指パッチン

「指パッチン」と言われて、ピンときますか?

ああ、ポール牧? いやいやさすがに、もう古いですかね。でもまあ、アレですね。

中指(または薬指)を親指とこすり合わせて、パキッといったような音を出すあれ。できますか?

あれ、ほんとに「指パッチン」と呼ぶようですね。よりカッコよさそうな言い方としては「フィンガースナップ(finger snapping)」

なんでも古代ギリシャの絵画などでも、この「指パッチン」をやっている人が描かれていたりするそうなので、歴史は古いですね。

1961年に公開されたミュージカル映画「ウエストサイド物語」のなかで、不良少年たち(古臭い言いかただな)が歌い踊るナンバー「クール」 このシーンで彼らがそろって両手の指を鳴らしてリズムをとります。

かっこいい。

映画は大ヒットし、この時にこの「指パッチン」も大いに流行って、若者たち(当時)が、みんな練習したそうです(私は知りませんよ)

たしかに革ジャン、ジーンズの兄ちゃんたちが、リズミカルに指を鳴らしながら名曲「クール」を歌うシーンは、映画のハイライトのひとつ。真似したくなるのも無理はないです。真似したからといって、かっこよくなる保証はないのですが。

この「指パッチン」 けっこうコツがいるし、指が短い人はうまく音が出なかったりします。ちなみに、不器用なほうで口笛もうまく吹けない私ですが、指パッチンはけっこうちゃんと音を出せます。自慢じゃないですが。

たとえば、ジェームズ・コバーンとかリー・ヴァン・クリーフとかいった、長身痩躯で指も長い男に似合うような気がします。ああ、私はダメだな(笑)

しかしこの指をパチッと鳴らすポーズ、見ようによってはかなりキザ

なので、映画の中では、ギャングのボスなどの悪役がよくやります。ボスが指を鳴らすと、子分が飛んでくるやつ。

私の印象に残っているのは、「フィスト」(1978年)

シルベスター・スタローンがトラック労働組合でなりあがる男を演じた、男っぽいドラマですが、スト破りを撃退するために彼が頼るのが地元ギャングのボス。

ケビン・コンウェイが演じるこのボス、スト破りとの乱闘中に資本家側の雇ったガンマンが狙撃してくると、待機していた部下にむかって「指パッチン」そしてさっとガンマンを指さす。

間髪入れすにギャング側のガンマンが応射すると、さすがはプロ、一発で敵側ガンマンは沈黙。その是非はともかく、かっこいいぞ。

しかし、あの乱闘の最中、よっぽど大きな音で「指パッチン」しないと、部下にも聞こえないんじゃないかな。

まあ何事につけカッコつけなギャングたちなら、やりたいんでしょうね「指パッチン」

カッコつけではギャングに劣らないのが、ナチスの連中。

もっとも彼らは「指パッチン」はあんまりやらないです。

たいてい革の手袋をしてるせいかな。

「大脱走」(1962年)に出てくるゲシュタポの捜査官(ウルリッヒ・バイガー) 映画の最初のほうで、のちに脱走計画の指導者になるビッグXを捕虜収容所に護送してきます。黒い革コートが渋いぞ。

本人は、チビ、禿げ、丸顔、チョビ髭、眼鏡とあんまりカッコよくはないんですが、そのぶんカッコつけ。

ビッグXの護送書類かなんかでしょうが、ペラペラの紙切れ一枚に収容所長がサインして渡すと、ビッビッとした動作で革の折りカバンに書類を収め、わざとらしくシャッとカバンのフラップをひと振りして、かちゃっとカバンを閉める。まったく必要のない、まさにカッコつけだけの動作だけど、ちょっと真似してみたくなります。やってみるとけっこうむずかしいけど。

彼の後継者といえるのが「レイダース/失われた聖櫃」(1981年)に出てくるゲシュタポ野郎。同じく黒の革コートを着込んでいますが、やっぱり丸顔に眼鏡の狡すっからそうな風貌。ゲシュタポって、職務規定かなんかでメガネ必須だったんですかね。

演じたロナルド・レイシーの当たり役になって、香港映画の「スペクターX」(1986年)でもセルフパロディをやってたっけ。

こいつも相当のカッコつけだが、笑わせてくれたのが、ヒロインをとらえて尋問しようというシーン。なにやら金属製のヌンチャクのような道具を出してきて、ぎょっとさせます。どんな残忍な拷問をするのか? その道具を、例によってもったいぶった仕草でカチャカチャっと組み立てると……ハンガーでした。やはりコートがシワになるのは、カッコつけとして耐えられないんでしょうね。

こうしたキザな悪役を印象づけるのに「指パッチン」はけっこう便利で、映画やテレビばかりでなく、コミックなどでも多用されていますが、困るのが小説の場合。

いや英語なら「finger snapping」でいいんですが、これを日本語に翻訳しようと思うと、けっこうむずかしい。それがハードボイルドな感じの小説だと、なおさら。

だって、残忍そうなギャングのボスが「指パッチン」じゃあ、カッコつかないんですもの。

「ボスは冷たい目で俺を見ると、無造作に部下のほうへ向けて指パッチンした」

ムード台無し。

かといって「フィンガースナップ」じゃピンとこないし、「指を鳴らした」だとストリートファイトに臨む巨漢が両手でボキボキッとやるあれみたいだし、「中指と親指を打ち合わせて鳴らした」みたいにあんまり説明くさくしたくもないし。けっこう難物だったりします。

簡単で効果のある動作だけど、文字情報には乗りにくいってことなんですね、「指パッチン」

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