ジャッキー・チェンと勝負する(48)

アーリー・ジャッキー・チェンとの戦いは続く(笑)

今回は「ファイナル・ドラゴン」 前回の「レッド・ドラゴン」のあと、「少林寺木人拳」に続いて製作された1976年の作品。日本では劇場未公開のまま「キラードラゴン/流星拳」のタイトルでビデオ発売されたことがあり、その後ずいぶん経ってから映画祭で上映された。

これまでも何作かあったが、この作品もまた「ジャッキー・チェンの映画」ではなく、「ジャッキー・チェンが出ている(だけの)映画」である。

前にも書いたように、いったんは映画界をあきらめてオーストラリアへ移住していたジャッキーが、大物監督のロー・ウェイに呼び戻されて「レッド・ドラゴン」の主演で再デビューした直後の出演作の1本。ロー・ウェイはジャッキーを「第2のブルース・リー」に仕立てようとしたが、その思惑は「レッド・ドラゴン」の興行的失敗で揺らいでしまったようだ。

本作は中華圏武侠小説の超大物である古龍の原作を得た、ロー・ウェイにとっては勝負作。そこで主演にはジャッキーでなく、すでにアジア映画の超大物(イロイロな意味で)であったジミー・ウォング(王羽)を据え、その相手役にジャッキーを配した。ま、作戦としては悪くなかろう。

しかし、だからといってジャッキーを事実上の悪役に起用したのは、さすがにミスキャストだと思う。似合ってないんだよ、ジャッキー。

まあ、それも当然だろう。当時のジャッキーはまだ20代前半の若僧である。「栴檀は双葉より芳し」などというし、たしかにアクション(本作ではカンフーだけでなく剣戟アクションも見せる)ではすでに超一流ともいえるスゴイ技術を身に着けていたジャッキーではあるが、さすがに大スターとして脂の乗ったジミー・ウォング大兄と伍するには、いささかの貫録不足。

悪役っていうのは、かなりのキャリアと演技力を有していないと演じ切れないものだ。この時点でちゃんと主演した映画が2~3本だけのジャッキーに演じろというほうが無理だと思う。せっかく手にしたジャッキー・チェンという上等の「玉」をなんとか使いたかったロー・ウェイの気持ちはわからんでもないが。

もちろんロー・ウェイもそれなり以上の手腕を持った映画屋である。そんなことは百も承知だったのだろう。

そのために、ジャッキー演じる悪役は、いろいろと凝った偽装をされ、なかなか正体が露見しないように「隠されて」いる。それは演技力不足でボロが出ないように、うまく「隠す」目的もあったのだろう。

その結果どうなったかというと、この映画のジャッキーはものすごく印象が薄い。見終わった後で思い返しても、多くの個性的なキャラクターが跋扈するストーリーのなかで、ほぼ埋没してしまっていた気がする。そう言い切ってしまっては、若き日のジャッキーには気の毒かもしれないが。ここまでジャッキーが目立たない映画も他にないんではないか。

この時期以降、ジャッキーの演じる役柄は、ほぼ完全にジャッキー・チェンのイメージに固定される。ジャッキーは、何を演じてもジャッキー・チェンなのである。だから、当然ながら、悪役なんて一回も演じていない。

してみると、どう見てもジャッキー向きでないこの役を敢えてジャッキー・チェンに振ったロー・ウェイの決断は、逆にものすごくレアなジャッキーを見る機会をわれわれに残してくれたという一点のみでは、評価してもいいのかもしれない。

ジャッキー映画としての視点を離れていえば、この「ファイナル・ドラゴン」(風・雨・雙流星)という映画そのものは、そう悪い出来栄えではない。いま見ると未整理で古くさいファンタジー系の剣戟アクション映画ではあるが、後年の1980年代になって日本でも(ささやかながら)ブームとなった「香港ファンタスティック映画」の先駆けとしての興味は持てる作品だろう。

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