ドラゴンは100の顔を持つ
このほど新宿ピカデリーで「新宿ピカデリー8周年記念『ブルース・リー』特集上映」が挙行されます。
新宿ピカデリーって、ずっと昔からあるじゃん。あそこで「タワーリング・インフェルノ」も「ジョーズ」も「未知との遭遇」も見たぞ……っていうのは年寄りの証拠(笑) かつては都内有数の大劇場型映画館だった新宿ピカデリーも、現在はコンプレックス(複合館)となっていて、そうなってから8周年なんだそうです(じつは行ったことないけど)
で、それはともかく、記念上映があのブルース・リーだってのが泣かせるじゃないですか。
同館のホームページで見たら、こんなラインナップ。
7/4(月)『ドラゴン危機一発』日本初公開復元版英語音声版
7/5(火)『ドラゴンへの道』オリジナル英語音声版
7/6(水)『燃えよドラゴン -ディレクターズ・カット版- 』日本語字幕版
7/7(木)『ブルース・リー/死亡遊戯 -日本初公開版(英語音声)- 』
これは見逃せない……のか?
問題なのは、各タイトルの後ろにくっついている「~~版」ってやつです。
ご存じのように、ブルース・リーの作品は、じつにさまざまなバージョンが混在していて、非常にややこしいのであります。はっきり言って、今回上映されているバージョン、私は過去に見たかどうか把握できていません。
もっとも有名なのは「燃えよドラゴン」の例でしょう。
これにはアメリカのワーナーブラザースが仕切った「国際版」と、香港のゴールデンハーベスト社が仕切った「香港版」があるのです。ちなみに日本で劇場公開したのは「国際版」だったはず。
このバージョンには「香港版」にはある少林寺官長(のちに「インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説」にでたロイ・チャオ)との対話が、カットされて存在しないのです。メインタイトルのデザインも、「香港版」とは違うし。
のちにこの部分を追加した(でも「香港版」ともちょっと違う)のが、今回上映される「ディレクターズ・カット版」らしいです。
こうした事象が、ブルース・リーの各作品で生じているのであります。
そもそも、「燃えよドラゴン」の大ヒット後に日本で次々に公開されたリー作品は、いずれも英語版での公開でした。「燃えよドラゴン」のイメージを保ちたかったのでしょうか。さらに音楽を変更したり、さまざまな手が加えられたものでした。
また、当時の香港映画は北京語で公開されるのが習慣でした。香港市民は広東語を使っていたのに(この習慣は「ミスター・ブー」あたりから変わりました。ジャッキー・チェンの映画は最初からちゃんと広東語でしたね)
なので音声は基本的に、北京語への吹き替えになっていました。もちろん本人の声ではありません。
ブルース・リーはサンフランシスコ生まれだったので「燃えよドラゴン」の英語版音声は本人のものですが、その他の作品(いずれも「燃えよドラゴン」以前の作品)では他人の北京語吹き替えになっていたのです。なんと、あの怪鳥音(アチョオオオオオオオ)も、リーのものではないのがあったとか。
そんなこともあって、日本の配給会社は英語版を採用し、さらにいろいろと細かいことを気にする日本の観客のため、リーの肉声の録音を探して来るなど苦労したそうです。
おかげで、後年になってビデオやレーザーディスクで再現されたブルース・リー作品は、北京語版だったり、広東語版だったりしたせいで、熱心なファンからは「ちがう」コールが絶えず、また音楽も日本初公開当時のものとは違うなどするので、「あの感動をもう一度」という声が多いとか。
というわけで、その後の歳月の間に、ソフト化されたり、再上映されたりしたものでは、いろいろな「復元版」が作られ、結果として、混在することになったのです。
なかでも「死亡遊戯」はリーの死後に残存していたフィルムに大量の撮り足しをして作ったせいもあって、私が見ただけでも「日本公開版」「香港公開版」「台湾公開版」「フランス公開版」などなどが存在するので、もはや何がなんやらわかりません。それぞれ細かいところが違っていたり、あの戦いやこの戦いがあったりなかったりで、これを追求すれば一冊の本が書けるほどだとか。ホントですよ、たぶん。
まあ香港映画には、いや香港映画に限らず、こうしたバージョン違いは数多くあるのですがね。
今回の上映は、だからどのバージョンなんですかね。いや説明されても、自分がどのバージョンを見たことがあるのかがそもそも不明確なんだから、無駄ですが。
まあどのバージョンでも、ブルース・リーのド迫力のファイトが見られることだけは間違いないから、まあイイか。
あれ、今回は「ドラゴン怒りの鉄拳」がないみたいだけど?
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