ジャッキー・チェンと勝負する（55）

引きつづき「21世紀のジャッキー・チェン」　今回は2006年の「プロジェクトＢＢ」

プロの泥棒のサンダル（ジャッキー・チェン）と相棒のフリーパス（ルイス・クー〔古天樂〕）は、ともに腕利きだが、サンダルはギャンブル、フリーパスは女グセという弱みがあって、借金まみれ。２人のボスにあたる大家（マイケル・ホイ）は金庫破り名人だったが、自分が空き巣に入られて全財産を失う。窮した彼らはやむなくそれまでのルールを曲げ、大富豪から依頼された赤ん坊誘拐に手を染めることになったが……

「Mr.Boo！」シリーズで70年代後半の香港映画に革命を巻き起こし、一世を風靡したマイケル・ホイとの初の本格的共演（「キャノンボール」はあるが、あれは二人とも顔見世程度だった）ということで期待したのだが、マイケルがあえて脇に回った感があり、ガップリ四つの競演とはいかなかった。ジャッキー映画に、すでに大物となっているマイケルがへヴィ格で花を添えたってところか。もっとも、少ない出番でもきっちり印象をさらうあたりはさすがだ。

映画自体も、もっと本格的なコメディになっているのかと思ったが、意外と普通のジャッキー映画。壮絶アクションと「いい話」の組み合わせで、明るく楽しい娯楽アクションというコンセプトは揺るぎない。「いい話」成分がやや濃いめなのだが、まぁ「奇蹟／ミラクル」や「ゴージャス」あたりを思い浮かべれば、あれよりはアクションに主眼を置いているといえよう。

だが、その肝心のアクションに、私は不満を覚えた。

いや、アクションそのもののクオリティはきわめて高い。

すごくひさしぶりのユン・ピョウとのファイトも含めて、20世紀のそれと比べて円熟味を増し、アクションの組み立ても重層化している。こう書くと理屈っぽいかも知らんが、要するに（邪魔にならない程度に）アクションがしつこいのだ。

以前だったらこのへんでまとめるよなと思う所から、さらにもう一歩、アクションを重ねるのだ。ことにカーチェイスのシーンに、それを感じた。

だが、そこにある要素が加わることで、スリルを減じてしまった。

それが、物語の重要なファクターである、「赤ん坊」の存在だ。

物語のあちこちで繰り広げられる壮絶アクションのただなかに、生後半年足らずの赤ん坊を放りこんでいく。高いところから落っこちそうになったり、車の後ろにベビーカーが引っかかったまま疾走させたり、それなりにハラハラドキドキさせる仕掛けだ。

ただでさえスリル満点のジャッキー・アクションに、「壊れやすい」赤ん坊を投入するというのは、スリルをいっそう高めそうなものだが、残念ながらそうはならなかった。

ちょっとした「計算ちがい」だ。その仕組みはこうだ。

いくら香港映画とはいえ、赤ん坊を傷つけるとか殺すとかはしないだろう。見る側の意識に、そういう心理が潜んでいるからだ。

有形無形さまざまなコードに縛られるアメリカ映画と違って、香港映画では赤ん坊や子供をぶち殺すような映画も、たしかに存在する。

だが、そうした映画はやはり、ジャッキー映画とはジャンル違い。ジャッキー映画では子供殺しなんかやらないだろう、いや、やってほしくないというコンセンサスが、見る側にも作る側にもある。

明るく楽しく、そして全世界でヒットするジャッキー映画では、それも当然だろう。前にも述べたように、ジャッキー映画に本格的なホラー映画がないのは、じつはそのへんに由来するのかもしれない。

ところが、「プロジェクトＢＢ」では、このコンセンサスが、見る側の安心感につながり、結果的にアクションのスリル感を削いでいるように思える。

確かにハラハラするシチュエーションだが、最後は無事に終わるんだろう。そうした一種の「安心感」だ。

「赤ん坊」というスリルの「素」をわざわざ投入したのは、スリルを高めようという計算だったのだろうが、それが皮肉にも見る側に「安心感」を与え、スリルを減じる結果になっているのだ。　

もちろん、ジャッキー・チェンほどのものがそれに気づかないわけもなかろう。そのへんに、われわれの頭脳や感覚でははかり知れないような途方もない計算があるのかもしれないが……若いころと違って無鉄砲なこともできなくなったしなぁ、というジャッキー・チェンの「本音」がそのへんに出ているような気がしないでもないのだが。

ビッグになり、年齢も加えたジャッキー・チェンが、新たな魅力を模索するための、ひとつの試行錯誤だと思えば、それもありなのかな、とかは思う。マイケル・ホイとの共演もその一環だったのかな。

ひとつだけ間違いなく言える。ジャッキー・チェン、まだまだ映画に対する意欲は薄れていない。以後の映画にも期待するよ。

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