火星へいらっしゃい

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『火星の人』(アンディ・ウィアー著)を原作とした映画「オデッセイ」がアメリカではもう公開されて、ヒットしているようだ。

事故で火星に置き去りにされた宇宙飛行士の、あの手この手のサバイバルを描いたこの物語。原作はSF小説として出版され、今のところ映画のほうもSF映画として紹介するのが大勢のようだが、私が読んだ限りでは、まったくSFではないと思う。サバイバル冒険ものだろう、これは。まあ、なんにせよ、早く見てみたいものだ。公開は来年? 待てないよ。

で、火星の映画といえば、私がイのいちばんに思い出すのは、「カプリコン・1」だ。1977年の年末に公開された映画である。

この映画に関しては、あんまり内容を紹介したくない。事前に何も知らないで見たほうがいい映画だからだ。

そういえば、この映画も、公開前には「SF映画」と紹介されていたっけ。人類による有人火星探査をテーマにした映画だからで、その点は嘘ではないのだが、じつはまったくSFではない。公開当時、封切り直後に何の予備知識もなしに見た私は、その内容に大いにびっくりしたものだ。

今は海外の映画情報がリアルタイムに近い形で入ってきて、誰でも目にすることができるが、このころはまだそんなことは夢物語。おまけに、この「カプリコン・1」、じつは海外の公開に先駆けて、日本で先行公開された映画だった。当時の私が、まったく白紙に近い形でこの映画を見て、けっこうな衝撃を受けたのも無理はない。

なので、ここでその内容は語らない。この映画は、なるべく白紙な形で見てもらいたいからだ。すでに見た人には、その意図はわかると思う。

もっとも、仮に今この映画を全く白紙の状態で見ても、当時の私ほどの衝撃は受けないだろう。じつはこの作品をもとに、ある都市伝説が生まれ、今では広く流布しているからだ。だから映画を見ても。あああの話かと思われてしまうだろう。ほんとうは、こっちが本家なんだけど

それはともかく、この映画で非常に重要なのは、じつはそこではなかったりする。

「カプリコン・1」は、たぶん史上初めて、アクションシーンにステディカムを使った作品なのだ。

カメラの「ぶれ」を吸収して画面を安定させる装置であるステディカムは、今では普通に使われているものだが、当時はまだ目にしたことがなかった。「カプリコン・1」でこれが使われたシーンは、中盤のカーアクションと、クライマックスのエアチェイスのシーン。その臨場感と迫力は、衝撃的だった。

私がこの映画を見たのは、今なもうない「テアトル東京」だった。当時の東京では唯一のシネラマ上映館だったここの、よりによって最前部に近い席、巨大なスクリーンのすぐ近くで見たのだ。その迫力といったら!

それまでのテアトル東京では多くの映画を見たし、その後もたくさんの映画を見た。だが、この「カプリコン・1」以上の迫力を感じたことはない。いやまあ、最前部の席で見たことも他にないからかもしれないが。

とくにエアチェイスシーンの臨場感はヤバかった。この後に公開された「スター・ウォーズ」のデス・スターでの空中戦シーンと似ている感もあるが、特撮でない実写なだけに、こちらのほうがはるかに凄い。おかげで上映終了後、私は完全に飛行機酔い状態で、ゲロを吐いてしまった。映画を見て吐いたのは、後にも先にもこの時だけだ(リアルの飛行機でも酔ったことはないのに)。

この映画の監督のピーター・ハイアムズは、このステディカム撮影を得意技にしていたようで、その後も「ハノーバー・ストリート/哀愁の街かど」(1979年)なんて言うロマンス映画でも使っていた。とくに必然性はなかったのにね。

のちに「シャイニング」などでも使われて定着し、CGがふつうになった今ではそれほどのインパクトはないだろうし、さすがにテレビモニターでの再見で吐き気は感じなかったが、それでもこの映画が「初の」ステディカム・アクション映画であることは、たぶん間違いのない歴史的事実だろう。覚えておいて、損はないと思う(ほんとかよ)

さらにいうなら、この映画は「国家が悪役になる」というサスペンス映画のハシリでもあるのだが、こちらはネタバレになるので、ここでは語らない。

何はともあれ、非常に面白い映画である「カプリコン・1」、今では忘れかけられている(なにしろ40年ちかく前の映画だ)が、機会があればぜひとも見ていただきたい映画のひとつではある。

火星から帰るのもタイヘンだが、火星に行くのも、えらくタイヘンなのだよ。

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