犯罪こそわが人生

最初に言っておこう。犯罪をやってはいけません。そもそも社会秩序を乱す犯罪は、自らの欲望や衝動を制御できない欠格者が行なう行為。何をどう言おうと、許されることではありません。

というのは、もちろん現実のお話で、フィクションとなるとまた別。アクションやサスペンスを重視する映画(男の子映画ですかね)では、悪役として犯罪者は欠かせません。

ではどんな犯罪者が(フィクションでは)魅力的な悪役なのか?

このジャンルでは、やはり「007シリーズ」がトップランナー。

ヒーローたるジェイムズ・ボンドを敵に回す悪役は、重要。シリーズではボンド役に匹敵する大物俳優が演じる役回りです。

その大物悪役たちには、共通する特徴があります。

それは「動機がない」こと。

考えてみてください。ブロフェルドも、ドクター・ノオも、エミリオ・ラルゴも、ドクター・カナンガも、スカラマンガも、カール・ストロンバーグも、みんないったい何のためにあんな大悪事をたくらんだんでしょうね。

金? 名誉? 征服欲? いやいや、そんなセコイ動機ではありません

ここで最大の大物、オーリック・ゴールドフィンガー氏の演説を見てみましょう。

Man has climbed Mount Everest, gone to the bottom of the ocean. He's fired rockets at the Moon, split the atom, achieved miracles in every field of human endeavor... except crime! (人類はエベレストに登り、深海に達した。月へロケットを飛ばし、原子を分裂させ、あらゆる分野で奇跡を実現させた……犯罪以外では!

最後の「except crime!」がいいですね。名優ゲルト・フレーベの滑舌でまくしたてると、最高にカッコイイ。

そう、これこそが、彼らの動機なんでしょう。

かつてエベレスト登頂に挑んだジョージ・マロリーは、その動機を尋ねられ、こう答えたそうです。

Because it's there.(そこにあるから

目の前にある大きな目標に挑むのに、欲など関係ないのであります。ううん、カッコイイ。

名探偵シャーロック・ホームズの宿敵で「犯罪のナポレオン」の異名をとるモリアーティも、そうですね。犯罪界に隠然たる勢力を持ち、多くの犯罪をプロデュースする彼も、そういえばその動機はまったく不明。

すぐれた理論をもって事件解決にあたるホームズにとって、動機不明のモリアーティはその理論が通用しない強敵。だからこそホームズをあそこまで追い詰めるのでしょう。

そのへんはホームズ譚を現代に持ち込んだ「シャーロック」に登場する現代版モリアーティが見事に体現していました。ベネディクト・カンバーバッチ演じるシャーロックを、メディアをあやつり、自らの命を賭してまで追い込んでゆくモリアーティは、演じるアンドリュー・スコットの怪演もあって迫力充分ですね。彼が復活するらしい第4シリーズが楽しみです。

スーパーマンに対するレックス・ルーサーや、バットマンに対するジョーカーやペンギンなど、スーパーヒーローに対する悪役たちも、総じて、これといった動機は明示されません。仮面ライダーに対するショッカーも、何のためにやってるんだかよくわかりません。

世界征服ってのもよく言われる動機ですが、じゃあ世界を征服して何が得になるのか、彼らの言動からは、はかり知れないものがあります。

要するに、やりたいからやってるだけ。偉大なる犯罪者には、動機なんて必要ないってことなんですね。

近年の007シリーズに私が不満を持っているとすれば、この点です。過去の恨みつらみや不満から悪に転ずるのでは、こうしたスケールは感じられないではないですか。そのほうが、人間味のあるリアルな悪役を描けるって? そんなことは、お呼びじゃないんですよ、悪役には。 

  映画つれづれ 目次

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?