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入院騒動〔2〕

私が入院したT病院の分院は、わが家近所の川崎市内ですが、転院先の本院は東京都心。

どうやって行くのかなと思ったら、ちゃんと病院専用のシャトルバスがありました。車体に病院のロゴが入ってるやつ。そういえば近所を走っているのを見かけたことがあったな。

なにせ病院内の様子もまだよくわからないし、酸素吸入継続中なので、病院のバス乗り場までは酸素ボンベを携えての車椅子移動。看護師さんが押してくれる車椅子で、人の多い廊下をかき分けて進むと、なんか「オレって重病人」感が増します。

シャトルバスに乗り込むと(いや乗せてもらうと)大したもんで、バスには車内用の酸素供給システムがありました。チューブをつなぎかえれば、気持ち良い酸素が流れてきます。

酸素供給システム付きって、宇宙船みたい。

分院から本院までは首都高速経由、半時間足らずで到着。

またしても車椅子で院内を移動して病室へ。分院では2階だったけど、こちらでは12階です。

夜になってから窓から見たら、こんなものも見えてました。

ここまでは特に予定がなかった入院ですが、ここからの2日間はスケジュール多め。

病室に落ち着いたかと思ったら、もう検査開始です。

この日の夕方から、肺機能測定レントゲン撮影

肺機能測定は、要するに肺活量検査の複雑なやつですが、これがキツイ。呼吸が苦しい(ちょっと痛みまであった)のに、その肺を目いっぱい酷使させられます。

「いっぱいまで吸って……止めて……まだまだ……ハイ、一気に吐く!」

これをさまざまな設定で繰り返し測定します。複雑そうな装置にむかってとか、ボックス内に入ってやるとか。うまく出来ないと、やり直し。咳が出る、むせる、疲れる。

30分以上かかって、汗まみれでなんとか終了。

レントゲン撮影は楽でしたが、移動もあったのでこの日は疲労困憊。なんとか夕食を終え、テレビを見ながらゴロゴロしていたらすぐに眠くなりました。

もうひとつ、一連の検査で苦戦したのが、採血

いや、私は苦戦してません。苦戦するのは採血をしてくれる側。

その後も何度も行なわれた採血検査ですが、そのたびにドクターや看護師さんが「うーん」と悩んでます。

どうやら私の血管は、深くて細いらしい。

退院してから聞いたら、どうやら母親譲りなようで、先年やはり入院生活をした母親も、同じような迷惑をかけていたとか。親の因果か(笑)

なかでも大変だったのが、本院でやった動脈血の採血

これは初体験だったんですが、ふつうの採血と違って、見るからに恐ろしげな長い針のついた注射器みたいなのでブスっとやるわけですね。

この時の担当ドクターも大苦戦。

肘の裏か手首か脚の付け根でやるらしいのですが、あちこち試してみても、なかなか動脈が見つからず、ままよとやってみた最初の左腕では採血できず。

やり直しの右腕で、ようやく採血に成功したのは、数十分ののち。失敗した側とあわせて、両腕にはしばらくの間、痣が残りましたとさ。

その後も、採血と注射で、入院中に私の体は穴だらけになりました。

分院ではまだ初心者だったので、病室の酸素供給システムから携帯用の酸素ボンベへの繋ぎ替えは「見守り」必須でした。つまり繋ぎかえる時には必ずナースコールで看護師さんを呼ぶわけですが、トイレに行くだけでも、そのたびにこれをやらねばなりません。

めんどくさいなと思ってたんですが、本院では1回やっただけで「もう大丈夫ですね」と免許皆伝。

分院ではボンベだけが載る携帯カート(その名も「どこでもボンベカート」これ、商品名です)でしたが、本院では点滴の予定もあるので、背の高い点滴スタンドが黒い酸素ボンベ付きで貸与されました。しばらくはトイレなど院内を移動する際も、この相棒を連れて歩くことになりました。相棒にして親友。

名づけて「酸素くん

酸素くんを引き連れてのごく短い距離限定ですが、ようやく行動の自由を取り戻した感じでしたね。

さて、翌金曜日。

気管支内視鏡検査は麻酔を使うので、当日朝は「絶飲食」

ま、あまり食欲がないので、それ自体はかまわないのですが、検査は昼前からの予定。それまでは、またヒマなのかなと思ったら、そうはいきません。

朝から準備で、入れ替わり立ちかわり、さまざまなものがやってきます。

前日に続いて、深くて細い血管に苦しめられたのが、点滴

検査の際の麻酔などのほか、その後の治療でも使うとかで針を留置するのですが、その針を刺す地点を見つけるのがまたひと苦労(いや苦労したのは私でなく看護師さんですが)

すいませんねえと思っても、こちらは何の協力もできないのが申しわけないところ。

考えてみたら、点滴を受けるってのも、人生初体験でしたね。

検査の都合があるとかで、内視鏡検査室までは車椅子でなくストレッチャーでの移動。ますます「オレって重病人」感が増します。

じつは、私は内視鏡検査が大の苦手。

消化器系のは何度か受けたんですが、とくに胃カメラは何度やっても、いつもなかなか入らないのです。

最後に受けたときには(もう何十年も前)あまりにゲエゲエやるので、担当ドクターが「全身麻酔」とかの断を下して強制睡眠。それまでは苦しかった苦しかった。

以後頑として胃カメラは拒否してきたんですが、今回は同じ喉でも気管に入れるわけで、苦しいに決まってそう。ドクターには再三胃カメラの一件を訴えて善処をお願いしたのですが、そもそも気管支内視鏡は麻酔かけてやるものなんですね。

いや苦しかったのは、検査そのものよりも、その麻酔

歯医者さんなどでも使う麻酔薬で口や喉の入り口を麻酔したあと(苦い!)喉の奥を麻酔するのが大変大変。

長い金属のノズルのついた器具を口の奥に突っ込んで、麻酔薬を直接スプレーするんです。

これが苦しい。

いや口腔内は麻酔されているのでろくに感覚がないはずなんですが、人間の意識というのは恐ろしいもので、のどに管を突っ込まれてるとか思うだけで、げえっとなるのです。

なかでも舌は、勝手に抵抗したがります。そこで麻酔のドクターはガーゼを巻いた指で、こちらの舌をがっしり押さえて引っ張ったまま、喉の奥にシュッシュッ。

涙は出るし、よだれは出るし、いや苦しい苦しい。

麻酔が効いてきたら、いよいよ本番。

そのころには点滴注入した鎮静剤が効いてきたのか、意識が朦朧としてきて、おかげで恐怖の検査そのものは何がどうなったかよくわかりませんでした(薬剤がかかるといけないとかで目にガーゼで目隠しするせいもありますが)

気がついたら、検査はすべて終了。

けっこうきつかったのは、この後。

歯医者さんで麻酔をされたときにもよくあるやつですが、喉の麻酔が切れるまでは、呑み込むのがうまく出来ないので(そりゃそうだ)絶飲食なんです。

朝からずっと絶飲食だったのに……

病室までストレッチャー移動し、そこで看護師さんに「1時間は我慢でしてください」と宣告されます。

その時点ですでに正午過ぎですが、まあ仕方ないので我慢我慢。食欲ないとはいえ、これはさすがにコタえるな。

と思ったら、疲れたのかすっかり眠りこみ、看護師さんに起こされたら、我慢するまでもなく飲食解禁。

「待ち食」とか書かれたスペシャル昼食が用意されてました。箱におさまったパンやチーズなど。

ちょうど飛行機の機内食で出る「軽食スナック」みたいですが、これが美味かった!

その後ずっとお世話になった病院食の数々とくらべても圧倒的においしく感じたのは、なぜなんでしょうね。

治療は分院に戻ってからかと思ったら、検査結果を待たずに始めようということになって、その日の午後から開始されました。

自己免疫による疾患なので、ステロイド剤を使って、反乱を起こした免疫を抑制するのです。

というわけで、点滴によるステロイド剤投入開始。

ステロイドと聞くと、なにやら恐ろしげですね。かつてアメリカのプロレスラーが何人も過剰使用で死んだし、これで間違いなくドーピング検査に引っかかるんだろうとか、よぶんな知識が思い出されます。

いやじっさい、ドクターからは副作用のことでさんざん脅されました。

いわく、感染症に弱くなる(免疫を抑えるんだから、まあそうだろう)、不眠になる(なぜかこれにはならなくて、毎晩快眠でした)、食欲増進して肥満になる(おかげでカロリー制限)、骨粗鬆症になりやすくなる(カルシウムの吸収も抑えちゃうんだとか)、そしてもっとも問題になったのは血糖値が上がること。

じつは私、もともと血糖値はお高め。毎年の健康診断で洩れなく「要再検査」になって、ギリギリで「要経過観察」に逃れていたんですが、事前の血液検査でこれが判明して、要注意となりました。

そういうわけで、病院食のメニューは「糖尿」対策の食事となり、1日1700キロカロリーに制限。一般的な成人男子の必要カロリーが1日2600キロカロリーといいますがね。

ま、仕方ない。

なにやら白濁した薬液を滴らせる点滴を眺めながら、治療の間はボーっとしているしかありません。看護師さんからは、動いてもかまわないんだけど不慣れなうちはなるべくじっとしていてくださいと言われたので、寝転がってテレビを見て点滴が終わるのを待ちます。

本院のテレビはテレビカード方式でなく見放題。かわりに、地上波のみでBSが入らないシステム。

おりから開催中だったのが、ピョンチャン冬季オリンピック。

この後もそうでしたが、これにずいぶん救われました。

私はもともとオリンピック好きなんですが、ここまで濃密にオリンピック中継を見たのは、さすがに初めて。

病院のみなさんにも「オリンピックやってる時でよかったですね」とよく言われました。傍から見てもそんなにオリンピック漬けに見えたんでしょうかね。

【続く】

【だいぶん演出して書いてます。病院やそこのみなさんにはもちろん、家族をはじめ、多くのご心配やご迷惑をおかけした関係者各位には、感謝とお詫びを申し上げます】

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