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未発売映画劇場「おかしなおかしな相続ゲーム」

縁は異なものとはよく言いますが、この映画と私の「縁」も非常に「異」なものです。

そもそも別の映画(サント映画ですがね)のDVDを購入しようと思って、例によってamazonさんでポチッとやったんですが、なぜだか間違えて、この映画のDVDを購入してしまいました。気づいた時には注文が確定していた次第。みなさんもお気をつけください。

で、まあ調べてみたら、日本未発売の作品だったんで、この欄のネタになるしまぁいいかと。キャストはそれなりに豪華(言い過ぎ)だし。

これが拾い物の傑作だったらなかなかのストーリーになるんですが、世の中そう上手くはいきませんね。

翻訳書籍の編集者時代に、古今の未翻訳作品を漁って企画を立てていたことがありますが、その時に某識者からいわれたこと「未訳のものにはそれ相応の理由があるもんなんだよ

そのとおりでしたね。

さて問題の映画は原題「Scavenger Hunt」 辞書を引くと「借り物競争」とあります。むかしの運動会では定番だった競技ですね。蛇足とは思いますが説明すると、徒競走の途中で指定された人や物を観客席などから調達しないとゴールできないってやつですね。やったことがある人もいるでしょう。

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ゲーム産業で資産を築いた大富豪のパーカーが死亡した。彼は遺言で相続人たちに最後のゲームを仕掛ける。100件のアイテムを指定し、それらを数多く集めた者に20億ドルの資産のすべてを与えるというのだ。相続人は、妹とその息子と弁護士、義理の息子とその子どもたち、2人の甥、大富豪の使用人4人組、そして1度乗ったことのあるタクシー運転手の5組。その日の午後5時までに指定のアイテムを持参した数で勝敗は決する。欲に駆られた人々の壮絶なドタバタレースが始まる。

スケール感のある設定とオールスターキャストで作られるスペクタクル喜劇は、1956年の「80日間世界一周」のヒットあたりがきっかけで1960年代にはけっこう製作されたものです。「グレートレース」「素晴らしきヒコーキ野郎」あるいは本欄で取り上げた「ああ月旅行、そしてシネラマで初めて製作されたコメディである「おかしなおかしなおかしな世界」(1963年)などがあげられますね。

本作はなんとなくその「おかしなおかしなおかしな世界」を想起させる大型ドタバタ喜劇。しかし製作年は1979年。すでに流行遅れでしょう。そのせいか、スケールも小さく、セコイ感じは否めません。舞台がサンディエゴだけに限定され、時間もほんの数時間の出来事だし(おかげでスピード感はあるけど)

出演陣はなかなかのもので、「ウェストワールド」のリチャード・ベンジャミン、「ブレージングサドル」のクリーボン・リトル、「名探偵登場」のジェームズ・ココ、「新サイコ」のクロリス・リーチマン、「猿の惑星」のロディ・マクドウォル、「ソープ」のリチャード・マリガンなどなどと、それなりに豪華。そしてにぎやかな脇役陣には、売り出し前のアーノルド・シュワルツネガ―(「コナン」の直前だ)や怪奇映画の大御所ヴィンセント・プライスらも顔を揃えている……と書いてみたが、やっぱり地味だよな。

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なんといってもこのコメディの最大の欠点は、こうした登場人物が全員バカに見える点でしょう。だからギャグも空回りして見えるんですよ。

だってさ、20億ドルの資産を争っているのに、こいつら指定のアイテムを集めるのに、盗んだり貰ったり走り回ったりするばかりなんだもの。

アイテムといったって、たとえば、有名ホテルのトイレの便器とか、パラシュートとか、大きな金庫とか、生きたダチョウとか、入れ歯とか、ロールスロイスのフロントグリルとか、デブの人間とか、西洋式の鎧とか、キツネの尻尾とか、クマのぬいぐるみとか、顕微鏡とか、奇抜だけど基本的にガラクタみたいなものばかり。あんた、そりゃ金出して買えばいいじゃないですか。

まあ、バカがドタバタするのを見て腹を抱えるのもコメディの基本パターンのひとつですが、1970年代の時点でも、もうそんなコメディは時代遅れだったはず。これ以前のメル・ブルックス作品やこの後の「ブルース・ブラザース」と見くらべれば、この作品の古臭さがわかるってもんです。

そんなわけもあってか、この映画、批評的にも興行的にもコケたそうです。そのうえ、上記した出演者のメンツを見ればわかるように、豪華とはいってもかなりのスキモノ映画マニアでないとピンとこないような連中ばかりなので、日本未公開、ビデオ未発売になったのも無理はないか(テレビ放送もなかった模様)

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もうひとつ、この映画が日本に輸入されなかったのは、なかに日本人をからかったような部分があるせいかも。

大富豪の庭師で相続人連中の車で何度も庭園を破壊される日本人(サカモトという名前らしい)が最後に切腹しようとするギャグがあり、これは当時の日本人には笑えなかったかもしれませんなぁ(今でもダメかも) 演じたのは日系人俳優のジェリー・フジカワ

ただこの古臭いコメディ、じつは令和のこの時代に見ても、見ている分にはけっこう楽しく見ることができるのも確かでした。昨今のアメリカのコメディの笑えなさにくらべれば、ずっとマシ。基本に忠実なドタバタなせいで、意外に古びて見えないのでしょう。このへんの笑いの基本は時代を超えるってことで、今回は勘弁してあげましょうか。

前記したように1979年の作品。DVDはアメリカ製のリージョン1.日本ではまったく未紹介のようなので、邦題はオレ製です。

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