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令和4年・夏場所雑記

ようやくコロナ禍のもとでの本場所も変化してきて、この夏場所は国技館は定員の87パーセントだかまで観客を入れられることになりました。コロナがおさまったというよりも、少しずつ人類がコロナに慣れてきただけでしょうけど。

とはいえ、空席が目立たず、なんとなく歓声めいた(声出しはまだ禁止だけど)どよめきが聞こえるのは、やはり相撲場らしくていいですね。テレビ越しにも活気が戻ってきた雰囲気は見て取れました。

それに伴って、土俵場も熱戦が多かった感じ。とくに土俵際でもつれて物言いがつくような相撲が多かったですね。

ただこれは、今場所から土俵下の審判員が一部入れ替わっての新体制になったせいもあるでしょう。場所中盤まではむしろ物言いに消極的な雰囲気もあって、一部の報道やSNSで叩かれていたようで、後半戦では逆に物言いが増えた印象もありました。まあ新任の審判員諸氏も、だんだんと慣れていけばいいでしょう。

ただそんなノンビリしたことも言っていられないです。いまは誰でも手軽に取り組み映像を再生できる環境ができあがっているので、イチャモンがつきやすい。だから審判部は協会幹部と諮って、環境整備をするべきでしょう。審判員への講習はもちろん、ビデオ判定のための機材整備は急務ではないでしょうか。

いまでもビデオ判定のための肝心の「ビデオ」はNHKとAbema TVの既存のものを使っているようですが、どちらもカメラの視点が高いのが欠点。正しい判定のためには、審判員の視線と同じ、土俵の高さでのカメラが必要でしょう。

以前にも書いた気がしますが、土俵そのものに超小型のカメラを埋め込み、その映像をビデオ判定室へ。従来どおり、NHKやAbemaの映像も参考にしつつ、土俵下の審判長と連携して勝敗を見きわめる仕組みを作っていただきたい。

このシステムならば、さほどの費用もかからずに実現できるでしょう。とっととやってください。

さて、優勝争いですが「けっきょくは照ノ富士」でしたね。

まことに失礼ながら、横綱が前半戦で3敗もした時点で、今場所は大混戦、下手したら優勝ラインは11勝4敗以下、平幕優勝濃厚とか予想してたんですが、一人横綱がくつがえしてくれました。

ここ数場所の照ノ富士は後半戦から終盤に息切れして追い込まれることがしばしばでした。心・技・体でいえば「体」に心配のある状態ですから、場所後半にスタミナ切れを起こすことは予想できること。だから今場所も後半崩れてしまうと考えたんですね。

でも照ノ富士はこの逆境を跳ね返しました。後半7連勝。相撲内容も後半になってぐっと安定しましたね。

まぁたまたま体調が良かったのかもしれませんし、正直いって他の力士が横綱を上回る星をあげられなかったのはラッキーでもありました。

だから、これをもって完全復調、今後覇道を突き進むとも言い切れません。ですが、ひとつ河を渡った感じはしますね。来場所以降に期待を持てそうです。

逆に、大いに株を下げたのが大関陣でした。御嶽海、正代、貴景勝のうち勝ち越したのが貴景勝だけ。それも8勝7敗で、3大関あわせた星は19勝26敗というテイタラク。ちなみに関脇、小結の三役陣4力士の合計は35勝25敗にくらべてみると、大関陣なにやってんだとなっても当然でしょう。

もちろん大関といえども人間です、調子の悪い場所だってあります。それがたまたま3人に重なっただけでもあります。仕方ないといえば仕方ないですね。来場所の逆襲に期待しときましょう。

とはいえ、貴景勝と御嶽海はどうもケガの心配があるようで、次場所までの間にしっかり体のケアをすることが必要でしょう。

でも正代は、どうもそれだけじゃすみそうもありません。メンタルの問題も大きいのでしょうが、それ以上に技術的な問題があるように感じます。いうまでもなく、正代のフィジカルは文句のつけようがないものです。心・技・体のうち「体」については相撲界屈指のものでしょう。

その有り余る素質を活かせていないように見えるのです。大関に上がるころは、その素質が心と技の瑕瑾を覆い隠していたようですが、ここにきてまさにメッキが剝がれたようです。

ここは遠回りなようですが、一度取り口を考え直してもいいんではないでしょうか。

じつは同じことを感じるのが、再入幕の今場所も負け越した大器・王鵬です。

大横綱・大鵬の孫で名関脇・貴闘力の息子というのを抜きにしても、大きく柔らかいあの体躯が一級品なのは間違いありません。にもかかわらず、なかなかブレイクしません。いやもちろん幕内まで上がってきたのは賞賛に価しますが、ここで止まっていい力士ではないはずです。

さんざん言われているでしょうが、祖父の大鵬は王鵬と同じ22歳3カ月のころは、とっくに横綱、それも優勝回数すでに7回を数え、大横綱への道を歩んでいたのです。ノンビリしているわけにはいかないでしょう。

今場所のテレビ解説で北の富士さんが指摘していたように、王鵬の体形は現在の押し主体の相撲には向いていない気がします。もちろん前に出る圧力は必要ですが、もうちょっと回しを取って寄る相撲も身に着けてはどうでしょうか。このへんは師匠の指導の問題かとも思いますが……

現在の相撲界は、コロナ禍の影響で、出稽古が出来ない状態がもう2年以上続いています。そのためでしょうか、稽古相手のバラエティが乏しくなり、なかなか新しい技術が身に着かなくなっているのかもしれません。これは王鵬だけの問題ではありません。

大袈裟にいえば、長い歴史を積み重ねている大相撲の伝統が途切れてしまう危機にあるのかもしれません。

今場所も逸ノ城がコロナ感染の影響で全休するなどしていますし、感染予防はもちろん重要ですが、協会はそろそろ抜本的な手を打たないといけないのではないでしょうか。

名古屋場所後には、部分的ながら巡業も再開することになるとか。これが問題解決の突破口となることを期待しましょう。

最後に一つだけ苦言を……というか要望を。

今場所の平幕上位には好成績者が目白押しです。東2枚目の霧馬山が10勝、西2枚目の琴ノ若が9勝、西3枚目の玉鷲も9勝、西4枚目の隆の勝は千秋楽まで優勝を争って11勝で殊勲賞受賞。いずれも本来ならば来場所は三役昇進の成績でしょう。

ところが三役陣は、東関脇の若隆景が9勝、東小結の豊昇龍が8勝、西小結の大栄翔は11勝(殊勲賞)といずれも勝ち越し。残る西関脇の阿炎も7勝8敗ですから来場所は三役維持でしょう。

三役の地位に空席が出来そうもないのです。

こうなると前記の好成績の平幕力士たちは、いずれも三役昇進ならずでしょう。そのうえ西筆頭の逸ノ城はコロナ全休なので番付据え置きが濃厚。下手したら番付上昇なしもありうるのです。

じつはここ数場所、実力が拮抗しているせいか、番付上位が渋滞しています。平幕上位で勝ち越しても三役に上がれない状態が続いているのです。

霧馬山などは春場所東4枚目で10勝しているのに、夏場所では2枚上がっただけ。今場所も10勝を挙げたのに、このままだと筆頭へ1枚上がるだけになりそう。これはあまりにも気の毒。もし三役で2場所連続10勝すれば、大関の声もかかろうかという成績なのに、平幕どまりですからね。

かつては番付に「張出し」というのがありました。東西の役力士は正位置以外に、場所によっては複数の張出しがいたものです。張出関脇とか張出小結とか、その響きもちょっと懐かしいですね(もちろん横綱大関にもありました)

なんでこの張出制度をやめたのかは知りませんが、ここはぜひ、きたる名古屋場所からでも復活させていただきたい。土俵上もいっそうの熱気、活気が出てくると思うんですがねぇ。

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