エジソンの逆襲
たまには真面目な映画の歴史の話でも(笑)
最近、とんと映画館に行かなくなりました。
かといって映画を見なくなったわけではなく、相変わらず、せっせと変な映画を見てはいます。ただし、映画館で見ていない(そもそもそんな映画、日本の映画館ではやっていない) ではどうやって見ているかというと、DVDやブルーレイディスク、そしてネット配信(YouTubeとかもね)
こういう話はよく聞くんですが、そうすると大概あがってくる声が「映画は映画館で見なくっちゃ」
そうですね、むかしは私も、「映画はスクリーンに映してみてなんぼのもので、テレビなんかで見るのはあくまでその代替」とか思ってました。
でも、ちょっと待てよと、ある時思い至ったのです。
「映画は映画館で見るもの」って、ほんとにそうなのか?
そこでちょっと映画の創成期を振り返ってみましょう。
映画史のスタートは19世紀後半。そのころに実用化されていた写真技術を応用して「動く写真」を作るテクニックはいくつか試みられていました。
それらを総合して初めて実用化したのが、「発明王」トーマス・エジソン。彼のキネトスコープが一般に公開されたのは1893年で、こんな感じのものだったそうです。【画像はwikiより。以下同】
これをさらに改良し、スクリーン投影式に改めたのが、フランスのリュミエール兄弟で、彼らの開発したシネマトグラフ・リュミエール(カメラや映写機、プリンターを複合させたシステム)は、1895年3月のパリの科学振興会で初公開され、同年12月28日にパリのグラン・カフェで有料の試写会が開かれました。
こんなシステムだったらしい。
この時に公開された最初期の映画は、「ラ・シオタ駅への列車の到着」(画面内に進入してくる汽車を見て、観客が逃げ出したという逸話が有名)や、「工場の出口」など、計12作品。ようするにこれが「映画館の始まり」とされ、映画史のスタートといわれているわけです。
ちなみに日本では、1896年12月に大阪でエジソン社製の「ヴァイタスコープ」による試写が行なわれたらしいが、普通は1897年1月に京都で開かれたシネマトグラフの上映が最初とされています(このへんは諸説あります)
その後は、興行的な要求に合致していたこともあって、このスクリーン投影式が「映画」の主流となり、世界中に普及しました。
ということで、「映画の発明」の栄誉は、おもにリュミエール兄弟のものとされてきたわけです。
で、その後約1世紀、誰しもが「映画」といわれて思い浮かべるのは、暗い劇場でスクリーンに投影されるものになりました。「映画は映画館で見るもの」となったわけですね。
でも、じつはこれ、ほんとうは第2次世界大戦の後くらいには、もう崩れていたんですよ。テレビの誕生でね。
そう、「動く写真」でドラマを見せるものとして「映画」を定義すると、ほぼその最初から映画館でなく各家庭で「動く写真のドラマ」を見せてくれるシステムだったテレビは、「映画館で見ない映画」だったのです。
もちろん、そこに画像のクオリティなど様々な問題があったので、すぐに映画の主流にはならなかった。日本でも映画館用の映画を作る連中はテレビとの差別化を図るべく、映画館用の映画を「本編」などと呼んでいたそうですね。あくまでテレビは映画館の縮小バージョンだったわけです。
さらにいうなら、テレビはまだ各家庭に普及したとはいえ、家族など多人数で見るのが普通。そして、放送という公共度の高い媒体を使用するので、厳密にパーソナルな見方をできるものではありませんでした。たぶん、だからこそ「テレビ」は「映画の代替」のイメージを背負っていたのでしょう。それは今日でも根強く残っている感覚の正体ですね。
ところが、1980年代くらいから、ビデオソフトが普及しはじめました。これこそが「パーソナルに映画を見る」時代の始まりだったのです。
その後はご存じのとおり、ソフト媒体はVHSなどの磁気テープからレーザーディスク、DVD、ブルーレイディスクと変化し、それに伴ってレンタルの形態から販売主流、さらにはインターネットの普及によりネット配信へと進化してきました。
ここまでくると、ほぼ完全にパーソナルの世界。ご家族そろって茶の間で見ていた「テレビ」にくらべれば、PCやスマホで見る「ネット配信」は、完全に個々人が一人で見るパーソナルな見方なのです。
最近、こんな記事がありました。
ここで、エジソンのキネトスコープをもう一度見てみましょう。
ご覧のとおり、キネトスコープは、そもそも「個々人」が「パーソナル」に見る仕組みだったのです。
もちろんエジソンはPCもインターネットも考えていなかったでしょう。
だけど、こうして見ると、「映画の発明者」という玉座をリュミエール兄弟に譲った感もあったエジソンが、1世紀を経て、「映画」の主流の座に就きつつあるようです。
ほーら見なさいと、エジソンが天国で笑っているかどうかは知らんがね。
ちなみに、最初期の映画を味わうには、映画館に行かなくても、いまではこんな手段もあります。【画像のリンク先はamazon.co.jp】
活弁つきの映画を家で一人で見られる。良い時代になったもんだね。
映画つれづれ 目次
【2019/2/25】 今日発表された米アカデミー賞で、NETFLIX配信の「ROMA / ローマ」が、監督賞、外国語映画賞などを受賞した。ほーら、映画を映画館で観る時代は終わりかかっているんだと思うよ。
【2019/3/19】 TOHOシネマズが料金値上げに踏み切るというニュース。
TOHOシネマズが鑑賞料金を値上げ 一般1900円に 2019年3月18日 15:15
記事より引用>改定後は、現在1800円の一般鑑賞料金が1900円に。1100円のシニア、ファーストデイ、レディースデイ、TOHOシネマズデイは1200円、2200円の夫婦50割引(2人で)は2400円となる。大学・高校・中学・小学生、幼児、レイトショーの料金改定はなく、12月1日の「映画の日」は現行料金の1000円で実施される。
いろいろ手段は講じられているが、値上げは値上げ。これで、映画館でお金を払って映画を見るのは、ますます特別なことになっていくだろう。
「映画は映画館で観る時代」が、終わりに向かってまた一歩進んでいくようだ。
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