ジャッキー・チェンと勝負する(42)

1982年の「ドラゴン特攻隊」の登場。このシリーズではたぶん初めての台湾映画。

いや、日本公開時に見たときもそう思ったんだが、今回ひさびさに見直してみて、あらためてこう思った。

なんじゃこりゃ?

とにかく、破天荒というか、大胆不敵というか、やりっ放しというか、いいかげんというか、バカバカしいというか……

オープニングでいきなり「ワイルド・ギース」(1978年のイギリス映画)のテーマ曲が鳴り響くというパクリ感全開のスタート。

ざっくり紹介すると、「第二次世界大戦中、連合軍の将軍4人が、莫大な軍用金とともに捕まり、日本軍の捕虜になる。上層部は彼らの救出と軍用金奪還を腕利きのドン中尉に命じる。中尉は札つきのならず者を集めて特攻隊を組織し、敵地へ潜入するが、その作戦には裏があったのだ!」とこうなる。

いやいや、これほど映画の実態を伝えていないあらすじもないな。

まあ、「特攻大作戦」や「特攻ギャリソンゴリラ」みたいな特殊部隊もの、もっといえば「七人の侍」や「荒野の七人」といった名作のパターンを踏襲した(しようとした)アクション戦争映画(を志した)作品だが、そもそも真面目に作ろうとしたのかも怪しいくらい、破綻している。

捕虜になる連合軍の将軍がアメリカ軍、イギリス軍、フランス軍とアフリカ軍(?)の将軍だし、将軍たちの軍服はひと時代前のものだし、日本軍はつかまえた捕虜をなぜかルクセンブルクに収容しているし、日本の軍人日本語ヘタだし、だいたいこの場所どこなんだよ、なんてのはマシなほう。

いきなりミュージカルになったり、マカロニウェスタンになったり、アマゾネスが襲ってきたり、キョンシーが出たり、マッドマックス+サムライ軍団と対決したり(しかも指揮官はナチス親衛隊)と、もうどっちを向いていいやらさっぱりわからないうえ、コメディなのかと思えば悲壮感漂ったりと、早い話が支離滅裂のゴッタ煮。

そんなどーしよーもない映画に、なぜかジャッキー・チェンが出ているのも不思議。すでに人気スターだったのに。

だが、そこは、この映画のリーダー(ドン大尉を演じてもいる)がジミー・ウォング(王羽)であることを思えばなんとなくわかる仕組みだ。うん、サモ・ハン以上にジャッキーが逆らえない(ジャッキーだけじゃないと思うが)「大兄」なんだよ、ジミー・ウォングは(詳細は自粛)。

ということで、ジミー兄貴に言われてしぶしぶ出演した(推定)ジャッキーだが、スケジュールの都合か、出演シーンはあまり多くない。この時期は、アメリカに行ったり、「プロジェクトA」を撮影したりで、けっこう多忙だったはずだからね。

この映画でのジャッキーは、特攻隊の面々が行く先々で、ちょろちょろ出てきては、アクションを披露するだけの風来坊役。上記したあらすじには一秒たりともからんでいないのだ。

そのわりには、ラストの一大アクション(火薬大量使用)にはきっちり参加し、あまつさえ、ラストをさらうのだから、けっこう美味しい役回りではある。まあこんな映画で美味しいところを取っても一文にもなっていないだろうが。

いっぽうで、仮にこの映画にジャッキーが出ていなければどうなったか。

そりゃあ、日本で公開されることもなかっただろうし、そもそも製作されていたかどうかすら怪しい。ジミー・ウォングの「顔」と、それを活かしたジャッキー出演があってこその三文映画だったわけだ。

じっさい、このズンドコな映画のDVDが、廃盤にもならず、500円映画落ちもせず、いやそれどころかブルーレイにまでなっているのも、すべてジャッキーが出ていればこそだ。

ジミー大兄をはじめとする製作側の作戦成功なんだな。映画の出来ばえはともかく。

と、酷評してしまったように見えるだろうが、じつはこの映画、そうしたツッコミどころを承知のうえで見てしまえば、意外に面白い。

そしてさらに意外なことに、そこにジャッキー・チェンがいなくても、たぶんこの「ドラゴン特攻隊」のそうした面白さ(なのか?)は、変わらなかったと思うんだよ。まあそうなってたら、そもそも見ないだろうけど

あと、のちに大女優となり、ジャッキーとの共演も多いブリジット・リンが非常に凛々しく奮戦するのは、ちょっとした見せ場ではある。たぶんこのときが初顔合わせだっただろうから、この2人の「縁」をとりもっただけでも、「ドラゴン特攻隊」には価値があったと言っておこう。

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