歴史を乗り越えろ

なんだかんだ言って、NHKの大河ドラマはわりと見ている。特に今年は。

恒例になっていた日曜夜の犬の散歩と時間が重なっていたので、一時期はドラマ全体の5%くらいしか見ていなかったんだが、去年そのワン公が天国に行っちまったので、今年の「真田丸」はきちんと見るようになったのだ。

そして「真田丸」は、私が大河ドラマを見ていてよくイラッとしていた点をクリアしている気がする(まだ序盤だけど)

それは「歴史にとらわれ過ぎ」じゃない部分だ。

私が見ていてイラッとしたのは、たとえば「軍師官兵衛」(2014年)の最後の方だ。

九州に隠居したはずの官兵衛が、関ヶ原の戦いを機に「天下取るぞ」とか急に言い出して、勝手に九州制圧へ動くところ。徳川と豊臣がぶつかり合って消耗する機を狙うっていう作戦で、けっこう燃える展開。

テレビの前で見てるほうもそれなりに気合が入った。ただし、この途中で「いやけっきょくはダメなんだよな」とわかってしまうのは、いたしかたない。それが「史実」だからだ。

言ってしまえば、ネタバレだ。史実では、関ヶ原の合戦が予想外の短期決戦になってしまって、官兵衛の天下取りは霧散するのだ。

そういえば、前の大河ドラマ「龍馬伝」(2010年)や「平清盛」(2012年)でも、「最後は龍馬暗殺されるんだよね」とか「そろそろ清盛死んじゃうよ」と結末がわかってしまうのが、ある種の興ざめではあった。

だから「軍師官兵衛」でも、官兵衛の天下取りの大勝負は、もうひとつ燃え切らなかった。もったいない。

大河ドラマといえば社会的影響も大きいし、それこそあらゆる年齢層の人が見るから、下手なことができないことはわかっているが、どうもそのせいで「史実」とか「時代考証」にこだわり、フィクションとしての面白さを失っていってしまっているような気がする。

だって、これ「ドラマ」なんでしょ? だったら、別に「歴史的に正しい」必要はないんじゃないの?

もちろん、そこで官兵衛がミサイルぶっ放したり、死んだはずの龍馬がゾンビとして生きのびたり、清盛が現代社会に飛び出したりしたんじゃ困るが。それはそれで面白かろうが、それは大河ドラマのテーゼである「時代劇」「歴史ドラマ」ではなくなるからね。

しかし、もう少し自由に歴史を脚色しても良かろうと、見ながら歯がゆく思うことが多いのだ。

その点、今度の「真田丸」はうまい題材を選んだものだ。

というのも、名前は異常に有名な真田一族だが、意外にその一次資料は残っておらず、ことに真田信繁(幸村)の若き日々(つまり今ドラマでやってるあたり)は、歴史的にはほとんど「本当はどうだかわからない」状態なのだよね。だからけっこう自由に描けるわけで、そういう点、堺雅人の演じる信繁は、過去の主役たちにくらべて、活き活きとしている(ような気がする)

このあと、だんだんと資料の残っている時期に入って行った時に、はたしてどうなっていくか。

できれば大胆にフィクションを入れて、たとえば大坂夏の陣で家康の首を獲ってしまうとかすれば、いっそう面白かろう。三谷幸喜ならやりかねんかな?

大河ドラマは歴史の教科書ではない。歴史そのものを知りたければ、あるいはそれを伝えたければ、ドラマではなく「教養番組」みたいなのを作ればいいのであって、フィクションでエンタテインメントであるドラマには、もっと大胆不敵なことをやってもらいたいもんだ。

そんなことを思ったのは、ローランド・エメリッヒ監督の「紀元前1万年」(2008年)という映画を見たからだ。旧石器時代の人類を描いたアドベンチャー巨編。カネはかかってる。もちろんこれは「歴史的に正しい」映画では、まったくない。

まあ原始人たちがべらべら英語しゃべってる時点で、すでに「歴史的に正しくない」ことはわかるが、映画が進むにつれて、どんどん「違う世界」に入って行って、最後は原始人ドラマなのか、大ファンタジイなのか、ワケのわからないモノになって、まことに壮絶だった。大河ドラマも、こういう「作り」にしてみたら、もっと面白くなるんじゃないかな(まあそれが成功して、「紀元前1万年」が面白い映画になっていたかどうかは、また別の話なんだが

これくらい大胆な大河ドラマを作っていただければ、私はひとつも文句をいわないよ(そのかわり世間サマからは袋叩きにあうかな?)

あ、誤解のないようにいっておくと、細部のディティールはきちんと考証してリアルに描く方がよろしい。007シリーズの原作者であるイアン・フレミングのエッセイ「スリラー小説作法」のなかにも、そうした指摘があるように、細部のリアリティは全体のリアリティの担保になるのだ。ストーリーやキャラクターが「歴史的に正しい」かどうかよりも、むしろこうした部分のほうが重要だと思うよ。

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