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レッツ・シング・アロング

私はアナログ世代なので、いまでも音楽を聴くことを「レコードを聴く」などといってしまいます。そうはいっても、もはや塩ビのレコードは使えないので、CDに切り替えて久しいのだけど、そのCDもそろそろ配信だストリーミングだのに取って代わられつつあるようですね。

で、いまだもって愛用しているCDなんですが、もっぱら聴くのは運転しながら。なぜならば、わが家にはステレオ再生装置がないからです。

運転中に聴くので、あんまりムーディでゆったりした曲は向かないわけで、どうしてもドンチャカした曲ばかりになりがち。ま、もともとそういう音楽が好きなせいもありますが。

で、けっこうたくさん持っているCDのなかにはいくつか定番ともいうべきお気に入りがあるのですが、そのうちのひとつがこちらになります。

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ミッチ・ミラー合唱団といえば、私の年代の人にはポピュラーな存在でしょう。昔はラジオを聞いてると必ずと言っていいほどよく聴かれたものです。

合唱団の親分であるミッチ・ミラー(Mitch Miller)は1911年の独立記念日生まれ。1950年代半ばから男声合唱団を率いて次々にヒット曲を飛ばし、1970年代まで活動しました。1961年からはじまったTVの冠番組「Sing Along with Mitch」のおかげで世界的な人気者となり、番組は日本でも放送されていました。だからCDジャケットのヒゲ親父に見覚えのある人もいるでしょう。

番組のテーマ曲でもあった「シング・アロング」 聴いたことあるかな?(作詞作曲はロバート・アレン〔1959年〕)

そのミッチ・ミラー合唱団には、多くの映画主題歌のヒットがあります。だから音楽的趣味のあまりない私でも、よく知っていたわけ。

上記のCDには20曲が収録されていますが、そのうちに「黄色いリボン」「戦場にかける橋」「ナバロンの要塞」「大脱走」など、往年の人気映画の主題歌が10曲近く含まれています。

いまから半世紀前のヒット曲ばかりですが、いずれも耳にすれば、あああの映画のとピンとくる曲ばかり。いや最近もTVのバラエティ番組などで使われることが多いので、今日でもそれなりの人気はあるようですね。

と、サラッと書いたんですが、じゃあミッチ・ミラー合唱団は映画音楽に巨大な足跡を残したかというと、じつはそうでもないのです。

昔のラジオの映画音楽番組などでは、ミッチ・ミラー合唱団の歌う曲を映画のサントラからといって紹介することが多かったのですが、じつはそうじゃない。

試みに、本欄を書くときによく使うIMDBで「Mitch Miller」を検索してみると、あれれ、そのほとんどは挿入歌としてミッチ・ミラー合唱団のヒット曲が使われただけのようなのです。

「黄色いリボン」も、「クワイ河マーチ」が有名な「戦場にかける橋」も、「大脱走」も、「ジャイアンツ」に使われたはずの「テキサスの黄色いバラ」も、「ナバロンの要塞」のあの勇壮な主題歌も、実際には映画では使われていません。

よく聴くと、「黄色いリボン」や「クワイ河マーチ」、「ナバロンの要塞」などは、ポピュラーに今でも聞かれるミッチ・ミラー・バージョンとはアレンジが違っているし、「大脱走マーチ」は映画では歌詞のないインスト曲なのにミッチ・ミラー用にわざわざ歌詞をつけてあります(作詞はアル・スティルマン)

これらは、映画に使われた曲をミッチ・ミラー合唱団が歌ってレコードを売った、いわば「カバー盤」あるいは「イメージソング」だったんです。

このへんの事情はよくわかりませんが、察するに当時のハリウッドメジャーの映画会社は、自社内に専用のオーケストラを有していたので、外部のミッチ・ミラーを使う必要がなかったのかもしれません。

一方で、その主題歌をレコードにして売りたいレコード会社は、ネームバリューのあるミッチ・ミラー合唱団の「名前」が欲しかったんでしょうか。なので映画のオリジナル・サントラ盤が発売されると、そこにはちゃんとミッチ・ミラー合唱団のコーラスが収録されていたりもします。

そうしたなかで、実際に映画で使われ、ちゃんとクレジットされているものもあります。

1962年の「史上最大の作戦」の主題歌である「史上最大の作戦マーチ」 これはちゃんと映画のラスト、エンドクレジットにきちんとミッチ・ミラー合唱団のコーラスで流れます。さすがは超大物プロデューサーのダリル・ザナック、ミッチ・ミラーに払うギャラくらいはケチらなかったということ?

この「史上最大の作戦マーチ」は、じつは映画にも出演していたポール・アンカの作曲。「ダイアナ」のあの人です(知らない人はご両親か祖父母にでも訊いてみてください) 当時はバリバリの人気歌手だったポール・アンカに歌わせなかったのも、謎といえば謎ですよね。

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じつはもうひとつ、ミッチ・ミラー合唱団の歌声が映画で流れたものがあります。

1965年の「ダンディー少佐」 サム・ペキンパー監督の大型ウェスタンで、主題歌の「ダンディー少佐マーチ」はメイン・タイトルにミッチ・ミラー合唱団のコーラスで流れます。

私はこの曲けっこう好きですが、ペキンパー監督の意図とは合わなかったそうで、当時はけっこうな揉め事になったとか。最終的には編集権がペキンパーの手を離れ、不本意な形での完成形になったそうです。

そのせいか、現在発売されているブルーレイに収録のリニューアル版では、この「ダンディー少佐マーチ」はカットされています。

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1970年代半ばには引退したミッチ・ミラーでしたが、その後も長命で2010年までご存命だったとか。功成り名遂げての余生、ちょっと羨ましいですな。

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