ジャッキー・チェンと勝負する・追撃戦(3)

2002年の「タキシード」(THE TUXEDO) スティーヴン・スピルバーグが率いるドリームワークス製作のアメリカ映画です。

タクシー運転手のジャッキーが、暴走運転の腕を見込まれて大富豪に雇われた、と思ったら、そのご主人がじつは007ばりのスーパーエージェントで、負傷したご主人にかわって、超ハイテクのタキシードを着用したジャッキーが大暴れ、というお話し。

なんてわかりやすい話だ。

まあ、ざっくり言ってしまえば、1960年代に大流行した「亜流007」にいまどきのCG主体のVFXを大量投入したという、じつに志の高い作品だ。その証拠に、ジャッキー演じる巻き込まれスパイの名前は「ジェイムズ・トン」 耳だけで聞くと、そこはかとなくあの人の名前に聞こえる仕組み。ちゃんと「トン……ジェイムズ・トン」というセリフもある。もっとも劇中のほとんどでは、ジミーと呼ばれているけど。

亜流007とジャッキーは、相性がよさそうな気がする。「ポリス・ストーリー」や「アジアの鷹」シリーズなど、かなり007の影響がみてとれる作品も多い。じっさいにジャッキーが007を好きかどうかは知らんが。

ではこの作品で、そうした要素がうまく機能したかというと、残念ながら、なのである。

その理由は「メダリオン」の時にふれたのと、ほぼ同じだ。あの作品では、香港アクションの伝統芸であるワイヤーワークの多用が、結果的にジャッキーアクションの凄みを消してしまっていた。

「タキシード」では、ワイヤーワークの部分を、そのまま「VFXの多用」に置き換えればいい。

つまり、VFXが機能すればするほど、ジャッキーが楽をしているだけに見えてしまうのだ。

ジャッキー・チェンの持ち味は、極限まで酷使される肉体が生み出すアクションの凄さだ。その点は、ジャッキー自身が多少齢を取ろうとも、変わらない。

早い話が、ジャッキーアクションには、ワイヤーワークやVFXなどの「小細工」は必要ないはずなのだ。それくらい、ジャッキーのアクションは凄い。

にもかかわらず、VFXを駆使した本作のアクションでは、いくら常人では想像もできないような動きをジャッキーが披露しても、ああ特撮だなと思われてしまう。

その点を増幅させているのは、そもそもこの映画の設定にもある。

フツーのタクシー運転手のジャッキーが超人的スパイに変身できるのは、超ハイテク兵器であるタキシードのおかげ。なので、今回のジャッキーは修業も積まず、特訓もしない。タキシードを着ただけで、変身できるのだから(でもあのタキシードはちょっと羨ましいね)

そう、ストーリー的にも、ジャッキーがいくら頑張っていても「ああタキシードのおかげなんだね」になってしまうのだ。ジャッキー、二重に損してる気がするぞ。ジャッキー・チェンなら、タキシードなしでも強いじゃないか、と感じてしまうんだから。

仮に、もっと肉体的にも貧弱な俳優が、このジミーを演じたなら、弱い時と強い時の落差が顕著になって、タキシードやVFXの効果も、もっと大きかったんじゃないかな。

そもそもこの映画の企画が持ち上がった際に、総帥スティーヴン・スピルバーグ自身が、ジャッキーの主演を熱望したと言われる。

だとしたら、あの天才スピルバーグにして、じつはジャッキー・チェンの魅力を理解しきっていなかったということなんだろうか。

ただ救いなのは、ジャッキーその人が、じつに楽しそうにこの映画の主演に励んでいることだ。

ジャッキー・チェンは、やっぱりこの手のアクション映画、好きなんだろうねえ。

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