007記念週間 怪物悪役の世界

007映画の見どころのひとつに、悪役がある。重量感のある俳優たちが、敵としてボンドの前に立ちふさがるのがシリーズ最大の魅力のひとつなのだ。

ドクター・ノオを演じたジョゼフ・ワイズマンを第1号に、ゲルト・フレーベ、ドナルド・プリーゼンス、テリー・サヴァラス、クリストファー・リー、クルト・ユルゲンスといった名だたる名優たちが次々と登板して、ボンド氏の心胆を寒からしめ、われわれを楽しませてくれた。

だが、私が好きなのは、彼ら悪のボスたちだけではない。

ボスたちはもちろんボンドを苦しめるのだが、そのボスの配下でより直接的にボンドを攻撃するのが、いわば脇悪役ともいうべき連中。そして、その脇悪役たちが活躍した作品ほど、面白い映画になっている。

ざっくり言うと、知的に、頭脳的に作戦を立て、世界に挑戦しようとするのが主悪役たちで、肉体的に強固で、物理的にボンドを苦しめるのが、脇悪役のお仕事。そのために肉体的に異形で、強い印象が残るキャラクターが多い。

いちばんに思い浮かぶのは、「ゴールドフィンガー」で強烈な印象を残したオッドジョブだろう。主悪役のオーリック・ゴールドフィンガー(ゲルト・フレーベ)に付き添う用心棒兼殺し屋の東洋人。途方もない体の頑丈さと、ゴルフボールを握りつぶす怪力が武器で、鋼鉄の縁の山高帽子を投げつけるのが必殺技。クライマックスのボンドとの肉弾戦は、映画史上に残る名場面だ。演じたハロルド坂田は日系ハワイ人のプロレスラーだが、これ一作で世界的有名人になった。

次いで、先日亡くなったリチャード・キールが演じた鋼鉄の歯の巨人、ミスター・ジョーズ。ボンドを苦しめ、悪の主役たる大富豪カール・ストロンバーグ(クルト・ユルゲンス)をすっかり食ったわけで、シリーズ史上唯一、「私を愛したスパイ」「ムーンレイカー」の2作品に登場したのは、前に別項で書いたっけ。

もう一人、私のお気に入りは「死ぬのは奴らだ」に出現した鋼鉄の義手の怪物ティーヒー。長身、スキンヘッドの黒人で、嬉しそうにボンドを痛めつけるんだが、その笑顔が不気味でいいんだよね。ドクター・カナンガ(ヤフェット・コットー)の忠実な部下で、演じたのはジュリアス・ハリス。ラストの列車での死闘は忘れがたい。右手が義手なのだが、その理由が「ワニに食われたんだ」とはややマヌケだけど。その相棒というか、やはりカナンガの部下で、ブードゥーの死神・サムディ男爵(ジェフリー・ホールダー)も良かったね。

そのほかにも、「ダイヤモンドは永遠に」に登場したホモっぽい殺し屋コンビ、ミスター・ウィント(ブルース・グローヴァー)&ミスター・キッド(パター・スミス)、「黄金銃を持つ男」の小人の従者ニック・ナック(エルヴェ・ヴィルシェーズ)、「オクトパシー」のタイガー・ジェット・シンみたいなインド人の殺し屋ビジャイ(ビジャイ・アムリトラジ)、「美しき獲物たち」の女怪物メイデイ(グレース・ジョーンズ)らが、その怪物ぶりで記憶に残っている。

そういえば「ロシアより愛をこめて」のタフな殺し屋レッド・グラントは、演じたロバート・ショウがのちに出世したために主悪役あつかいされることが多いが、じつはこっちのジャンル。主悪役はスペクター幹部のローザ・クレッブ(ロッテ・レーニャ)のほうだろう。だが、その後「バルジ大作戦」「ジョーズ」などですっかり主役級にのしあがったロバート・ショウの陰に隠れる形になったのは、惜しまれる。じつは女性でシリーズの主悪役をつとめたのは、彼女だけなのだ。

そんな脇悪役たちだが、「ゴールデンアイ」のサディスティックな女殺し屋ゼニア・オナトップ(ファムケ・ヤンセン)を最後に、この手の怪物たちがあまり出てこなくなったのはさみしい限り。ダニエル・クレイグ時代になってシリーズはかなりリアリズムタッチを強めてきているので、これからもあんまり期待は持てないかもしれない。

と、ここまで書いたところで、昨日流れてきたこんなニュース。

『007』最新作の悪役にWWEのデイヴ・バウティスタ!

知らない人にはさっぱりだろうが、世界一のプロレス団体WWEのスーパースターの一人、「バティスタ」のリングネームで知られる大物レスラーの出演が決まったというのだ。日本で試合をしたことはないが、TVでチェックしているファンにはおなじみの存在。筋肉隆々の怪物レスラーなので、まさに今回取り上げた脇悪役の系譜に連なる存在になるだろう。新作の楽しみが、またひとつ増えた。

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