風雲昇り龍のこと

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前にも書いたと思うが、私が相撲を見始めたのは大鵬時代の最後期のこと。昭和46年9月場所に、はじめて相撲専門誌『相撲』を購入した。その場所、さっそうと新十両に昇進したのが、島田改め天龍源一郎だった。

その場所は残念ながら負け越して、無念の幕下陥落となったが、翌年には再昇進し、幕内へと進撃してゆく。当時は多くの若手力士が一気に台頭したヤングパワーの時代。初代貴ノ花を筆頭に、輪島や北の湖や魁傑や三重ノ海らが続々と出世していったのだが、なかでも、天龍の気風のいい突っ張り相撲は注目を集めていた。

そのころの『相撲』誌はなかなかバラエティに富んでいて、のちに「血液型人間学」で一世を風靡した能見正比古氏の連載小説なんかが載っていた。そうした中でも異色で記憶に残っているのが、タイトルは忘れたが(「大相撲最後の日」とかだったかも)SFっぽい短期連載の小説だった。

その時代には毎年のように行なわれていた大相撲ハワイ巡業の一行を乗せた旅客機が消息を絶ち、幕内力士のほとんど全員が行方不明になるという縁起でもない発端。じつは一行は飛行機事故ではなく、時空の歪みにハマって遥かな未来世界へとタイムスリップしていたのだ!

あれ、ちょっと面白そうだな。こんど古い雑誌を引っ張り出して読み直してみようかな。

その小説で、なぜか主役に近い位置で活躍するのが、まだ若手の平幕力士だった天龍なのである。

未来人にとっ捕まった大相撲一行に、未来を支配する女王様みたいなのから代表者の出頭命令が出る。未来人が作成した出頭メンバーのリストに、横綱・大関と並んでなぜか天龍の名があるところは秀逸。天龍召集の理由を問い質す力士たちに対する未来人の回答が「テンリュウガ イイオトコダカラ」

その後も小説の中の天龍関は、なぜか自分の初恋の女性にそっくりな未来人の女の子に心揺さぶられたりして(当時天龍さんはまだ独身)、なかなかの活躍ぶり。期待の若手だったからかね。

ご本人がこの小説ことをご存知かどうかは知らんが、かくも将来を期待されていた天龍源一郎が、なぜ土俵を去ってプロレスに転じたかは、前に書いた「大麒麟の二枚舌」を参照のこと。その後の活躍は、ここで記すまでもない。

その天龍源一郎が、プロレスの現役引退を発表した。大相撲時代から通算すると51年以上におよぶ格闘技人生を終えるわけだ。ほんとうにご苦労さまでした。

ただし、プロレスラーというのは「生き方」なのだから、やめることはできないよ。プロレスラーは、試合をしようがしまいが、リングの上にいようが下にいようが外にいようが、死ぬまでプロレスラーなのだから。今後、タレントをやろうが、プロレス評論家をやろうが、寿司屋の大将をやろうが、天龍源一郎がわれわれに見事な「プロレス」を見せ続けてくれることは間違いない。健闘を祈る!

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