」原始人とか穴居人といった意味だそうです。
じゃあビッグフットみたいなものが暴れる映画かな? いやいやそれもハズレでした。
正解は、アチラ版のジャケットが正直に伝えてます。
「ジョーズ」以来、さんざん使われてきたこの構図、もはやスタンダード。はい、「海からきたナニモノかが襲ってくる」映画ですね。小さな漁師町に、海から出現した怪物が襲いかかってくるという、このジャンルの基本形のような映画でした。とくに新味は何もありません。
新味はないものの、けっこう善戦しています。もちろん「500円映画」にしては、ですが。
このジャンルのパイオニアである「ジョーズ」もそうでしたが、こうした海のモンスター系の映画が避けられないツッコミどころが「海に入らなければいいじゃん」
そう、敵は魚類系が多いので、陸にいさえすればいいのです。もちろんそれでは映画にならんので、いろいろ海に出なければならない事情を考えるのがこの手の映画のキモだったりもします。
その点、この映画は斬新過ぎるアイデアを持ってきました。
ここに登場するモンスターくん、なんでも深海魚の突然変異とかなんですが、平気で陸上にあがってくるのです。いやいや、きちんと手足があるし、エラ呼吸だか肺呼吸だか皮膚呼吸だか知らんけど、陸上でもちゃんと呼吸してます。
おかげで、海のなかで襲われる人間はおりません。
あまつさえ、陸上生物でもありえないような身体能力で、樹の上だろうが家の屋根にだろうが、ジャンプ一番で楽々到達。おまけに、光学迷彩だかなんだかでほとんど姿を消すこともできるとかで、気がつけばどこが深海生物かわからなくなってます。とはいえ、CGも、まぁ500円映画にしては上出来だし、評価してやってもいいでしょう。
ストーリーも、まあまあ善戦しているほう。主人公の漁師と海洋生物学者(もちろん女性)、その兄の保安官とハンティング仲間たち(ほら、もはや海モノじゃなくなってる)、保安官の娘とそのカレシ(もちろん親非公認)と大きく3つの人物群を並行して描いているので、それなりに厚みがあります。ホントのところ、シナリオは悪くないですね。500円映画にしては。
マズいのは、そのシナリオを演出した監督さんの腕前でしょう。
開巻早々、早くもその欠点が露呈されます。この「500円映画劇場」ではさんざん指摘してきた、アレですね。
最初の犠牲者が出るときに、もうアッケなく、アッサリと、ポンと、怪物くんが登場してしまうのです。タメも、サスペンスも、何もなし。おかげで、怪物くんの神秘性みたいなのはゼロ。これでは盛り上がらないでしょう。
500円映画を見ていてよく感じるのは、映画ってのは複雑な芸術なんだなぁということ。
映画がちゃんとして見えるには、脚本、演出、演技、撮影、演技、音楽などなど、多種多様な要素がすべて一定以上の水準でできている必要があるんですね。こうした要素がどこかひとつでも欠けると、映画全体ががくっと不出来になり、ふたつみっつ欠けるともう救いようがなくなるのです。
いわゆるメジャーな映画では、それらがいちおう水準程度に保たれているのであります。それは基礎の基礎なんですが。
そんなことを認識できるのも、500円映画の存在価値だといえますかね(いや知らなくてもいいんですよ、そんなことは)
最後に、500円映画のしぶとさを示す証拠をご覧いただきましょう。
どこの国のものかもわからないジャケットイラストですが、こうして広い世界の隅々でも見られているモノなんですよ、500円映画ってやつは。万国共通。
世界には、こういう映画を見たがる、私みたいなバカモノが多いってことですかね(笑)
2008年製作、カナダとアメリカ合作のTVムービーでした。
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