ジャッキー・チェンと勝負する(46)

今回は、1976年作品の「少林門」。前回の「必殺鉄指拳(広東小老虎)」のあと、「スネーキーモンキー」でブレイクするよりも前のアーリー・ジャッキー・チェンの1作であるが、その中でも重要度の高い作品。

この作品、「ジャッキー・チェン・コレクション」に収録されているが、じつはこの映画、ジャッキー・チェンでもなければ、成龍でもない。というのも、この時点でのジャッキーは、まだ「陳元龍」の芸名だったからだ。この作品のクレジットにも、その名で表示されている。本作の後から「成龍」を名乗ることになる、そんな時期の作品なのだ。

さて、本作はタイトルからもわかるようにカンフー映画の定番である少林寺もの。清朝の弾圧を背景に、少林寺を裏切った高弟への復讐を目指す物語。そして、主人公はジャッキーではない

そう、この時代のジャッキー、いや陳元龍はまだ脇役。主役を演じるのはレオン・タン(譚道良/ドリアン・タンともいう)。日本での公開作品数は少ないが、「空飛ぶ十字剣」なんていう、奇妙に印象の強い主演作品もあるカンフー映画の大物の一人。悪役をつとめるのは、この後もジャッキーとの共演が多いジェームズ・ティエン(田俊)。

だが、この作品が重要なのは、このほかの顔ぶれゆえだ。

監督は呉宇森。まだこのころはそう名乗っていないのだが、のちに「男たちの挽歌」で香港映画の歴史を変え、ハリウッドに渡ってからも数々のヒット作を監督した巨匠、ジョン・ウーである。

そういわれて見れば、たしかにこの映画、旧来のカンフー映画とは違う、ジョン・ウーっぽいショットが散見する。一例をあげれば、カンフーファイトのさなかに挿入されるスローモーション・カットなど。

カンフー映画はこのあと下火になっていくのだが、もうちょっとカンフー映画の時代が続いていれば、ジョン・ウー監督による、こんな斬新なカンフー映画がたくさん作られたんだろうな。のちに、ジョン・ウーは、カンフーではなくガンアクションで、香港映画の新たな時代を切り拓くことになる。(ついでに言えば、ジョン・ウーは俳優としても本作に出演している)

本作はゴールデンハーベスト社の作品だが、やがてジョン・ウーがオポジションのシネマシティ社に移ったこともあって、これ以外にはジャッキーとジョン・ウーが組んだ作品はない。なんとも惜しい。そういう意味では貴重な作品だ。

そして、「少林門」で武術指導をつとめているのが、ジャッキーの兄弟子サモ・ハン・キンポー。ジャッキーよりも一足先に映画界で自らの地盤を固めていたサモ・ハンがジャッキーを招へいした形だろうか。サモは、この作品では悪役も演じているが、後年の愛嬌あふれる姿からは想像しにくいような冷酷な悪役を好演。このころはそんなに太っていなかったんだね。

ジョン・ウー、サモ・ハンだけでなく、目立たないが、ユン・ピョウやユン・ワーら「七小福」のメンバーも参加していて、そしてジャッキーも。のちに香港にアクション映画の新時代を確立していくメンバーが、まだ無名時代に、偶然にも結集したのが、この「少林門」だったわけだ。

なんとなく連想させられるのは、売り出し前のスティーヴ・マックイーン、チャールズ・ブロンソン、ジェームズ・コバーン、ロバート・ヴォーンらが出演した、あの「荒野の七人」。旧来のウェスタンを打破してアクションを重視したウェスタンを切り拓いた傑作だ。

なので私はこの「少林門」は、新時代を予感させた香港映画版「荒野の七人」だと思ったのだが、いかがだろう?

それほど重要な映画だが、日本では劇場未公開(ずっと後年に映画祭で上映された)のまま。まあ製作当時の日本での香港映画の受容状況を考えれば無理もないことではあるし、テレビ放送やソフト化はされたので、許してやるけど(その際の邦題は「ジャッキー・チェンの秘龍拳/少林門」)

今となっては貴重品のこの作品だが、いま見るとさすがに古さは否めない。なのでここはぜひ、21世紀のジャッキー・チェンとジョン・ウー監督で、バリバリのアクション作品はいかがだろうか。カンフーでなくてもいいからさ。

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