旅行でとらぶる(6)シグナル8の洗礼

香港には何度も行きましたが、200×年に行った時に、はじめて台風に遭遇しました。

地理を見ればわかるように、香港にはしばしば台風が襲来します。まあ短期間の滞在しかしないわれわれ旅行者が、そいつにぶつかることは滅多にないんでしょうが、さすがに何十回も行ってると、こんなこともあります。

さてさて、この時はすでに子連れ旅でした。

香港ではいつも行く「海洋中心(オーシャン・センター)」というショッピングアーケードのデカいのがあります。

旅客船などがつく大規模なターミナル桟橋に沿って出来ている巨大なビルで、上層階はオフィスが入り、下層階には多くのブランドショップが並んでいます。けっこう中は広く、また複雑に入り組んだ通路が走っていて、センター内で道に迷うこともあるくらい楽しい場所。香港を訪ねたときには必ず一度は訪れたものです(いまもあるらしい)

目当てはもちろんブランドショップ……ではなくて、安直に喰えるレストラン(上階のオフィス向けなので、わりと安価)や、当時の香港にはまだまだあった安売り店、そしてレーザーディスクなどを大量に売っているアヤシイ店舗など。

そしてここには日本でもおなじみの、あの巨大玩具店が入っています。

息子がまだまだ幼い時だったので、やはりオモチャは必須アイテム。この旅行の時にも、何度かここを訪れたものです。

さてこの時も昼食を終えて、さあ玩具店へと、センターに入ったところ、突然あたりの空気が変わりました。

この日はウィークデイだったので、あたりにはビジネスマンがウジャウジャいたのですが、にわかにそれらの人々がセンターから出ていくのです。人の流れの方向が一変して、ゾロゾロッとセンターの外へ。

さらに、あたりの店舗が次々と店を閉じはじめました。まだ昼間なのに。

なんだなんだ、何事だ?

やがて、館内放送とともにあちこちに掲示がされはじめました。

シグナル8発令!

香港では台風警報に段階がついています。

危険が少ないほうから順に、シグナル1、シグナル3、シグナル8、シグナル9、シグナル10の5段階。なぜシグナル2や5から7が欠番なのかは知りません

現実的にはシグナル9や10が発令されることはまずないので、シグナル8は事実上その最上級の警報なのです。

シグナル8が発令されると、学校は全面的に休校、会社も出勤免除扱いになります。もちろんお店も全部クローズ。証券取引所も警報解除までは取引中止。

またスターフェリーや2階建てトラムなど、地下鉄以外の交通機関もストップします。

早い話、香港全土が活動を停止し、じっと台風をやり過ごすわけです。

かろうじてそんな知識があったわれわれは、急ぎ宿泊していたホテルへ戻りました。幸いなことにオーシャン・センターからは至近距離のホテル。

無事に帰りついて、ホテルの窓から外を見ると、見る見るうちに黒雲が広がったかと思うと、猛烈な風と雨。

窓から外を見ると、まさに車軸を流すような土砂降り。さすがに亜熱帯気候での大雨は日本とはケタが違います。

ホテルは繁華街に面した立地だったので、ふだんは窓の下の街路を人や車がせっせと行き来するのですが、さすがにこの時はほぼ無人。

子供のころに経験しませんでしたか。嵐や大雨を窓から眺めるのって、ワクワクしたもんです。息子とともに、窓に張りつくようにして、この猛烈な風雨をたっぷり楽しみました。笑い事じゃないんだけど。

ところで香港には「李氏力場(Li - field)」という都市伝説みたいなもんがあります。

台風が直撃してシグナル8が発動すると都市活動がマヒしてしまう。経済都市・香港には大きな痛手。

そこで乗り出すのが、香港ナンバーワンの大富豪・李嘉誠

李氏が、超能力だか超科学力だか超経済力だかを発揮して、香港全土にバリアを張るというのです。

するとあら不思議、直撃コースをひたひたと進んでいた台風が突如方向変換して、香港を立ち去るのであります。

これぞ香港最強の「李氏力場」

実際に過去、幾多の台風を退けてきたというこの「李氏力場」ですが、この時は効果を発揮しなかったようですね。

李氏がたまには自分も休みたくてサボったのか、たまたまシンクロ率が悪かったのか、いやいやたぶん海外にでも行っていて香港にご不在だったんでしょうね。

こうして「李氏力場」を突破した台風を、ホテルの窓から鑑賞するという、まことに贅沢かつ面白い体験をできたわけです。

ただ、そのうち不安になってきました。このままだと晩飯が喰えないんじゃなかろうか。

宿泊していたホテルは小さくてロクなレストランもついてないし、飲食店はみな休業。だいたい外に出るのもはばかられるようなこの天気だし……下手すれば夕食抜きだなこりゃと覚悟したもんです。

案ずるよりも生むがやすし。

夕方には台風一過。なにごともなかったかのように雨は上がり、香港の町はたちまち活動を再開していました。おかげでフツーに夕食もとることができましたとさ。

さすがは不夜城・香港!

これより数年後、今度はアメリカですんごい悪天候にあった話は、また今度。

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