大統領最強説

1997年の「エアフォース・ワン」を再見した。

大統領専用機がハイジャックされ、ハリソン・フォード演じる大統領(宇宙の海賊や冒険考古学者がずいぶん出世したもんだ)が、単身徒手空拳でハイジャック犯であるロシア守旧派のテロリストを粉砕するという、文句なしの娯楽映画。いま見るとさすがにちとCGが古いが、それでもよく練られたアクション劇として、充分面白かった。

たとえば、緊急時の大統領権限の扱いとか、大統領継承法とか、女性副大統領の登場とか、なかなかウンチクを傾けやすい映画でもあったので、いっしょに見ていた息子にずいぶん講義してやれたし。

まあ、大統領たるものテロリストの一人や二人は殴り倒せないといけないということで、折から熱戦展開中の大統領選挙で有力な、ヒラリーもトランプも、その点では大統領失格なんじゃないのかなと思ったよ。

それはともかく、ここで登場するハリソン・フォード大統領、昔映画館で見たときはさほど感じなかったが、いま見るとけっこうなタカ派だ。

映画冒頭で、カザフスタンに米軍特殊部隊を送り込んで独裁者を拉致(逮捕)するという思い切った作戦を展開するが、こりゃ戦争行為だよな。その後ロシアを訪問して、いきなり晩餐会の満座に対して「テロには力で臨む」という超強行論をぶつんだからね。

もちろんこれはフィクションでエンタテインメントなんだから、こんなことをいうのは野暮ってもんなんだが。

そこで思い出されたのが、この前年の1996年に公開された「インデペンデンス・デイ」 ここにも強い大統領が登場する。

外宇宙の異星人が地球を侵略。核攻撃も通用しない強大な敵に、人類が死力を尽くして戦う物語。そのリーダーとなるのが、湾岸戦争の英雄で元戦闘機パイロットの大統領(ビル・プルマン) いよいよ異星人への反転攻勢の日、高らかに反攻を宣言する演説をぶった後、自らも戦闘機をあやつって敵の宇宙船に挑んでゆく。

大統領の反攻宣言に、アメリカの映画館では観客が総立ちになって拍手と声援を贈ったという。日本の映画館ではそんなことは起きなかったが。

この二つの映画に共通するのは、強力なリーダーの存在。多少形は違うが、敵に屈せず、自らも戦いを挑む大統領の姿が、アメリカの観客にアピールしたことだ。

そこに、ある意味が見出せる。

この時期のアメリカ大統領は、ビル・クリントン。民主党選出のこの大統領は、国内政策に注力したが、外交ではこれといった成果を残していなかった。

そう、この時期のアメリカは「世界の警察」ではなくて、その「弱腰外交」を揶揄されていたのだ。

アメリカ国民の「空気」は、どこかでこの「弱いアメリカ」に不満を覚えていたのだろう。映画というメディアは、そうした時代の「空気」に敏感に反応する。2本のメジャー映画に「強い大統領」が登場したのは、そうしたアメリカの「空気」ゆえだったのだろうか。

その「空気」が成したことなのか、このあと2000年の大統領選挙でリーダーの座に就いたのは、共和党のブッシュだった。そして2001年9月11日がやってきて、アメリカの「空気」は一変したのだった。

さて、時は流れて、今年はアメリカ大統領選挙の年。すでに民主党のヒラリー、共和党のトランプの対決が有力となっている(まだ決まってはいないが)

そんななかで、今年の夏に「インデペンデンス・デイ」の20年ぶりの続編である「インデペンデンス・デイ/リサージェンス」が公開されるのは興味深い。

はたしてここに登場する(はずの)リーダーたる大統領は、どんなキャラクターになるのか?

ひょっとすると、そこには、どんな世論調査よりも、今のアメリカの求める「空気」が反映されているのではないだろうか。

と、そんな理屈は抜きにしても、娯楽巨編として期待できる「インデペンデンス・デイ/リサージェンス」には期待している。夏休みが楽しみだ。

  映画つれづれ 目次

と書いてから1年余。そういえばまだ「インデペンデンス・デイ/リサージェンス」を見ていなかったな(笑)

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