さらば、ハーフボイルドの男
ジェームズ・ガーナーが亡くなった(2014年7月19日ロサンゼルスの自宅で死去。86歳)。
「大脱走」の調達屋をはじめ、「グラン・プリ」とか「砦の29人」などの大作、ワイアット・アープを好演した「墓石と決闘」、後年のコメディ「ミスター・タンク」や、見事なセルフパロディを見せた「マーヴェリック」など、多くの主演作は忘れえない。冥福を祈る。
しかし、ジェームズ・ガーナーといえば、なんといっても、飄々とした「ハーフボイルド探偵」がいちばんだ。
現代の騎士としてストイックに生きるハードボイルド探偵は、カッコイイ。タバコをくゆらし、バーボンをすすり、「タフでなければ」とかいうセリフを決める。男のカガミだよね。
でも、人間、そんなにカッコつけて生きていける奴ばかりじゃあない。ストイックに生きようとしても、ついつい弛むところがあるのが、人間だ。
そんな、ハードボイルド探偵ほどカッコヨクなくても、十分面白い、ちょっとファンキーな探偵ものを、「ハーフボイルド探偵」と呼ぼう。
すみません、これは双葉十三郎先生の命名ですね。ハードボイルドほどハードでない、ハーフボイルド(半熟)、魅力ある存在でしょう。
その「ハーフボイルド探偵」を演じて、いちばん似合ったのが、ジェームズ・ガーナーだったと思う。
ハードボイルド探偵の神的存在である、かのフィリップ・マーロウも、彼が「かわいい女」(1969年)で演じたとたん、なんとも軟弱な探偵に見えてきたもんだ。
いちばんの当たり役、一日200ドルのしがない探偵ジム・ロックフォードなど、「ハーフボイルド探偵」のそのものだった。もちろん、絶妙な吹き替えの芸を見せてくれた名古屋章の功もあるが、やはりガーナ—のとぼけた表情あってのものだったろう。
その「ロックフォード氏の事件メモ」で、どのエピソードだったか、誘拐犯からの脅迫電話に答えるシーンが真骨頂。
犯人が強気に出ると、いきなり「だめだ」とか言って、自分から電話を切ってしまうのだ。
周囲は驚ろき慌てるが、本人は泰然自若。激怒した犯人が電話をかけ直してくるのは計算通り。これで完全にペースを掌握するんだから、なかなか人を喰った探偵だったな。もちろん、涼しい顔で人質も身代金も取り返す。
ああいうふうに気楽に、飄々と生きたいものだとずっと思っているが、まあなかなかそうはいかないもんですよ。
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