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令和5年・夏場所雑記

今場所もまた混戦になるかと思っていたが、復活した横綱が優勝して番付の秩序を回復させた。なので今回は番付順に総括してみたい。

まずは横綱・照ノ富士

4場所連続休場明け、場所前の報道などで若干の不安を感じさせた。実際のところ場所序盤の相撲では攻め込まれてヒヤリとする相撲もあったが、取りこぼすことはなく徐々にペースアップし、前半を無傷で乗り切ったあたりからは安定感も感じさせてきた。結果的に今場所元気だった関脇陣や上位にひしめくクセモノたちをことごとく退け、14勝1敗という文句のつけようのない結果で締めくくってくれた。まずは、おめでとう。

序盤は攻め込まれてヒヤリと書いたが、考えてみればこの横綱はもともと相手の攻撃をドンと受け止めてしまうのが持ち味。超守備的な横綱なのだ。だから、じつは場所序盤から好調だったのだろう。

とはいえ、手放しで復活を称賛するわけにはいかない。じつは、復活をかけた今場所は、照ノ富士にとって意外と恵まれた環境があったと思うのだ。

守備的な照ノ富士の相撲にとって、もっとも危険なのは、その守備を一気に突破してくる相手、パワーのある押し相撲だ。ところが今場所の番付上位、このタイプの力士が意外に少なかったのだ。大関の貴景勝、関脇の大栄翔はもちろん押し相撲だが、エンジンのかからない序盤には対戦しない。序盤からあたる平幕上位に押し相撲力士は不在だったのだ。わずかに小結に座した正代がパワー系の押し相撲だったが、初日早々にこの正代を逆転で下せたのがラッキーだったといっていいだろうか。

阿武咲、玉鷲、隆の勝、御嶽海といった実力派押し相撲がことごとく平幕中位に下がっていたことが、照ノ富士の復活に与したのだろう。実際、成績を上げて9日目にあたった明生に今場所唯一の黒星を喫している。こうしてみると、大関・貴景勝が不調、優勝争いの関係で関脇・大栄翔と取組が組まれなかったことも幸運だったといえよう。

来場所は御嶽海、明生、阿武咲らが番付上位に復帰してくる可能性が高い。照ノ富士も、さらに調子を上げてゆく必要があるだろう。完全復活へは、まだ道途中ということか。

カド番で夏場所に臨んだ大関・貴景勝については、やはり故障がすべてだったのだろう。場所途中から両膝にガッチリとテーピングを施して土俵に上がっていたが、終盤はスタミナ切れもあったのか黒星が増え、一時はどうなるかと思った。なんとか勝ち越して大関の座を死守したが、しっかりケガを治さないと来場所も苦しいだろう。なによりもまずケガをケアすること……この大関、もうずっとこう言われているような気がするね。

その大関の座を勝ち取るべくシノギを削った4関脇。場所の立役者として、看板として、十二分の働きを見せてくれた。全員10勝以上を挙げたのだから文句なしの合格点。もう4人とも大関にしてもいいくらいだ。

先場所優勝して大関盗りの一番手にのしあがった霧馬山、ここまで2場所合計23勝だったので、大関昇進の目安といわれる3場所合計33勝へ今場所のハードルは10勝。場所序盤は固さも見え前半で2敗を喫して心配したが、中日から6連勝して一気に11勝をクリア。3場所合計34勝で大関昇進を手中にしたようだ。

先場所は優勝同点、2場所合計22勝を挙げて今場所は昇進チャンスだった大栄翔のハードルは11勝。滑り出しは好調だったが中盤に黒星がかさみ、13日目に5敗目を喫してしまった。それでもそこから終盤2連勝で10勝を確保し、3場所合計32勝。もうひとつ勝ってればなぁ。若干相撲内容に不安定さがあったのが、大関昇進ムードをかもせなかった原因か。

新関脇の若元春は相変わらず安定した相撲内容。初日から5連勝したときにはこのまま優勝でもして一気に大関昇進かと期待したが、中盤に失速。それでも10勝ラインに乗せたのはお見事。左四つの型を持ち、足腰の強さもある安定感は抜群で、今場所も連敗がなかった。これで2場所合計21勝を挙げたので、来場所は12勝がハードルになる。

先場所10勝止まりで2場所合計18勝と出遅れ感のあった豊昇龍だが、今場所で連続8場所三役在位と、じつは4関脇中で最も安定している。今場所も2個の不戦勝があったとはいえ11勝を挙げ、2場所合計は若元春と同じ21勝になった。来場所12勝は、決して高すぎるハードルではないだろう。

とまぁこうした数字を上げてみたが、再三指摘しているように3場所合計33勝はあくまで目安。べつに成文化した規則ではないので、この際もういいからみんな大関にしちゃえばいいんではなかろうか。番付もにぎやかになるし、人気も出ると思うよ。

そんなことを考えたのは、若隆景のことがあるから。先場所前までは大関候補の一番手だったのが、膝を痛めて手術に踏み切ったため長期休場となってしまった。復帰まで半年以上かかるようで、大関どころか関取の座も失うことになりそうだ。チャンスはあったのだから、さっさと大関に上げていればよかったのに。

機を逸してはならない。協会の英断を期待しよう。

とはいえ、けっきょくのところ4関脇ともに横綱には勝てなかったわけで、このへんが大きなハードルになるだろう。打倒・照ノ富士が彼らのノルマだ。

横綱と関脇陣が好調だったあおりを喰ったのが小結と平幕上位組。

場所前には関脇陣と同じくらい期待していた小結・琴ノ若だが、辛うじて勝ち越しの8勝止まり。でも、大関・貴景勝に勝ち、自分より番付下位で負けたのは錦木にやられた1敗だけ。逆にいえば上位を喰うことさえできれば、上をめざせるわけだ。期待してるぞ。

正代のほうは、下位に取りこぼしがあったのがたたって6勝9敗。6勝6敗で迎えた最終盤に、朝乃山らに当てられたとはいえ3連敗がもったいなかった。また平幕から出直しだが、ここ数年の不調からは脱したようだ。逆襲を期待しよう。

前頭5枚目以上の上位では阿炎翔猿錦木が勝ち越したものの、上位食いはできず。もっとも、高安遠藤琴勝峰がいずれも休場したせいもある。ここ数場所続いていた平幕旋風は沈静化した形だった。

じつはこの休場した3力士が、来場所は台風の目になるかもしれないし、場所の大きな見どころになりそうな予感がする。いずれも実力者のこの3人と、たぶん新入幕してくる豪ノ山落合湘南乃海狼雅も可能性がある)、再入幕しそうな武将山熱海富士といった有望株が幕内前半戦に揃うのだ。これはなかなか楽しみなことになりそうだ。

この入幕争いも面白かった今場所だが、幕下と十両の入れ替えもなかなか熱かった。十両昇進を争う幕下上位では、紫雷川副獅司勇磨らが激しく争い、10枚目格付け出しだった話題の大の里も含めて、なかなか見ごたえのある相撲も多かった。

そんなことになったのも、場所前に逸ノ城、場所中に栃ノ心が引退を発表して、関取の座が自動的に2つ空いたからだ。十両下位の成績にかかわらず、昇進の枠が余分に2個増えたのだから、色めき立つのも無理はない。本欄が読まれるころには番付編成会議の結果も出て、霧馬山の大関昇進と同時に十両昇進力士が発表されているはずだ。さあ、誰が関取の座を射止めたか?

あれ、今場所はわりとマトモに場所を総括してしまったかな。ま、それくらい、近来めずらしいマトモな展開の場所だったということだ。戦国乱世も面白いけど、やっぱり番付の秩序が守られるのもいいものだね。

さてさて、暑さが厳しくなる名古屋場所は、どんな場所になるのかな?

大相撲/丸いジャングル 目次

スポーツ雑記帳 目次

【2023/5/31 追記】 
本日の番付編成会議と臨時理事会で、正式に霧馬山の大関昇進が決定した。
おめでとう。
昨年初場所後の御嶽海以来の新大関誕生で、これで来場所は1横綱2大関が揃うことになり、番付が正常形に近づく。
なお、霧馬山は大関昇進と同時に、師匠・陸奥親方の四股名である「霧島」に改名することになった。
名大関だった師匠の名に恥じぬよう、そして凌ぐように頑張ってくれ。
同時に十両昇進者も決まった。
川副、獅司、勇磨が嬉しい新十両、紫雷と千代ノ海が再十両。
川副はこの機に輝鵬に改名する。
紫雷は昨年初場所に新十両に昇進していたが、その場所が全休だったので、今回が実質新十両みたいなものだ。
来場所は十両の土俵も大いにリフレッシュされそうだ。

 


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