未発売映画劇場「殺しのカルテ」

前回は日本での劇場公開が(ほぼ)決まっていたにもかかわらず、けっきょくは上映されず、それきり幻の映画となった「宇宙船02」のことを書いたが、じつはもう一本、同じような境遇の映画を知っている。これもまた、有名ミステリ作家がらみだ。

その映画は「殺しのカルテ」(THE CAREY TREATMENT)1972年の作品。

この映画のことを、私が初めて知ったのは、まだ中学生だったころ(だから1970年代の前半かな?)、FMラジオの映画音楽番組でだった。当時、レギュラー枠で毎週一回、いろいろな映画の主題曲を流しては、その映画の紹介をするという番組があって(関光生さんの声が懐かしい)、そこでこの「殺しのカルテ」の曲が流れたのだ。

まずは「殺しのカルテ」というタイトルのカッコよさが気に入った。次に主演がジェームズ・コバーンだと聞いて、関心が高まった。「荒野の七人」「大脱走」「電撃フリント」などの、クールでスリムでダンディなコバーンは、当時の(いや今もだが)私が大好きな俳優だったからだ。

すぐにラジカセの録音ボタンを押した。そのころの中学生は、みんなラジオ付きカセットレコーダー、略してラジカセを持っていて、ラジオで流れる音楽などを録音しては楽しんでいたのだ。この遊びを「エアチェック」と呼んだりしていた。

予想通り、流れてきた「殺しのカルテ」は、なかなかカッコイイ曲だった(作曲はロイ・バッド) たぶん私の家のどこかに、現在でもそのカセットは眠っているはずだ。

ジェームズ・コバーンの出ている映画は何でも見たかった時期だったので(いや今もだが)、その後もテレビや名画座でめぐりあうことを期待していたが、ついぞその機会はなかった。

やがてなんかの雑誌で、監督がブレイク・エドワーズであることを知り、ますます見たくなった。「グレートレース」や「ピンクパンサー」で、すっかり好きになった監督だった(いや今もだが)のだ。ますます見たくなるじゃないか。

それからしばらくして、今度はこの映画に原作があることを知った。

原作はジェフリイ・ハドソンの『緊急の場合は』というミステリ小説だった。ええっ、そうだったのか! というのも、ハドソンはマイクル・クライトンのペンネームで、当時『アンドロメダ病原体』ですっかりクライトン作品を気に入っていた(いや今もだが)私は、とっくの昔に『緊急の場合は』(当時はポケミスで出ていた)も読んでいたからだ(アメリカ探偵作家クラブ賞の受賞作でもあった) ちなみに、クライトンが『ジュラシック・パーク』を書いたのは、これよりもずっと後のことだ。

こうした過程のどこかで、私は「殺しのカルテ」が、日本ではついに上映されなかったことを知った。

話しは1972年にさかのぼる

当時、「殺しのカルテ」の日本公開は決定していた。だから、こんな活かした邦題もついていたのだ。雑誌などに予告情報も出て、宣伝用のチラシも完成していた(これもけっこうあちこちで目にした。いまでもネットで見ることができる。けっこうカッコイイデザインだ)あとは劇場にかかる日を待つのみ。

ところがここで、配給する予定だったMGMの日本支社が閉鎖になった。

この事件のおかげで、私たちの世代の映画好きは、ずいぶん辛酸をなめたものだ。これ以前のMGM映画の名作が、ほとんどすべて劇場で見られなくなったからだ。(その代表格が「2001年宇宙の旅」だった)

そして、公開寸前だった他の作品ともども、「殺しのカルテ」もオクラ入りになってしまったというのだった。

まあそれはそれで仕方がない。だが不可解なのは、その後、テレビ放送にもかからず、あの百花繚乱のレンタルビデオ時代にも、いまの衛星多チャンネル時代にも、この「殺しのカルテ」が、私の目の前に姿を見せなかったことだ。

映画の権利関係は、時に非常に複雑怪奇なことになり、そうとう知名度のある映画でも「幻」になってしまうことが、多々ある。「殺しのカルテ」も、そうした渦に巻きこまれたのだろうか。

だが、アメリカではこの作品、どうやらDVDにはなっているようだ。

買ってみようかな。

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