ハシ映画
箸で何かをつまむ様子を延々と撮影した映画でもないし、ジャンルの端っこの方に生息するヤスモノ映画でもなく、もちろん橋幸夫主演映画の数々でもない。
先日、ディスカバリーチャンネルの「舞台裏のスーパーテクノロジー(How Do They Do It?)」という番組を見ました。これは、いろいろな製品(工業製品に限らない)の製造過程のキモをコンパクトに紹介する30分番組で、1回に3種類の製品が紹介されます。内容が多彩で、なかなか面白いのです。
で、その回の紹介が「マーカーペン」と「高速バイク」、そしてあとひとつが「応急の橋」だったんですね(その日は他に「エスパドリーユ」「イケアの家」「岩塩坑の書類保管庫」という回もやってました。多彩でしょ)
このうち「応急の橋」ってのが異色で、軍用の組み立て式仮橋梁の製造のテクノロジーだったんですね。
なにしろ途方もない重量の戦車なんかが通る橋ですから、その重みを支えるための技術とかは、なかなか興味深いものでした。
日本のテレビではこうした軍事系のネタはタブーっぽいのですが、あちらの番組ではよく見ます。
で、そこで紹介されてた「橋」が、ベイリー・ブリッジというやつ。
はい、戦争映画ではおなじみのアレです。
「橋」は戦略上の重要ポイントなんで、戦争映画にはしばしば登場します。
代表的なのが、第二次世界大戦を描く最後のオールスターキャスト超大作戦争映画「遠すぎた橋」
ごぞんじのように、1977年のこの映画で描かれるのは、大戦末期に連合軍が一気にドイツ本土を攻略しようとしたマーケット・ガーデン作戦。
無残な失敗に終わったこの「史上最大の空挺作戦」で連合軍の目標となったのが、敵地の奥深くにある「5つの橋」 パラシュート降下部隊が橋を占拠し、そこを戦車隊が進撃して、敵陣を分断しようという大作戦なんですね。
そのうちのひとつ、エリオット・グールド扮する101空第506落下傘連隊長ボビー・スタウト大佐が率いる部隊が担当するアイントホーフェンの橋は、部隊の目前で爆破されてしまいます。任務失敗です。
思わず呆然のスタウト大佐(このときのエリオット・グールドの表情が、じつにいい) でも、ここからが大佐の見せ場です。悔しがる間も見せずに大佐が命じるのは臨時橋梁の架設。葉巻をくわえた大佐殿は、徹夜で兵たちにハッパをかけまくり、なんとか一夜で橋を架けなおすのであります。
ここで登場したのが、ベイリー・ブリッジです。英国人のドナルド・ベイリーが考案した組み立て式のトラス橋で、重機を使わずに手作業でかけられるのが特徴。要は人海戦術なんですが。
ユニットごとに運び込まれる橋の部品を、プレハブよろしくどんどん組み立てては、川の上に押し出してゆく。響く槌音、部品がぶつかりあう金属音、兵士たちのざわめきに轟きわたる上官の怒号。
夜明け間近、橋が出来上がるや、大佐殿は待機中の戦車隊列へ猛ダッシュ。腕をぐるぐる回して「エンジンかけろッ! 出せッ!」 かっこいいぞ。
100トン以上もある戦車が通る橋を一晩でかけるシーンは、この大作映画中でも白眉ともいえる名場面で、おかげで私もベイリー・ブリッジなんてものを認識しているわけです。
ただし、この奮闘にもかかわらず、作戦は予定よりも24時間遅れ。これが致命傷になって、史上最大の空挺作戦は悲惨な結末を迎えるんですがね。
もうひとつ、ベイリー・ブリッジが活躍する映画をご紹介。
私が「戦争なんか勝手にやってくれ」映画の最高傑作と思っている「戦略大作戦」(1970年)がそれ。
敵地の奥深くに秘蔵されている金塊を強奪すべく、前線を突破してドイツ軍占領地帯へ勝手に潜入するハミダシ部隊を描く、この痛快な戦争アクションに関しては何度かふれましたが、ここでもベイリー・ブリッジのシーンはなかなか印象深し。
強奪作戦に参加した、ドナルド・サザーランド率いる独立タンク隊(笑)が渡河地点に到達。目の前には立派な橋が健在です。「よし、橋はまだある」とニンマリした次の瞬間、どかーん! 「今は、もうない」
戦車が前進不可能となって、普通ならあきらめるところですが、クリント・イーストウッド、テリー・サヴァラスら不屈の男たちはあきらめません。
そこで知り合いの工兵隊長を半ば脅迫して架橋を強要します。
分け前を聞かされてその気になる工兵隊長ですが、ベイリー・ブリッジはあっても、兵員不足でいかんともしがたし。
そうなのです。ベイリー・ブリッジは、橋の部品を運ぶにも、組み立て作業そのものにも、たいへんな人手が必要なのです。そもそも人海戦術を前提として設計されているものですから。
策に窮した工兵隊長の目にうつったのは……
いやいや、これもけっこう奇想天外。
要は軍隊なんて頭数だよなと、妙に納得いったものでした(ぜひ映画をご覧ください)
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