この心霊を見かけませんでしたか?

霊的に鈍いのか、単に縁がないだけなのか知らないが、50年以上生きてきて一度も幽霊とか見たことがない。だから幽霊なんかいないんだと断言するほど狭量ではないつもりだが、前にも書いたとおり、いまのところ私自身は幽霊の存在を、あまり信じていない。

なので、私が子供のころに流行っていた「心霊写真」も、わりと平気だった。学校の教室なんかでみんなでヒャーヒャー言いながら見るのは、面白かったけど。

そもそもほとんどの「心霊写真」は、そう言われなければわからない程度のシロモノだ。「ほらここに顔が見えるでしょ」「ね、手が一本余分でしょ」「この場所で殺人があったんだよ」などといった説明がないと、何だかわからないフツーの写真だし、たいていはピンボケか、露出不足か、手ぶれかで失敗したダメ写真に過ぎない。

今のように全自動のデジカメがあったわけではない時代。いまでは信じられんかもしれないが、当時はピントも露出も手動だったし、フィルムの巻き上げだって自分でやった。だから余分な光が入ったり、二重露光なんて、しょっちゅうだった。現像中の事故もけっこうあったしね。そうした結果の余計なお客さんが「霊」に見えたりすることも、そりゃあるわな。

たしかに、何もないと思っていた写真をまじまじと見なおして、いきなりそこに顔っぽいものが浮かび上がったりするのはびっくりするし、不気味に感じたりするが、それは超常現象とは別のことでしょう。

そんなわけで、心霊写真は大して好みではないのだが、じつはひとつだけ、すごく気になっている心霊写真がある。

それを見たのは、例によってテレビの超常現象番組だったと思う。いまから40年くらい前のことなので、番組名や前後関係はまったく覚えていないが、その写真のことだけは鮮明に覚えている。

撮影場所はブラジルと紹介されていた。いまは廃屋となった古い教会の信徒席を撮影した写真(モノクロだったと思う)が、それだ。

何のつもりで撮影したかは知らないが、誰もいない古教会の中を撮影した写真だった。

「誰もいない古教会」だったにもかかわらず、出来上がった写真には、そこの信徒席のすべてに、真っ黒い人影が着席していたのだ。

番組で紹介されたその写真には、すべての席を埋める、たくさんの黒い人影が、わりとはっきりと写っていた。ピンボケとか二重露光ではないだろう、たしかに。

その教会の床下から大量の人骨が出た、とかいう「お話」がついていたような気がするが、その写真のインパクトの前には、蛇足にしか聞こえなかった。それくらい強烈な写真だった。マジな話、ちょっと怖かったよ。

だが、この写真が印象に残っているのは、そんなことのせいだけではない。

超常現象を信じていないけど好きな私は、いまに至るまで、その手の話題はけっこうチェックしている。心霊写真も、本やテレビや、最近ではネットでも、ちょくちょく見ている。そんな過程で、何度も同じ写真に遭遇するのは、この道が好きな人ならば経験があるだろう。あ、これ見たことある、ってやつ。

有名なイギリスの「階段の手すりに手だけ」とか「階段に立つぼんやりした人影」の写真とかね。

ところが、このブラジルの古い教会の写真だけは、あれ以来、一度も見かけていないのだ。シチュエーションも絵柄も、インパクト充分な写真だけに、このジャンルの古典として語り継がれる資格充分だと思うのだが。

ここ数年、思い出すたびにさまざまなキーワードで検索したり、その手のサイトをチェックしたりしているのだが、いまだに発見できない。似たような写真すら、見かけないのだ。最近では、あの写真、はたして実在したのかどうか、夢か何かで見ただけなんじゃないかと、自分の記憶を疑ってしまうこともしばしばだ。

誰か、あの不気味な心霊写真を覚えている人はいないだろうか?(もちろん、すべてがヤラセだったという可能性はあるんだけど……)

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