入院騒動〔5〕
入院生活に慣れてくると、遅まきながら気になってきたのが、自分の身なり。
なにしろ急なことだったので、入院時には自宅から近所の医院に行ったときの服装以外、着替えも寝巻も、タオル1本すら、手元にはありませんでした。
でも病院にはレンタルという便利なシステムがありました。
入院時に妻に申し込んでもらって、寝間着、タオル、履き物などの一式を退院まで借りることにしたのです(パンツだけは、持ち込んでもらいましたが)
これは便利。
着替えて汚れた寝間着やタオルは、回収してかわりを補充してくれるので、自分で洗濯や片づけをする必要はなし。補充や回収はほぼ毎日やってくれます。まったくの手間いらず。おかげで、わりと小ざっぱりして入院生活を過ごせました。
もちろん、自宅から着なれた寝間着などを持ち込むこともできるんですが、誰もがそうしたバックアップをしてくれる家人がいるとは限らないでしょう。独り身の人が増えた現代ではなおさら。
これはなかなか優れたシステムだと思います。有料だけど。
入院当初は体調が悪いせいで、風呂やらシャワーやらは考える余裕すらありませんでした。歯磨きだけは、入院時に売店で買った歯磨きセットで何とかしていましたが、そのほかはほぼサボりっぱなし。
おかげで、分院に戻ったころには、かなりのぼさぼさ頭にヒゲ面。鏡で見ると、われながらワイルド。
まして、しばらく床屋に行ってない時期に入院となったので、ヘアスタイルは自分史的にもかなり長いほうになってきました。
分院に戻ってからかなり落ち着いてきたせいか、頭髪の状況はかなり気になってきました。ぜんぜん洗髪もしてなかったし(この時点で2週間以上!)
ただ、まだひとりでシャワーを使うのは少々おっかない気がしたので、看護師さんにお願いしてシャンプーしてもらうことにしました。入院前に自宅でくたばっているときにムリヤリ入浴してみて、すさまじい息切れに襲われたことがあったので、なんか心理的な恐怖感が残っていたのです。
病室についている共同の洗面台は、ちょうど床屋さんにあるようなやつで、そこでシャンプーしてもらえます。
担当の看護師さんが手の空いた時にやってくれるんですが、いやぁこれは極楽極楽。
頭を洗うことが、こんなに気持ちよかったのは、生まれて初めてかも。お世話さまでした。その後も1,2回、極楽気分を味わいました。
と、シャンプーはしてもらったものの、伸ばしっぱなしのヒゲはそのままにすることにしました。
私は、いまだかつてヒゲを伸ばしたことはないのですが、今回はたまたまとはいえいい機会なので、試しに伸ばしてみることにしたんです。
ただ、口のまわりのヒゲは、伸ばしてみて初めてわかったことですが、意外に邪魔。食事のたびに、いろいろベタベタくっつくんですね。
なので、口ヒゲだけは剃り落としました。
結果どうなったか? ご覧のとおり。
↑ こんなに白いものが混じるとは思わなかった
あまりにも見苦しく、家人にも評判が悪かったので、退院後に床屋に行ってさっぱり剃りました。
入院生活最後の1週間は、かなり体調も戻り、退屈以外の苦痛はほとんど感じなくなってました。
治療が順調に進んだ証拠で、現代医学にまたまた感謝。
そうなると、いろいろ変化も生じます。
まずは、ある日看護師さんがやってきて、申しわけなさそうに「酸素濃度測定、もういいみたいなんで」といって、ずっと指先につけていた測定器を持っていってしまいました。なんでもほかのもっと重症の患者さんが入院してきたのに、数が足りなくなったからだとか。
正直言って、指先からのコードがついた測定器(スマホの分厚いやつくらいのサイズ)は、コードが絡まったりいろいろうっとうしくなってきたので、渡りに船でしたが。
次いで、もうほとんど使うこともなくなっていた、親友の酸素くんが没収されました。これは必要なくなったからということと、ボンベを載せていた移動可能の点滴台が他の病棟で不足してきたからだとか。
さよなら、酸素くん。
さらに退院の数日前には、何か手術直後の患者さんに必要だとかで、ベッドの安全柵まで持っていかれました。
病院の資材のやりくりって、けっこう大変なんですね。
↓ 画面奥側の柵が没収?されました。べつに転げ落ちたりはしなかった。
それにしても、食事は用意され、衣服の面倒も見てもらい、掃除など身のまわりの世話までしてもらえる。
考えてみたら、これってほとんど王侯貴族の暮らしではないですか。
病気にまつわるさまざまな苦痛と、行動の自由があんまりないことを除けば、だけど。
何か間違って、大富豪になりでもしたら、たぶんこんな暮らしを送ることもできるんだろうなぁ。
そう思ったら、なんか大富豪とか王族とかの暮らしへの憧れは、だいぶん薄くなった気がしましたね。
【続く】
【だいぶん演出して書いてます。病院やそこのみなさんにはもちろん、家族をはじめ、多くのご心配やご迷惑をおかけした関係者各位には、感謝とお詫びを申し上げます】
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