ジャッキー・チェンと勝負する・追撃戦(8)

けっこう長く続けているこの「ジャッキー・チェンと勝負する」ですが、今回で大きな節目を迎えます。

はい、今回の「ファースト・ミッション」(1985年)が、本欄で取り上げる、たぶん「最後の20世紀のジャッキー映画」になるのです。

まあ、まだいくつか、ジャッキーが脇役で出演したりした映画は残っていますが、ちゃんと主演したジャッキー映画は、いよいよこれで最後です。感慨深いですねえ。

ただ、そういった意味はあっても、この作品がジャッキー・チェンの代表作というわけではないし、正直言ってそんなに素晴らしい傑作でもありませんが。

「ファースト・ミッション」はその勇ましい邦題とは裏腹に、ちょっと泣かせる人情劇です。

もちろん、監督がサモ・ハン・キンポーで主演がジャッキーなので、アクションはたっぷり入ってますが、ドラマの基本線が「泣かせ」なのは間違いありません。

ジャッキーは香港警察の刑事。両親を亡くし、いまは知的障害のある兄(サモ・ハン)との2人暮らし。結婚したい恋人(エミリー・チュウ)はいるけど、ほとんど子ども並みの精神を持つ兄の面倒を見なければならないのが悩み。ところが、この兄が偶然から犯罪組織の宝石強盗事件に巻き込まれることに……

前述したように、アクションは豊富ですが、どうも今ひとつノリが悪い

原因はわかりやすいです。

やはり映画の重要なテーマのひとつが、ジャッキーと、知的障害のある兄との絆だからです。

ハンディキャップのある人々をあつかう映画は、むかしから洋の東西を問わずにたくさんあります。

設定がよく似ているダスティン・ホフマンとトム・クルーズ主演の「レインマン」が思い浮かびます。あれの真似かと思いましたが、あちらは1988年の作品なので、「ファースト・ミッション」のほうが先ですね。

こうした問題に対する感覚が日本とは違うせいか、往時の香港映画ではハンディキャップの問題をけっこう露骨にあつかう例があります。

かつて日本でもちょっと話題になったカラテ映画「ミラクルカンフー阿修羅」(1980年)などが好例でしょう。実際に四肢がない俳優たちをカンフーアクション映画に主演させたんですから、その割り切り方はスゴイものです。

知的障害に関しても、たとえば名作「ゴッド・ギャンブラー」(1989年)で頭を打って一時的に知能を後退させたチョウ・ユンファをからかう、けっこうキツいシーンがありましたっけ。こうした感覚は、なかなか香港的な感じがしますが。

「ファースト・ミッション」でも、サモ・ハン演じる兄が、知的障害をからかわれるシーンがあるのですが、いまの視線で見ると、ちょっと度が過ぎて引いてしまいます(いじめる側を演じるのが名優ウー・マなので、いっそう酷さが目立ちます)

もちろん全体は娯楽映画としてそう道を踏み外していないし、時代も違うのでそれ自体を批判はできませんが、娯楽として見る映画には、現在では不向きのシーンではないでしょうか。

そして、ラストもやや重く、見終わったあとも爽快感はいまひとつ。やはり湿っぽいのはジャッキー映画向きではないですねえ。

まあ、そもそもはジャッキー・チェンの映画というよりも、監督・主演のサモ・ハンの映画なんでしょう。そう思えば頷けないこともないんですが。

そのへんがやはり引っかかり所になったのが、この作品がコレクションに未収録になった遠因なのでしょうか。

公開当時はこんなことまで考えなかった気がしますが、これも時代の違いってことなんでしょうね。

ちなみに、今回私が見たのは松竹富士の配給になった日本劇場公開版のソフト化。

なのでジャッキーがつたない日本語で歌う2曲が主題歌として収録されています。

ですが、本来の香港バージョンでの主題歌は台湾の人気歌手スー・ルイ(蘇芮)の歌う〈誰可相依〉という曲で、香港のアカデミー賞(香港电影金像奖)で最優秀主題歌賞を受賞しています。しっとりしたバラード調でなかなかいい曲なので、ちょっと惜しいな。

余計なことですが、映画の中国語題は「龍的心」で、英語題は「Heart of Dragon」 邦題もそうだけど、この原題もかなり乖離してるな。「ドラゴン」関係ないし(笑)

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