500円映画劇場「タワーリング・インフェルノ'08」

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1974年の「タワーリング・インフェルノ」がパニック映画の最高傑作であることは疑いない。こうして34年という年月が流れてもなお、そのタイトルをパクった映画が出るのがその証拠。

まあパクリ邦題は500円映画の定石のひとつだが、今回の「タワーリング・インフェルノ'08」は邦題のみの罪でもない。この2007年のドイツ製TVムービーの原題は「DAS INFERNO - FLAMMEN UBER BERLIN」。ちゃんともともとのタイトルにも「インフェルノ」が入ってるんだから、作った側も確信犯だな、こりゃ。

ちなみに、「INFERNO」って単語は、本来は火災と何の関係もないものなのに、すっかり火災関連の単語であると認識されているのは、「タワーリング・インフェルノ」のせい。「JAWS」とサメの例と同様に映画の力を示すものである。

で、この「タワーリング・インフェルノ'08」だが、実際に見てみても、ストーリーは本家「タワーリング・インフェルノ」と大差ない。というか、その縮小再生産版。

舞台はベルリンのランドマークともいえるベルリン・タワー。これ実在の施設なのだから恐れ入る。いいのか、実名でこんな映画に使って? タワー上層のレストランと展望フロアで火災が発生し、エレベーターと階段が崩落。客と従業員、それに救出に向かった消防隊員が上層に取り残される。彼らの生き残りをかけた消火と脱出、地上の消防隊の必死の救出が描かれる。

エレベーターに殺到した客がパニックを起こしたり、取り残された客の中に非協力的なエゴイストがいたり、作動するはずの消火装置が故障していたり、いずれもあの映画で見たような場面が続出する。タワー外壁でゴンドラ宙吊りとか、ちょっと露骨に似すぎてるぞ。原作料払わなくていいのかよ。

しかも規模は明らかにあちらより小さく、取り残される客はわずか十数人。主人公がトラウマを抱えた元消防士だったりするドラマが加えてあったりはするが、まあ、かの大プロデューサー、アーウィン・アレンには、とうていかなわんわなぁ。

とはいえ、撮影に本物のベルリン消防局が協力しており、消火や救出活動は非常にリアル。火災のシーンも無理なくよく出来ている。なによりも実際のベルリン・タワーでちゃんとロケもしているのがエライ。たとえば日本映画で、東京スカイツリーが炎上するような作品をロケで撮影できるかどうか考えれば、この作品がいかに善戦しているかが。わかるだろう

あまりにもあっけなく炎上するタワーに、いまどきそんな建物あるのかいと違和感を抱いたが、それも事情をちょっと調べてみたら氷解する。じつはこのタワーは東ドイツ時代に建設されており、世界でもあまり例のない鉄筋コンクリート製の高層タワーだとか。そうか、実際にこんなもんなのかもしれないな。いや、それ、ダメじゃん。

いろいろ言ったが、結局のところこの「タワーリング・インフェルノ’08」、500円映画にしては非常に面白かったのである。

そうなると、やはりイメージ的にはマイナスでしかないこのパクリっぽいタイトルには、かなりの罪があるといえよう。ついでに言えばDVDのジャケットのイラストも、描かれているのは高層ビルで、ベルリン・タワーじゃないし。おまけに2007年製作の作品なのに邦題には「’08」。これじゃ今となっては7年も前の古い作品にしか見えないじゃないか。いろいろ策を弄してごまかそうとしたわけだが、そんな手管は不要だったと思うぞ。

作品そのものよりも、売る側に問題があって500円映画になってしまったという、可哀想な例でした。

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