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過去になった未来

私の好きな映画に「ニューヨーク1997」というのがあります。

犯罪発生率が上昇した近未来。アメリカ政府はニューヨークのマンハッタン島を完全封鎖し、島全域を重罪犯刑務所とする。釈放なしの凶悪犯ばかりを収容し、島内は囚人のみの無法地帯。そのまっただなかに、こともあろうに大統領専用機が墜落、ただ一人生存した大統領は囚人たちの人質となる。大統領救出のため、免罪をエサに雇われた凄腕の犯罪者スネーク・プリスキン(カート・ラッセル)は単身マンハッタンへ乗り込む。

公開当時(1981年)はけっして高く評価された映画ではなかったが、その後なぜかカルト的に人気が高まり(実際面白い映画なのだ)多くの映画好きに色濃い影響を残した。スネーク・プリスキンは人気キャラクターとなり、1996年には「エスケープ・フロム・LA」という続編も作られた。

また一部のマニアには、怪物プロレスラーのオックス・ベイカーの代表作として記憶されている(私だけか・笑)

なんて話は本題ではない。

この映画の舞台は近未来に設定されていた。

されていた」と過去形なのは、タイトルがが示すように、それが1997年だったからだ。

1997年って、もう今から21年も前

いや、この映画の製作は、さっきも書いたように1981年。

つまりその時点では、1997年は、16年後。これは立派な近未来だったわけだ。

でもどうだろう、いまになってみると、1997年はすでに遠い過去。なにしろ21年前だ。しかも、もはや前世紀、20世紀なんだよね。

ちなみに映画が製作された1981年の21年前というと1960年。その時点から見た21年前は、すでに遠い過去だった(私だってまだ1歳)

こうなると、わざわざ「1997」とつけた邦題の罪は重い。映画を見てみればわかるように、冒頭の説明を除けば、この作品の舞台がべつに1997年である必要はないんだからね。ちなみに原題は「Escape from New York(ニューヨークからの脱出)」で、「1997」はどこにもない。

こんな邦題をつけなければ、そうそう「過去っぽく」は見えずにすんだんだろうに。その反省から続編は「エスケープ・フロム・LA」になったのか(これは原題どおり)

もっともこうした例には、もっと大物がいる。

SF映画の金字塔にして不朽の名作といわれる「2001年宇宙の旅」がそれだ。

映画が製作されたのは、1968年。

その時点から見れば、2001年は33年後。来世紀だし、もう充分に未来だ。

でも今から見れば、すでに17年前だ。その年に生まれた子どもが高校卒業するくらい昔だからね。

でも、映画の中で描かれるような未来は、まったく訪れていない

パンアメリカン航空による一般人の宇宙旅行も実現していないし、大規模な宇宙ステーションもまだ運用されていないし、反乱を起こすコンピュータもまだできていない(たぶん)、有人木星探査なんて、いまだに「未来」の夢のままだ。

わざわざタイトルに「2001年」などと謳わなければよかったのにね(こちらは原題も「2001: A Space Odyssey」)

ちなみに「2001年宇宙の旅」には続編があるのだが、こちらのタイトルは「2010年」 やっぱり、もう8年前になっちゃってるよ。反省がないぞ(製作は1984年)

まあ、そんな例はたくさんあるので、ことさらに言い立ててもしょうがないのである。「バック・トゥ・ザ・フューチャー PART2」(1989年)の未来2015年10月21日だったとかね(もう3年前)

「ウルトラQ」の人気作「2020年の挑戦」(ケムール人が出るやつ)もあと2年後にはこうなる運命。われわれが2年後にケムール人になっている可能性は、すでに、ほぼない(笑)

こうしたツッコミができるのも、じつは映画を見るためには「いい時代」になったせいである。

「ニューヨーク1997」が作られた1981年の時点で21年前の1960年とか、「2001年宇宙の旅」が作られた1968年の時点で17年前の1961年とかに製作公開された映画をふつうに見ようと思ったら、当時はけっこうむずかしかったのだ。

まだ家庭用ビデオはほとんど普及しておらず、レンタルビデオもない。古い映画を見ようと思ったら、名画座を探しまわるか、テレビの映画劇場で放送されるのをひたすら待つしかなかった。

それにくらべれば、DVDやBDも売られ、衛星放送やCATVなどテレビのチャンネルも増え、ネット配信もあり、また映画館のスクリーン数も増えて再上映される旧作も増えた。過去の映画を見る機会は、むかしよりも断然多くなっているのだ。

だからこうした過去の映画を見直しつつ、ああもうこの「未来」は通り過ぎちゃったんだよな、などとツッコミを入れることもできるのは、けっこう素晴らしいことだったりするんだよ。ありがたがるように、若者たち(笑)

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