映画は進歩してきたのか?

なんか大上段に振りかぶった感じですが、そこまで大した話じゃないです(笑)

映画の歴史は1893年に始まるという。

この年にアメリカの発明王・エジソンが、箱形の映写装置(キネトスコープ)を公開。次いで1895年のパリ科学振興会でリュミエール兄弟がシネマトグラフを披露して、本格的な映画が完成した。いまの映画館で見るような映画はリュミエール兄弟のシネマトグラフの系譜にあたるので、1895年を映画の誕生とする説も多い。

すぐに興行が行なわれるようになり、日本でも1899年には「活動写真」として興行が打たれている。

以来100年以上にわたって映画は続いてきたのだが、その間に表現手段の大きな変化がいくつかあった。

1927年に世界初のトーキー映画「ジャズ・シンガー」が公開され、それまでの無声映画に代わって、映画が音を得たのがひとつ。これは、劇的な変化で、多くの映画人に途方もない影響をもたらしたという。そのへんをわかりやすく理解するにはミュージカル映画「雨に唄えば」(1952年)を見るのがおススメ。

もうひとつが、モノクロからカラーへの転換で、これは1932年に三原色式のテクニカラーが開発されてディズニーの「花と木」に採用されたのが嚆矢(それまでもフィルム着色法などのカラーはあった)

トーキーに関しても、「ジャズ・シンガー」の直後に初のトーキーアニメ「蒸気船ウィリー号」を作ってパイオニアの一角を占めたディズニーが、カラー化でもトップを切ったわけで、このへんがさすがではある。

音を得ることと、色を得ることで、映画の表現形式は大きく変わったといわれる。

その後も、例えば不燃性フィルムへの切り替え、イーストマンカラーの登場、ワイド画面への転換、ステレオ音響の開発などの技術革新はあり、また立体映画や匂いの出る映画など定着しなかったさまざまな方式はあったものの、映画を見せる方法そのものに大きな変化は現われなかった。

はい、ここまでが、大体の映画の教科書に出ている歴史。要するにもう100年ほども、映画は技術的には発展していないってことだ。

ところが、じつは最近になって、もうひとつの劇的変化が生じ、映画はその表現手段を大きく変えているのだ。

そう、コンピュータ・グラフィックス(CG)の実用化だ。

CGが最初に使われた映画は1982年の「TRON トロン」といわれる。見ましたよ、公開時に。とはいっても映画の中で部分的に使われただけで、そう大々的なものではなかった。

その後、特撮(VFX)の一環として使用されはじめ、何といってもあの「ジュラシック・パーク」(1993年)で観客の度肝を抜いて、一気に定着した。

高度かつ高価な技術だったCGも、21世紀に入るとすっかり普及し、いまやヤスモノ映画の切り札になっていることはご存じだろう。

さてここからは私見。

私は、このCGの使用は、映画そのものの作り方の上で、トーキーの採用やカラー化を上回る、大きな変化だったと思うのだ。

CGが、それまでの映画撮影法とまったく違う点。

それは「いま現実にあるものを撮影する」という映画の作り方を、根本から覆した点だ。

そう、それまでの映画では、もちろんセットを組み、あるいはロケに行き、俳優ないしはそれに類したものが演じる光景をフィルムに焼き付けるのが、基本。

もちろん現実世界には存在しない怪物や怪獣、あるいは実物で撮影するのが困難なものを観客に見せる特殊撮影もあるが、それとてミニチュアセットや着ぐるみ、あるいはパペットなどを撮影しているのだから、現実に存在する「モノ」であることには違いがない。

ところが、CGでスクリーン上に登場するものは、まったく現実には存在しないのだ。

この違いは大きい。

そう、CGは「カメラなしで撮影できる映画」なのだ。これが表現上に大きな違いをもたらしていることは間違いないだろう。

私がこのことに気づいたのは、昨年の「シン・ゴジラ」の宣伝だ。その一環として、サッカーJリーグの川崎フロンターレの試合はタイアップを組み、ゴジラがスタジアムのピッチで始球式を行なうというイベントを開催したのだ。

いやいや、盛り上がりましたねえ。ゴジラが尻尾でのキックをものの見事に空振りしたときはどうなるかと思いましたが(笑)

そして、この時に見た人にはおわかりの通り、スタジアムにあらわれたのは、平成ゴジラだったのだ。

「シン・ゴジラ」ではない、先代ゴジラが、なぜお勤めにおよんだのか?

ああ、そうか、全面的にCGで作られた「シン・ゴジラ」は、現実に存在しないのだ!

これが、CGで作られた映画が、それまでの映画と決定的に違うところなんだった……と、突然理解したのでありました。

21世紀の映画は、20世紀の映画とは、すでに大きく変化しているんだな。

私たちは、今たしかに未来に生きているんだ。

  映画つれづれ 目次

ここから先は

0字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?