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未発売映画劇場「刑事コロンボ最初の事件」

ピーター・フォーク演じるコロンボ警部の初登場が、1968年2月にアメリカで放送された「殺人処方箋」というTVムービーだったのは、周知の事実。日本ではNHK・UHFの試験放送で放送された後、1972年の大晦日の夕方に、地上波の第1放送(現在の総合テレビ)で、単発で放送された。

私は偶然にもこの放送を見ていた。なんで大晦日の忙しいさなかに、とも思うが、当時は中学生だから、暇だったんだろう。

ただし、このときにコロンボ警部は見ていない。

ジーン・バリー演じる精神科医がたくみなアリバイ工作で妻を殺す場面まではけっこう面白く見ていたのだが、殺人成功の場面までで、テレビの前を離れてしまったのだ。だからこの後に登場して医師を追求するコロンボの姿はカケラも見ていなかったのである。なんということか!

当然、この時点では、これが「刑事コロンボ」というシリーズものになるとはまったく知らず、ただ印象的な邦題、ロールシャッハテストを使ったようなタイトルバック、それに巧妙な殺人という部分は印象に残った。

その後、シリーズのレギュラー放送で人気が出てから「殺人処方箋」との関係を知り、それからずいぶん後になって、ようやく全編を見た次第。いやホント、惜しいことをしたもんだ。

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資料などによっては、この「殺人処方箋」を「シリーズ開始前のパイロット版」などと紹介しているものもあるが、これは間違い。この作品はあくまで単発のTVムービーで、シリーズ化のためのパイロット版は1971年3月にアメリカで放送され、日本ではレギュラー放送の一編として放送された「死者の身代金」のほうだ。

さて、この「殺人処方箋」が舞台劇をもとにしたものだということは、どれくらい知られているんだろうか。

1962年に上演された舞台劇で、ここでコロンボ警部を演じたのは、この直後に死去した名優トーマス・ミッチェルだったそうだ。もしミッチェルが1968年まで生きていたら、コロンボ警部はピーター・フォークではなく、ミッチェルが演じることになっていたのだろうか。

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こちらがトーマス・ミッチェル

さてその舞台劇は、もちろんのちに「刑事コロンボ」シリーズを作る製作&脚本のコンビ、ウィリアム・リンクとリチャード・レビンソンが執筆したものだが、ややこしいことに、この作品にもまた原作がある。おまけにこれがまたテレビドラマなのだ。

つまり「殺人処方箋」は、テレビドラマ→舞台劇→テレビドラマという経緯をたどっていることになる。

では、その「元祖・刑事コロンボ」といえるドラマはというと、タイトルは「Enough Rope」 1960年の7月31日に「The Chevy Mystery Show」というシリーズの一編として放送されたものだった。

「The Chevy Mystery Show」は1960年から61年にかけて、アメリカで放送されたオムニバス形式のミステリドラマで、前に紹介した007シリーズ初の映像化作品である「カジノ・ロワイヤル」を放送した「クライマックス!」や、「ヒッチコック劇場」「ミステリーゾーン」などと同趣向のものだ。タイトルからして、自動車メーカーのシボレー社がスポンサーだったのだろう。

IMDBで調べると、全部で18エピソードが製作されたようで、そのほとんどはこの「Enough Rope」のようにオリジナルだったようだが、なかにはスティーブンスン原作の「自殺クラブ」なども含まれている(これはネット上で見ることができるようだ)

60分枠だったようなので、「Enough Rope」は、のちの「殺人処方箋」よりはかなりコンパクトな内容だったと思われるが、あらすじなどを見る限り、ストーリーに大差はないようである。

と、歯切れのわるい言い方になるのは、このドラマ、生放送だったそうで、映像が現存していないせいである。現在では到底考えられないことだが、この当時はスタジオで俳優たちが演じるさまをそのまま生中継するスタイルのドラマは、けっこう多かったと聞く。生放送にともなうリスクよりも、録画用の機材の方が高価だったんだろう。

なるほど、舞台劇になるくらいだし、TVムービー版の「殺人処方箋」を思い返してみても、たしかに精神科医の家がほとんどの舞台で、せいぜい飛行機内の一幕を加えればいいだけだし、登場人物もそう多くはないので、生放送ドラマでも充分できる気はするな。

なので、当然、私もこの「Enough Rope」は、見たことがない。ネット上を探っても、いくらかのスチール写真が残っているそうだが、残念ながら動画は残っていないようだ。

そんなわけで、バート・フリート(よく知らん)が演じた初代・コロンボ警部の雄姿は、残念ながら見ることがかなわない、幻のコロンボなのである。

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こちらが「幻のコロンボ」バート・フリート

ただ前述した「カジノ・ロワイヤル」も生放送だったというが、なんとか映像が再発見されて、今では曲がりなりにも鑑賞することができるのだから、いつの日かこの初代・コロンボの活躍を目にする日が来るのかも知れない。その日が来ることを、祈ろうではないか。

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