未発売映画劇場「女子レスラーvs殺人ロボット」
前にメキシコのプロレスラー、ミル・マスカラスの映画を見て、メキシコ映画の底知れなさを感じたわけだが、さらなる深みを掘ってみることにした。
今回見たのは、同じプロレスラー映画でも、よりディープな女子レスラーものである。
原題は「Las luchadoras contra el robot asesino」という1969年の作品。ま、タイトルが表わしている通りの内容。
悪の科学者が殺人ロボットを駆使して次々に金持ちを誘拐する事件が発生。人気実力ナンバーワンの女子レスラー、ギャビーが、恋人の刑事とともに事件の謎に挑む(字幕なしのスペイン語版なのでこれくらいしかわからん)
メキシコのプロレスはルチャ・リブレ(自由な戦い。略してルチャ)と称し、その選手をルチャドールと呼ぶ。なので、女子レスラーは女性形でルチャドーラ。そのルチャドーラが主人公の探偵役をつとめて怪事件と戦うという、男子版のルチャ映画とまったく同じ構造なのだ。
で、その闘う相手が、たいていは怪人・怪物のたぐいなのがこの手の映画の常道。つまり、今回の場合でいえば、ルチャドーラと殺人ロボットが、映画の二本柱ということだ。
しかし、この映画がなかなか呆れさせるのは、肝心のその二本柱が、いまひとつだったこと。ううむ、ちょっと困ったぞ。
まずはルチャドーラだが、残念なことに本職のレスラーではない。ヒロインのギャビーちゃんを演じるのは、レジーナ・トーンというメキシコでは有名な女優兼コメディエンヌで、なかなかの美形ではある。当時のメキシコプロレス界には、ここまでの美女はいなかったんだろうな。
なので、その試合ぶりが素人同然なのは当たり前なんだが、それでも試合のシーンがたくさんあるのはルチャ映画のお約束だから仕方ない。
だがギャビーちゃんのファイトは、ハンマースローとフライングメイヤーだけで、相撲のぶつかり稽古よろしく、延々と相手をブン投げ続けて、最後は唐突にコブラツイストかなんかで決めるだけ。これをしてプロレスと称されてはプロレスファンは怒るだろう。おまけにこの単調なファイトで観客がエキサイトするあたりは、なんともウソ臭くていいね(ちなみにギャビーちゃん以外の女子レスラーたちは本職らしい。なので彼女たちの見事な受け身はたっぷり鑑賞できる)
ま、そのへんは仕方ないのだが、なんとも納得いかないのは主役のスターたるギャビーちゃんのコスチューム。全身タイツで頭部以外をすべて覆っているのだ。おまけに青や赤の単色。相手の女子レスラーたちはちゃんと水着風のコスチュームをまとっているのに、彼女だけは肌の露出が少ない、なんともダサいスタイル。これはいったいどうしたわけだ。
女優として、こんな映画で肌を見せられないという意地かとも思ったが、シャワーシーンはちゃんとあるし、だいたい肌は見せていなくても、ボディラインはクッキリ見せる衣装なのだから、なんとも理解に苦しむ。何か宗教的な理由でもあったのだろうか。
対するロボットのほうも、はなはだ残念な出来栄えだ。
映画がはじまった最初のカットで、いきなりもう「殺人ロボット」が出てくる。ロボットに関する説明は特にない(ように見える) 作るところからはやらないにしても、どういう仕組みなのか説明くらいするもんだよな、普通は。ひょっとして当時のメキシコでは、殺人ロボットは一家に一台あるくらいポピュラーだったのか?
そのロボくん自体がまた、なんとも言えない情けなさ。どう見ても銀色の仮面をつけたオッサンにしか見えないのだ。黒メガネ、黒服と、最後まで律義にかぶっている黒い帽子が、ますますオッサン臭さを倍増させる。
おまけに、動きがぎこちない。やはりメイクが重すぎるのだろうか。まあロボットらしい動きといえないこともないが、それにしてはつまずいたり、よろけたりした際の反応は、やけに人間臭いぞ、ロボくん。
そうした見かけとは裏腹に、このロボくんは猛烈に高性能らしい。創造主の科学者は、昔のステレオ装置についていた音量ダイヤルみたいなのが一つだけついたリモコンでロボくんの動きをすべて制御しているみたいだ。だが、そんなわけはないので、たぶん中に人間が入っているのと同等くらいの高度に自律式のロボなんだろう。たぶん。
インターフェイスもなかなか素敵で、標的の金持ちの顔写真がプリントされたカードをロボくんのお腹のスロットに差し込むと、合点承知とばかりに出動。どういう仕組みなのか金持ち本人の所在地をたちどころに突き止めて殴り倒して誘拐してくる。なんて高度なロボットだ、アシモなんか足元にも及ばないぞ。
最後は、悪の科学者の持っていたリモコン装置をギャビーちゃんが蹴飛ばしただけで、いきなり火を噴いて装置が壊れ、同時にロボくん本体も爆発する。いくらなんでもその理論がわからなさすぎるし、だいたいロボくんそれじゃ弱すぎだろ。
と、映画の二本柱がなかなか不調なのだが、それだけにはとどまらない。
じつはこの映画は謎が多く、なぜか悪の科学者の屋敷の地下牢には、改造人間と思しき怪人がいたりするのだが、これがストーリーと何の関係があったのかもよくわからないし、最後にはこの技術を生かした半ロボ半改造人間の女子レスラーも出現するのだから、ますます意味が分からん。
結局のところ、やっぱりメキシコ映画は底知れないという結論に達しただけ。まあ、それがメキシコ製ファンタスティック映画の「味」だということか。
おまけに、ルチャドーラ映画は、このほかにもたくさんあるらしい。ここは頑張って、まずはスペイン語の勉強でもするかね。
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