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未発売映画劇場「奴らを荒野に撃て」

Gun the Man Down」は1956年製作のウェスタン映画。なんでこれが日本未公開なのかわからないくらい、面白い映画である。

3人組の男が銀行強盗を企む。そのうちの一人のレムは恋人ジェンをアジトに残したまま計画決行。強盗は首尾よく成功するが、レムは撃たれて重傷を負う。追っ手が迫るなか、一味の首領のマットは動けなくなったレムを見捨ててアジトに残し、仲間とジェンを伴って逃げ去る。捕らえられたレムは服役。数年後、釈放された彼はかつての仲間たちに復讐すべく行方を追う。とある町で、いまは堅気になった3人を見つけたレムは、町に滞在して圧力をかける。堅気になったマットは自分の手を汚すことを避け、腕利きの殺し屋ガンマンを雇うが……

あらすじだけ見ると、マカロニウェスタンみたいだが、正統ウェスタン映画だ。流血シーンは無いし、過剰な暴力も、陰惨な描写もなし。

ではあるが、やはり題材ゆえか、正道のウェスタンには見えない。

そのへんが、日本未公開に終わり、テレビ放送もソフト発売もなかった理由なのだろうか。

冒頭の銀行強盗シーンも、中盤のヤマ場である殺し屋との決闘シーンも、じつは直接的な描写はない。銃声数発とガラスが砕け散るショットで銀行強盗を、首尾を待つ者の耳に聞こえる銃声だけで殺し屋との決闘を描き切るのだ。正統ウェスタンとしては、なかなかに異色だろう。

そして、この殺し屋との対決シーンは全編中の白眉

殺し屋を雇ってレムに差し向け、その首尾を酒場で待つ3人。ターゲットを求めて町中(小さな小さなスモールタウン)を歩き回る殺し屋。彼の拍車のついた足音だけが静寂の町に響き、3人にも聞こえる。やがて殺し屋が町はずれの納屋に至ると、彼の背後に立つレム。2人のあいだに交わされる緊迫した会話。抜くか? 次の瞬間、酒場で待つ3人の耳に銃声が!

この演出、見事である。監督のアンドリュー・Ⅴ・マクラグレンの手腕か、脚本のバート・ケネディの力量か。

いや待て待て、この組み合わせ、異常に豪華だろう。

マクラグレンといえば「マクリントック」「コマンド戦略」「ワイルド・ギース」「北海ハイジャック」などなど、ウェスタンや戦争映画、アクション映画で腕をふるった男性映画の巨匠。

ケネディは「続・荒野の七人」「戦う幌馬車」「夕陽に立つ保安官」「大列車強盗」などのウェスタンの名監督(ハルク・ホーガンの「マイホーム・コマンドー」なんてのもある)

この組み合わせで、面白くないわけがないだろう。ますます、なんでこの映画が未公開なのかわからなくなったぞ。

主役のレムを演じるのはジェームズ・アーネス。テレビの長寿西部劇「ガンスモーク」で主演をつとめたウェスタンの大物だが、「遊星よりの物体X」で「X」をつとめたのが出世作というのがいい。実弟が「スパイ大作戦」のピーター・グレイブスというのも、私的にはツボだ。

悪役のマットはいかにも悪党面のロバート・J・ウェルク。ウェスタンではちょくちょく見る顔だが、なんといっても「荒野の七人」でナイフ投げのブリット(ジェームズ・コバーン)に決闘を挑んで負けるオッサン役が忘れがたい名傍役。

ほかに出番は少ないが、「リオ・ブラボー」などのジョン・ウェインの映画にやたらと出ているペドロ・ゴンザレス・ゴンザレスが妙に印象深いホテルマンの役で顔を見せている。

なにげに俳優陣も豪華じゃないか。

とはいえ、私がこの映画を観る気になったのは、なんといってもこれがアンジー・ディキンソン姐御の実質的なデビュー作だから、なのだ。

「リオ・ブラボー」「オーシャンと11人の仲間」「ビッグ・バッド・ママ」「殺しのドレス」などのあの人ですからね、なにしろ。

1931年生まれだから、この映画当時はまだ20代半ば。若いっ!

正直いって、後年の妖艶なアンジー姐さんのファンだった私としては、少々物足りなかったけど、姐さんの若き日の姿は、やはり見ておかねばなるまい。なにしろ姐さんの記念碑的作品ですからね。

ラストの処理も含めて、いささか異色なウェスタンであることは間違いないが、それでもしつこく言っておくぞ。

なんでこの映画が未発売なんだ?(モノクロなせいもあるのかな)

ということで、アメリカ産のDVDで鑑賞しました。タイトル邦題は、オレ製です。

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