ゴッド・ギャンブラー大行進

私もギャンブルは決して嫌いではないのですが、日本では合法的な賭博は、競馬競輪競艇オートと宝くじしかないのであまり意欲が湧きませんね。もちろん海外のカジノにでも行けば身震いするほどの大勝負ができるんですが、そもそも資金と度胸が不足しているもんで……

ギャンブル好きは世界共通でしょうが、1990年前後の香港映画では、空前のギャンブル映画ブームがありました。

事の発端は1989年の「ゴッド・ギャンブラー」。当時人気絶頂のチョウ・ユンファが伝説のギャンブラー、賭神こと高進に扮し、記録破りの大ヒットになりました。ちなみに原題にもなっている「賭神」は広東語では「ドゥサン」と発音します。日本語の「父さん」の「と」に濁点をつければオッケイです。

ただ、この「ゴッド・ギャンブラー」は日本でも公開されたんですが、その後のブーム作品はほとんど劇場公開されずビデオ発売のみだったため、邦題や発売順が混乱し、そのつながりがよくわからなくなっていますね。

ざっと調べてみたら、邦題に「ゴッド・ギャンブラー」を冠したものは、最近公開された「ゴッド・ギャンブラー/レジェンド」まで14作品ほどもあるようですが、正確に「賭神」系列に属するものとそうでないものが混在しています。じつは、今回の「ゴッド・ギャンブラー/レジェンド」も、元祖「ゴッド・ギャンブラー」のチョウ・ユンファが出演して監督も同じバリー・ウォンですが、特に「賭神」とは関係ないんです。

こうした混乱を招いたのは、もちろん真似もパクリも柳の下の泥鰌も大好きな香港映画の体質のせいですが、それに拍車をかけたのが「ゴッド・ギャンブラー」の翌年に公開されたパロディ作品「賭聖」。今では香港喜劇王として不動の地位を築いたチャウ・シンチーが、超能力を持ったギャンブラーに扮した出世作。「ゴッド・ギャンブラー」をパロディ化しコメディに仕立てた作品ですが、なんと本家の「ゴッド・ギャンブラー」を上回る興行成績新記録を打ち立て、一気にブームに火をつけました。

ここで、香港映画の体質を丸出にしたのが、本家本元「ゴッド・ギャンブラー」の続編。当時チョウ・ユンファが病気で映画出演を減らしていたので、やむなくユンファ抜きの続編を画策していたスタッフが思いついたのが、ここに「賭聖」をからめてしまおうというウルトラC。自分のパロディを取り込もうなんて、普通は考えつかねーよな。

というわけで、「賭神」プラス「賭聖」のダブル続編「賭侠」(1991年)が製作されました。主演は「賭神」の準主役だったアンディ・ラウと「賭聖」ことチャウ・シンチー。最後にインチキっぽくチョウ・ユンファも出ています。

これがまたヒットしたので「賭侠」の続編として1991年に作られたのが「賭侠II之上海灘賭聖」、そして同じころに「賭聖廷続篇賭覇」も作られます。といっても、じつはどっちも「賭聖」の続編で、前者は1930年代の上海にタイムスリップした賭聖の、後者は賭聖の姉の賭覇のストーリーで、賭神は直接関係ないです。

このあたりの作品群が日本では「ゴッド・ギャンブラー」のタイトルのもとに続々と発売されました。「賭聖」は映画祭では英題の「オール・フォー・ザ・ウィナー」のタイトルでしたが、ビデオでは「ゴッド・ギャンブラー/賭聖外伝」。以下、「賭侠」は「ゴッド・ギャンブラー II」、「賭侠II之上海灘賭聖」は「ゴッド・ギャンブラー III」、そして「賭聖廷続篇賭覇」は「ゴッド・ギャンブラー/リターンズ」という具合。2と3が交錯して、混乱しますねえ。

その後、正統「ゴッド・ギャンブラー」の続編は1994年になって、復帰したチョウ・ユンファが賭神に扮した「賭神續集」が製作されました。日本では「ゴッド・ギャンブラー/完結編」でした。完結編とうたっていますが、この後に、賭神の少年時代からを描いた前日譚「賭神3之少年賭神」(1997年)があり、こちらは「ゴッド・ギャンブラー/賭神伝説」。正統「賭神」シリーズはこの3本だけなんですね、けっきょくのところ。

このほかにもブームの最中には、ほかにも「賭王」(これはシリーズ化されているが日本未公開)とか「賭魔」とか「女賭神」とか「賭尊」とかが作られており、「賭尊」は「ゴッド・ギャンブラー4」として日本でも発売されましたね。1994年の「神龍賭聖之旗開得勝」にも「キング・オブ・ギャンブラー」という紛らわしい邦題がついてます。

その後、「賭侠」と「賭聖」は、別の俳優で復活し、21世紀になってからシリーズ化されていますが、もはや手に負えません。こっちもだいたいビデオの邦題には「ゴッド・ギャンブラー」がついてるしね。カンベンしてくださいよ(笑)

まあ、それくらい「ゴッド・ギャンブラー」のインパクトが強かったってことでしょうかね。そのわりに続編の数々は(少なくとも日本では)博打に負けてる感じなのはどうしたことでしょうかねえ。ドリフの歌ではないですが「なかなか勝てないのが 勝負の味なのさ」ってことなのかな。

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