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未発売映画劇場「アメリカを震撼させた夜」

1960年代から1970年代、アメリカのテレビ放送で、非常に面白いTVムービーが多数製作・放送されたことはよく知られているが、そのほとんどが日本ではソフト化されていない(なかには本国アメリカでも未ソフト化のものもあるが)

この「アメリカを震撼させた夜」(The Night That Panicked America 1975年)も秀作の呼び声は高いが、日本では1977年にNHKで放送されて以後、ほとんど再見の機会はないまま。DVDやブルーレイはおろか、VHSもレーザーディスクも未発売なのである。

もったいないことだ。

今回、アメリカ製のDVDでひさしぶりに見直したが、ぜひとも国内ソフトの発売をお願いしたくなったくらい、よく出来た映画だった。

ご存知の方も多いと思うが、この映画は実話をもとにしている。

1938年10月30日、つまりハロウィンの夜、全米ネットワークのCBSでラジオドラマ「マーキュリー劇場」が放送された。原作は、H・G・ウェルズの「宇宙戦争」

火星人が地球に侵攻してくるこのSF小説を、番組を制作した俳優オーソン・ウェルズは、まさに今、実際に火星人が攻撃してきているかのように、ラジオの臨時ニュースと実況中継の体裁でドラマ化した(日本語では同じ「ウェルズ」だが、H・Gは「Wells」、オーソンは「Welles」で、ビミョーに違う)

舞台をイギリスからアメリカに移し、現実の地名を使っての実況中継で、火星人の出現から攻撃の開始、迎撃する軍隊のようす、公式の記者発表などを模して立体的に再現して聞かせたのだ。

あまりにも迫力あるそのドラマが、予想外の事態を引き起こす。火星人侵攻を本物と勘違いした聴取者たちがパニックに陥ったのだ。

われがちに避難するもの、迎撃に参加しようと銃を持ち出すもの、局には問い合わせが殺到し、ついには警察が出動することになる。

この番組でオーソン・ウェルズは一気にその知名度と評価を高めたのだが、その事件があった夜、番組を作るウェルズたちと、パニックに陥った人々を並行して描いたのがこの「アメリカを震撼させた夜」なのだ。

PCもデジタル音源もなく、それどころか録音もままならない時代に、さまざまな工夫で迫力ある音響効果で迫真のドラマを作ってゆくウェルズ(演じるのは、主にテレビで活躍した俳優ポール・シェナー)たちのスタジオの再現は、じつに興味深いし、ヴィク・モロー(「コンバット!」)とアイリーン・ブレナン(「スティング」)が演じる夫婦とその家族の行動を軸にしたパニックの描写はスリリングである。

無駄がなく、テンポの良い映像を作り上げたのは、製作・監督にあたったジョセフ・サージェント(傑作「サブウェイ・パニック」の監督)の手腕ゆえだろう。今の時点で見てもまったく色あせていない、正真正銘の傑作といっていいと思う。

かつてテレビ放送を見たときに、当時高校生くらいだった私は、フィクションのドラマを鵜呑みにしてパニックに陥る人々を、かなり上から目線で「なんて馬鹿ども」みたいな感想を抱いた覚えがある。

まあそう思わせる演出がされているせいもあるだろう。いまこれを見る現代人たちも、多かれ少なかれ、そんな感想を抱くのではないか。

しかし、SNSの噂やネットのフェイクニュースに踊らされて騒ぎ立てる現代のわれわれは、はたして彼らを笑えるのだろうか?

こんな時代だからこそ、いま見る価値のある映画かもしれない。国内ソフトの発売を熱望したい。

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