見出し画像

意味不明カタカナ邦題の世界

何かの話から、「ジョギリショック」という言葉を思い出した。

これだけで何のことかわかる人は、仲間だね。

はい、「サランドラ」って映画の関連話です。覚えてますか、この映画?

1977年にアメリカで製作されて、そのあんまりにも凄い描写に全米がドン引きしてカルト映画化したホラームービーです。ウェス・クレイヴン監督の出世作。個人的な見解では、「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」「悪魔のいけにえ」「ハロウィン」「13日の金曜日」「エルム街の悪夢」などと並ぶホラー映画のマスターピースのひとつですね。

ただ、前記したマスターピースの諸作とくらべると、やや知名度が落ちるのが現実。その原因が、「ジョギリショック」です。

この映画、1977年の製作ですが、日本公開は7年も経った1984年。世の中がスプラッター映画のブームになってからでした。ほんとはその先駆けだったのに。そのため出し遅れの証文になりかねなかったこの作品の配給を手がけたのが、かの悪名高い(笑)東宝東和でした。

いささかの旧作。しかも後発の流血量の多い諸作に較べると地味かもと危惧した東宝東和が出した必殺技が「ジョギリショック」

ジョギリってのは、映画のなかで殺人鬼が振るう、ノコギリ刃のついた巨大なナイフだ! ポスターでもどんと中央に配し、試写会場には大きなジョギリを振り回す怪人が乱入したとか(残念ながら私は見ていない)

ダウンロード (14)

この手のハッタリと見世物小屋的な側面は、映画という娯楽にはつきものだろう。大なり小なりどんな映画の宣伝にもあるものだ。問題ない問題ない。

問題があるとすれば、この「サランドラ」という映画には「ジョギリ」なんてものは一切出てこないってことだろう。それじゃダメじゃん(笑)

まあ、今では笑い話のような「ジョギリショック」だが、もうひとつ後世に突っ込まれまくることになるのが、この「サランドラ」という邦題だ。誰か教えてください、サランドラって、何語? なんて意味?

「サランドラ」の原題は「THE HILLS HAVE EYES」 なかなか含みのある、怖さ漂うタイトルのような気もするが、まあわかりにくいね(映画を見たあとでなら、ピンとくるんだが)

ホラーとかSFというジャンルには、こうした「意味不明カタカナ語」がしばしば出現する。もちろん、もともとの原題が造語だったり、日本人にはピンと来ない単語だったりしてそうなるのがほとんどだが(例:「ソイレントグリーン」「アンドロメダ…」「シャイニング」ほか)、テキトーなカタカナ語が見つからないまま、日本で独自に作ってしまうことも多い。

古い例では「バーニング」がそうだったし、いま話題の「オデッセイ」もそのカテゴリだろう。500円映画には今でも多いですね。「グリード」とか「ジュラシック・レイク」とか「ヘル・ファイヤー」とか(他多数)

だが、さらに一歩踏み込んで、そもそもそんな言葉ないぞ的な造語に突っ走った例が、じつは1980年代のスプラッター映画ブームのころにぞろぞろッと発生したのです。

先鞭をつけたのは、1980年公開の「サンゲリア」でしょうね。オシャレなお酒の名前とも似ているが、もともとのタイトルは「THE ISLAND OF THE LIVING DEAD」だったが、ジョージ・A・ロメロの「ゾンビ」がヒットしたのですぐに「ZOMBIES 2」に変身したりもしてるマカロニホラーの傑作だ。でもなぜか邦題は「サンゲリア」 まあなんとなく凄みがある気もするが、意味不明だよな。

画像2

これに続いたのが、1981年の「DEAD & BURIED」 「死んで埋葬された」というのは映画そのものの内容をよく表わしてはいる(ゾンビものです)が、まあ素人が見てもパンチに欠けるわな。

そこでついた邦題が「ゾンゲリア」 意味不明邦題の「サンゲリア」にゾンビを強引にプラスした結果、もはや意味とか考えようもない言葉になってる。おまけに「サンゲリア」は東宝東和の考案だが「ゾンゲリア」を出してきたのは日本ヘラルド。パクリじゃないか(笑)

画像3

ということで逆襲に転じた東宝東和が、さらに上を行く意味不明邦題を炸裂させたのが1986年の「バタリアン」 原題は「THE RETURN OF THE LIVING DEAD」コンセプト的には「ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド」の後日談という怪しげなものだが、この邦題は大ヒット。のちにこれをもじった「オバタリアン」というマンガがヒットして普通名詞化してるんだから、ここまで来ると、けっこう大したもんだ。

画像4

そんな時流に乗って放たれた「サランドラ」でしたが、けっきょく大ヒットとはいかず、一部の好事家が「あれ面白いよ」と囁いているだけの作品に終わりました。

ただ、本国アメリカではそれなりの知名度があったので、1985年に続編「サランドラ II」が作られましたが、前作ほど強烈なインパクトは残せませんでした。日本でも劇場未公開のビデオ発売のみにとどまったのも、まあ無理はないかと。

そして、21世紀になってから、フランス人監督のアレクサンドル・アジャがなぜかこの作品をリメイクしました。2007年に日本でも公開されましたが、当然のように邦題は原題そのままの「ヒルズ・ハブ・アイズ」でした(こちらの続編もあり)。

1980年代には、まだ映画は宣伝部の気合いと根性と思いつきで売ることができた、古き良き時代だったというむかし話でした。

  映画つれづれ 目次

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?